266 ヤルモ家族1
アルタニア帝国を救ったヤルモたちは、共に戦ったオスカリパーティと別れて数日……いくつもの町を経由してユジュール王国との国境にある町、ルオスコに辿り着いていた。
操り人形となっている皇帝から国境を素通りできる書状は受け取っていたのだが、今日は国境を越えずにここで一泊。気持ちを落ち着かせるために、ヤルモはイロナの性的暴力を受けてから眠りに就いた。
そして翌日、ユジュール王国の国境の町、ビサブオリへと向かう。
心配した国境越えは、皇帝の書状にヤルモたちが魔王を倒した英雄と書かれていたから、アルタニア兵から感謝されて通ることになったので、ヤルモとしては逆に居心地悪そうにしていた。
しかしそのおかげでほとんど素通りでユジュール王国、ビサブオリに入国した。
こちらでもヤルモたちの顔を覚えている兵士にどうなったかと聞かれたので、オスカリたちと共に魔王を倒したと教えてあげたら、英雄みたいな扱いをされて居心地が悪そうにしていた。
そこでヤルモは家族について尋ねたら、ビサブオリに留まっているとのこと。詳しく聞くと、ヤルモ家族は国賓待遇で扱われることが申し訳なさ過ぎて、この町の農家を手伝っているらしい。
なので、家族の滞在場所を聞いて二人で行こうとしていたが、兵士から馬車を用意すると言われて、渋々乗り込んで送ってもらっていた。
ヤルモ家族の滞在場所は、こじんまりした一軒家。本当は領主邸の一室を与えられたらしいが、居心地が悪すぎて泣き付いたらしい。
その家には、ヤルモの親族であるヘイモという弟の妻と子供しか残っていなかったのでしばらく待つことになったから、ヤルモは観光するとか言って外に出ていた。
ヤルモとしては、弟の嫁と子供を見るのが長男として堪えるようだ。
ヤルモとイロナは町をブラブラと歩き、買い食いしたり宿を取っていたら日が暮れて来たので、頃合いかと思い、家族の元へと向かった。
「ヤルモ……おかえり」
そこで表に出ていた母親と目が合い、声を掛けられたのでヤルモの目が潤む。
「お袋……ただいま……うぅ……ただいま……」
実家ではないが、母親からの出迎えの言葉に、ヤルモは幼き日を思い出して自然と涙がこぼれてしまった。
「なに泣いてんだよ。ほら? みんな待ってたんだから、早く入りな。イロナさんも、汚い所だけどゆっくりして行ってね」
母親は借り物の家なのに汚い所とか言っているけどヤルモはツッコめず。イロナと共に中へと通された。
「さあ、ヤルモの好物いっぱい用意したよ。いっぱい食べていっぱい話をしましょう!」
どうやら母親は、ヘイモの妻からヤルモが戻ったと聞き付けて急いで料理を作り、いまかいまかと玄関で待っていた模様。
そのことは告げずに、ヤルモとイロナを大量の料理と家族の揃う広い部屋に連れ込んだのだ。
ヤルモは久し振りに会った家族に何から話をしていいかわからずに、とりあえず豆が浮かぶスープをすすってみたら、また涙。お袋の味は忘れられなかったようだ。
そこからは、家族が大笑いで「うまいだろう」とか言っていたけど、ヤルモは「もっとうまい物を食べていた」と照れ隠し。そのせいで母親のテンションはダウン。
ただし、これは事実なので、家族から質問が来たら全て答えていたから、家族も「そんなメシ食いてぇ~」ってなっていた。村人では、冒険者のちょっとした贅沢がご馳走のようだ。
そんな感じで打ち解けていたら、料理はほぼ完食。思い出話のネタも尽きたので、母親はヤルモとの別れ際に聞いたあのことを質問する。
「あんた、魔王を倒しに行くとか言っていたけど、どうなったんだい?」
「ああ。もう大丈夫だ」
「本当のことだったのかい!?」
家族はヤルモの言葉は半信半疑だったらしく、この二ヶ月以上、悩んだり心配したりを繰り返していたらしい。いちおうアルタニアの魔王が倒されたという報告はあったのだが、勇者パーティと名を連ねていたことも信じられなかったそうだ。
「まぁ信じられないだろうな。俺も英雄扱いされるなんて、いまでも信じられないよ。でも、事実だ。魔王はホント強かったぞ」
ヤルモ家族に語る魔王討伐談。戦闘では勇者パーティと自分がイロナの補助に回り、そのイロナの勇姿を饒舌に語るので、家族は何がなんだかわからなくなっている。
ただし、魔王討伐までの苦労話は全てリアルに聞こえたようで、家族も半分以上は信じることにしていた。
「ホント、嘘のような話だね。こんな細っこい子が強いなんて……」
「これだけは間違いない。イロナが居なかったら、あの魔王は誰にも倒せなかった。本当の英雄は、イロナただ一人だ」
「フッ……そう褒めるでない。我はただ楽しんだだけだ」
「その楽しみ方がまた凄いんだよな~。イロナの戦う姿、めちゃくちゃ綺麗なんだよ」
話がイロナに行くと、さらにヤルモが饒舌に。近くで見ているとドン引きすることも多いのだが、そこさえ無くせばイロナの戦闘シーンは語り尽くせないのだ。
そんな話でイロナをよいしょしまくってイチャイチャしていたら、母親が話に割って入る。
「そういえばヤルモって、イロナさんと結婚してるんだろ? ちゃんと親御さんに挨拶に行ったのかい??」
「……え??」
「まぁこの子は!? そんな常識も知らないのかい!!」
イロナの妻設定は嘘なのだから挨拶に行くわけがないので、ヤルモは答えられず。そのせいで、ヤルモは母親からこっぴどく怒られ、家族からも人でなしと罵られるのであったとさ。