265 友情10
マルケッタが怒って帰った翌日、ヤルモとイロナは身支度を終えて食堂に顔を出した。
「おい、ヤルモ……ちょっと顔貸せ」
すると、オスカリたちに囲まれて、ヤルモは部屋の隅に連れて行かれた。
「なんだよ」
「だからよ~……やるなら音量を落とせ! 悶々としてまた眠れなかったんだよ!!」
「すんません……」
どうやら昨日はヤルモがイロナを攻め続けていので、エロイ声が漏れていたからオスカリは説教しているようだ。
「ちなみに、昨日はどんなことしてたんだ? ちょっとは聞かせろよ」
「謝っただろ。聞かないでくれよ」
「あの嬢ちゃんをヒーヒー言わせてるんだから気になるだろ~」
「もう、ただのエロ親父だな」
ヤルモが言う通り、オスカリパーティのその顔は、エロ親父にしか見えない。しかし、しつこく聞かれてもヤルモは答えられない。
「俺の命に関わることだ……お前たちの命もな!!」
「「「「「あ……」」」」」
というわけで、イロナを出して脅すヤルモであった。
それから朝食を済ませた一同は、馬車に乗って帝都の外へ。ヤルモたちがカーボエルテ王国に旅立つので、オスカリパーティとクラーラが見送りに来てくれたのだ。
「クラねえ……久し振りに顔を見れてよかったよ。俺のこと信じてくれたこともありがとな」
「何を言ってるのよ。やっちゃんは弟みたいなもんだから、お姉ちゃんは信じるに決まってるでしょ」
「弟か……実は俺、クラねえのことが好きだったんだぜ」
「そんなの見てたらわかるわよ。どうやって断ろうかと思っていたけど、まったく告白に来ないんだもの~。あはははは」
「うっ……なかなかチャンスがなくて……」
ヤルモはチャンスがなかったとか言っているが、実はヘタレなだけ。クラーラもそのことに気付いていたのでケラケラ笑っている。
「もうその話はいいだろ! 手紙の件、頼んだからな!!」
「あはは。わかってるわよ。もしもおじさん達が帰りたがっていたら、帝都に呼びなさい。ひと月は残ってるからね」
「ああ。何から何までありがとう」
ヤルモは握手をしようと手を出したら、クラーラは手を握って引き寄せ、抱き締めた。
「いい男になったわね。お嫁さんと仲良くするのよ」
「あ、ああ……」
初恋の人に抱き締められて照れたいヤルモだったが、思ったよりゴツゴツしていたから微妙な感じ。それと嘘をついたままなのでバツが悪いようだ。
「がっはっはっ。モテモテじゃねぇか」
クラーラとの挨拶が終わったら、次はオスカリパーティ。オスカリがからかって来たが、ヤルモは流す。
「これからアルタニアはどうなって行くんだろうな……」
ヤルモが遠い目をしてそんなことを言うと、ヘンリクが前に出た。
「大丈夫だ。皇帝陛下が膿という膿を吐き出してくださる。多少血が流れると思うが、それは悪政を好む王族と貴族の血となるだろう。平和になったあと、第7王子様が代替わりするから大丈夫だ」
「それ、本当に大丈夫なのか? どうもお前だけは信用できないんだよな~」
「最初に騙したことは謝っただろ。これもそれも、父が残したアルタニア帝国のためだ」
「でもな~」
「オスカリはもうヤルモのことを親友だと思っている。私たちも同じ思いだ。だから信用してくれ」
ヘンリクが真面目な顔で恥ずかしいことを言うと、オスカリパーティ全員が頷いた。
「わかった。お前たちのことを信じる。お前たちと親友になれたこと、誇らしく思うよ」
「「「「「お、おお~……」」」」」
ヤルモが心を開いたことで、オスカリパーティ全員感動している。それほど、ヤルモの心のシャッターは堅かったのだ。
それからヤルモは、オスカリパーティの一人一人に声を掛けながら胸にコツンと拳を当てて、最後の一人、オスカリの前に立った。
「しっかし嬢ちゃんは別次元だから置いておくとして、ヤルモもすげぇ強かったな。俺と張り合えたのなんか、前勇者のオッサンと仲間以外で始めてだ」
「んなに褒めても何も出ないぞ」
「わ~ってるって。ただ、もっと早く会いたかったと思ってな。そしたら一緒に切磋琢磨できて、嬢ちゃんにも勝てたかもしれない」
「お前……イロナに勝つ気かよ」
「たらればだ。お前ほどの男が近くにいたら、俺はもっと強くなってたんじゃないかとな」
「さすがは勇者様。志が高いね~。わははは」
「勇者様言うな。がっはっはっ」
ヤルモが茶化すとオスカリたちも笑う。
「そうだ。ヤルモたちはカーボエルテに報告が終わったらどうすんだ?」
「さあな~……自由気ままな冒険者稼業だし、適当にダンジョン巡りでもすっかな~?」
「行く宛がないならうちに来い。国王に口利いてやるぞ」
「カーボエルテからもお誘いが来てるからな~……ま、時間ができたら顔を出す。その時は、しこたま飲むから付き合ってくれよ」
「おっ……おお!! 朝までコースだ!!」
将来の職場は、優柔普段なヤルモでは決められないので濁したら、オスカリの顔が暗くなった。しかし、次の言葉では、パッと明るくなる。
少量しか酒を飲まないヤルモから酒のお誘いが来たので、オスカリは嬉しかったみたいだ。
「んじゃ、そろそろ……あ、そうだ。お前、ちょっとこっち来い」
別れの挨拶を終えようしたヤルモは言いたいことを思い出し、オスカリと供に離れる。すると、オスカリの驚く声が何度か聞こえてから戻って来た。
「そんじゃあ、また生きて会おう! 友よ!!」
「「「「「おお! またな~~~!!」」」」」
こうして大きな声で別れを告げたヤルモは、イロナと腕を組んで歩き出したのであった……
* * * * * * * * *
ヤルモたちの背中が見えなくなると、ヘンリクたちはオスカリを囲んでいた。
「最後、ヤルモと何を喋っていたんだ?」
ヘンリクの問いに、オスカリはコソコソと答える。
「俺たちだけの秘密ってことになっているから、おばちゃんに聞こえないようにしろよ? あのイロナって嬢ちゃん……奴隷館で性奴隷としてヤルモが買ったんだって……」
「「「「はあ!?」」」」
「声がでけぇ! 俺も信じられないけど、これ、マジらしい」
「「「「嘘だろ……」」」」
「でも、種族を聞いたら少しは納得するぞ。あのトゥオネタル族らしいから、あんなにアホみたいに強いんだと」
「「「「マジで!?」」」」
「だから声がでけぇって!」
最後にヤルモから小出しにされたイロナの情報に、オスカリパーティは驚き続けるのであった……
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オスカリたちと別れたそのヤルモはと言うと……
「なんだか嬉しそうだな」
ニヤニヤしているからイロナにツッコまれていた。
「まぁな~」
「故郷を救えたのが嬉しいのか?」
「まぁそうだな~」
ヤルモの気分がいい理由は、イロナの言う通り心残りだった魔王討伐もあるが、この歳になって友達が五人もできたことが嬉しいのだ。しかし、それを言うと恥ずかしいので多くは語らないヤルモであっ……
「そういえば主殿は、友達が一人もいないとか言っていたな。友達ができて嬉しいのか?」
「ち、違うぞ! そんなんじゃないからな~~~!!」
その答えはイロナにバレバレだったので、恥ずかしさのあまり言い訳を続けるヤルモであった……