251 アルタニアの勇者候補3
「まぁいいんじゃないか? レベルを上げれば、戦力としては十分だろう」
ニコパーティは動けなくなるまでヤルモに攻撃を続けたが、息を切らすことすらできなかったので意気消沈。ヤルモが褒めているのに頭に入って来ないようだ。
「まぁチームワークもいいし、あいつらと比べればいいほうだな」
「あいつらは……ほら? 急造チームだったから……いや、その前が酷すぎたか」
イロナも褒めているのだが、クリスタたちを引き合いに出して酷い。ヤルモはさすがにかわいそうに思ってフォローしたがフォローになっていないので、遠いカーボエルテ王国ではクリスタパーティが同時にくしゃみをする事態となっていた。
その二人の会話を聞いていたオスカリは、気になることがあるらしくヤルモに寄って来た。
「あいつらって、カーボエルテの勇者のことか?」
「ああ」
「前々から気になっていたんだが、その勇者ってお前たちが育てたのか??」
「育てたっていうか……ダンジョン講座を開いたって感じだ」
「なるほど……」
たまに庭でクリスタたちの乱取りなんかをしていたから、ヤルモが勇者パーティを育てたと言っても過言ではないのだが、あまり言い過ぎるとクリスタの名誉に関わるといけないので、ヤルモはダンジョン講座で留めたようだ。
「じゃあ、こいつらも育ててみないか?」
「なんで俺が……」
「勇者の師匠なんて、箔が付くだろ?」
「そんな目立つ称号なんていらね」
「じゃあ、金を払う」
「マジで? ……あ、やっぱいいや」
金を貰えると聞いたヤルモは目を輝かせたが、テンション低く断った。
「なんだよ。お前、金に困ってるんだろ?」
「いや~……ちょっと向こうでいいか?」
イロナから十分距離を取ったら、ヤルモとオスカリはコソコソ喋る。
「イロナがな~……鬼なんだ」
「鬼? んなもんいつものことだろ」
「自分より強い敵を一人で倒せとか言うんだぜ? 絶対に勝てない敵に突っ込ませたり、死んで来いとも言うし……」
「マジか……」
「いま思うと、あいつ、よくトラウマにならなかったな」
「わかった! もういい! 俺たちがやる!!」
イロナブートキャンプの難易度に、オスカリもお手上げ。自分が見出だした者を再起不能にされたくないのであろう。
こうしてこの日の顔合わせは、ニコパーティが自信を無くして終了となるのであっ……
「さて……今日は賢者もいるのだ。久し振りにフルパーティで楽しもうではないか!!」
「「「「「ええぇぇ~……」」」」」
「主殿も……」
「俺を入れるなよ~」
勇者パーティプラスヤルモが甚振られる姿を見て、ニコパーティは恐怖におおのくのであったとさ。
「やっちゃん、強くなったね~」
顔合わせがお開きになり、イロナブートキャンプも終わったら、地面に倒れているヤルモの元へクラーラが寄って来た。
「ゼェゼェ……あんなんでわかるのか?」
「あの子、魔王かなんかでしょ? そんなの相手に最後まで立っていたんだから、わかるに決まってるわよ」
「いや、魔王じゃないんだけど……」
盛大な勘違いをしているクラーラの手を借りてヤルモは立たせてもらったら、もう夕方なので、全員で貴族邸の中へ。
ニコパーティは元々泊まる予定だったようだが、オスカリの計らいでクラーラも空いてる部屋に厄介になることになり、マルケッタも空いてる部屋に泊まることとなった。
そうして食堂では、疲れのせいで最初はお通夜のような夕食だったが、勇者パーティが復活してからはニコパーティを慰めてうるさくなる。
そんな騒ぎのなか、ヤルモはイロナを右隣に置き、左隣に座っているクラーラと喋っていた。
「ところでクラねえって、どうして俺を探していたんだ?」
「あっ!? やっちゃんの家族が大変なのよ……そうだ! そこの聖女様に連れて行かれたの!!」
どうやらクラーラは、アルタニア帝国を救った者の中にヤルモの名前があったので、別人の可能性があるのに、わざわざ家族のことを伝えに村を出てやって来たようだ。
「ああ~……その件は、もう大丈夫なんだ」
「どゆこと??」
「みんなアルタニアを脱出して、いまはユジュール王国に匿ってもらっている」
「その聖女様が許してくれたの??」
「いや、言いづらいんだけど……聖女は俺の奴隷になってるから、なんでも命令を聞いてくれるんだ」
「まあ!? やっちゃんも酷いことするようになったのね」
「これは仕方なかったんだよ~」
クラーラと会ったせいで、口調が子供の頃に戻ったヤルモ。これまでの大まかな経緯を説明して、自分に非が無いと納得させていた。
「そういえばクラねえは俺の冤罪を信じてくれてたんだってな。あ、ありがとう」
「ええ。やっちゃんがそんなことするわけないもの。あたしの裸を見ただけで顔を真っ赤にしていた子が、そんな非道なことできるわけないわ」
「そ、それは子供の頃の話だろ~」
ヤルモが照れながらお礼を言ったが、クラーラは子供の頃の話で茶化す。
「おお! 主殿は、どんな子供だったのだ?」
そこにイロナが食い付き、二人に挟まれているヤルモは居たたまれない。
「昔から木の棒を振って『強い戦士になるんだ~』とか言ってたのよ~。確かこんなことも言ってたっけ? 『俺の体は大切な人を守るためにあるんだ』とか」
「主殿……そんなこと言ってたのか?」
「やめてくれ~~~!!」
こうしてヤルモの黒歴史は、イロナにインプットされるのであったとさ。