253 アルタニアの勇者候補5
「やっぱりお肉は叩いて柔らかくしなくちゃね!」
オークジェネラル三匹を、大きな四角いハンマーでぺらっぺらにしたクラーラがウィンクしながら戻って来たら、ニコパーティは「さすがっす!」的なことを言いながら出迎える。
そんななか、オスカリとヤルモは驚き過ぎて口をあんぐり開けていた。
「おい……あのおばちゃん、どうなってんだ?」
「し、しらん……」
「お前より攻撃力なかったか??」
「だからしらねぇっつってんだろ!」
クラーラの攻撃力は、ヤルモ超え。スピードもヤルモより速かったので、オスカリは同系統のヤルモに意見を求めたようだけど、再会して間もないのでわかるわけがない。
「勇者様のお眼鏡に適ったかしら?」
二人で揉めていたらクラーラがやって来たので、肘で牽制してからヤルモが口を開く。
「只者じゃないとは思っていたけど、めちゃくちゃ強いんだな」
「あらやだ、そんなんじゃないわ。普通のおばちゃんよ~」
「どこが普通なんだ……」
クラーラがおばちゃんくさい仕草をしながら喋るが、どこの世界にそんな巨大なハンマーを振り回すおばちゃんがいるんだとヤルモ思っている。
その会話を聞いていたオスカリは、ヤルモが思い通りの質問をしてくれないので自分から聞く。
「おばちゃんの職業はなんなんだ?」
「職業? 私の職業は変なのよね。『戦おかん』って言うの。本当は戦乙女にクラスチェンジしようと思っていたのにね~」
戦おかんとは、ヤルモと同じくレア職業。戦士をしつつ多くの子供を7年もの間、必要以上にかまっていたらなれる職業だが、クラーラも偶然なったから知る由もない。
クラスチェンジの際にも、ヤルモと同じく間違ってクラスチェンジさせられたので最初は仲間に馬鹿にされたらしいが、さすがは戦おかん。拳骨で黙らせたらしい。
「なるほど……レア職業だから強いのか……ちなみにその大鎚はなんだ??」
「これ? これは偶然引き当てたレジェンド武器よ。ミートハンマーって言ってね。調理器具らしいわ」
「武器じゃねぇのかよ!!」
変な職業に続き、調理器具で戦っていたと聞いて、オスカリも限界。ついにツッコンでしまった。
そこで足が止まっていたことに気付き、ダンジョン攻略に戻って行った。たぶん、クラーラのことで疲れたのだろう。
皆が進んで行くと、最後尾ではヤルモとイロナが喋っている姿がある。
「なあ?」
「ん?」
「クラねえはかなり強いように見えるんだけど、いつものように戦いを仕掛けたりしないのか? あ、やらなくていいんだぞ??」
ヤルモは失言してクラーラが殺されそうとか思ったが、イロナは何やら首を捻っている。
「う~ん……なんだか殺る気が起きないんだ」
「イロナにしては珍しい……病気か? あいてっ」
「主殿だって立たない時があるだろ。それと一緒だ」
「うん。わかったからつつかないで。穴開くから。いてて」
イロナは指でツンツンしているだけのつもりだろうが、ヤルモの腕じゃなかったら、今ごろ穴だらけだ。
二人がイチャイチャ……ヤルモがイジメられていたらクラーラが下がって来て微笑ましく見ているので、ヤルモは気になったことを聞いてみる。
「こんなことを聞くのは気が引けるけど、その戦おかんってのは、ひょっとしてデメリットがあるのか? あ、言いたくないなら言わなくていいからな」
「あら? やっちゃんは鋭いのね。同郷のよしみで教えてあげたいんだけど、ごめんね。ま、あるとだけは教えてあげるわ」
「ああ。それだけで十分だ」
戦おかんのデメリットは、子供がいないとその力をフルに発揮できないこと。現在は子供のようにかわいがっていたニコたちがいることで力が発揮できている。
その気になったら自分の子供のことを思い浮かべるだけで力を発揮できるので、いまのクラーラは最強なのかも知れないが、そのことに気付いていない。
そのデメリットのせいでムラッ気があるから、イロナの強者センサーに引っ掛からないのだ。
「そういえばやっちゃんも、いい冒険者になったわね。ちょっとあっちでモンスターと戦うところ見せてくれない?」
「俺はいいよ」
「初恋のお姉さんのお願いよ~。あのこと言い振らすわよ~」
「それ、お願いじゃなくて脅しだろ??」
クラーラの脅しにイロナが興味津々となってしまったので、道を逸れて三人でモンスター退治。しかし、戦っているのはヤルモだけ。
「フフフ。そんなことをしていたのか」
「10歳ぐらいの時にはね~」
ヤルモは黒歴史を知られたくないがためにオスカリパーティから離れたというのに、クラーラはイロナに喋る喋る。
「おお~い。クラねえが見たいって言ったんだろ~」
それもヤルモの活躍を一切見ていない。
「そっち行ったぞ~」
たまにモンスターが二人の元へ向かっても、イロナとクラーラはお喋り継続。モンスターも見ずに、イロナは一刀両断。クラーラもミートクラッシャーでぺちゃんこ。
「もう戻るからな!!」
なので、ヤルモはキレ気味に本筋の道に戻るのであったとさ。