244 第二回特級ダンジョン攻略2
「おお~。これはまた珍しい」
最終フロアに足を踏み入れたイロナは、蛇のような八つの頭と八本の尾を持つ巨大な四つ足のモンスターを嬉しそうに見ている。
「マジか……ヤマタノオロチなんて、伝説級のモンスターだぞ」
ヤルモはというと、攻略本にも一度しか記載されたことがないモンスターなので、そのレア度から鑑みてかなりの強敵と考えている。
「イロナって戦ったことがあるのか?」
「うむ。二度ほどな。たしか200階以降に出たはずだ」
「トゥオネタル族のダンジョンって、こっちの伝説を塗り替えそうだな」
規格外のイロナを育んだダンジョンは、人族の領域の伝説が揃い踏み。それどころか、もっと凄いモンスターが蠢いているのではないかとヤルモは息を飲む。
「さて……あいつをどうしてやろうか……」
珍しくイロナは戦闘方法を考えているので、余裕だと思っていたヤルモは不安になる。
「そんなに強いのか?」
「そこそこな」
「イロナが苦戦するって……」
「首が八本もあるから、全てを綺麗に斬り落とすのが難しくてな~」
「あ、そっちか」
ヤルモ、納得。ヤマタノオロチは八つの頭から属性違いのブレスを吐くと攻略本に書いていたので、イロナが一本の頭に集中したところに、残りの頭がブレスで邪魔をしたと察した。
「う~ん……試したいことがあるから、主殿も協力してくれ」
「いいけど……何をするか先に聞かせてくれない?」
「それは見てのお楽しみだ。主殿は、ただ耐えてくれたらいいからな」
「耐えるだけでいいなら……」
イロナはめちゃくちゃ楽しそうに笑っているからめっちゃ怖いヤルモ。しかし、いつものような無茶振りでもないので、少し安心するヤルモであった。
「さあ! 行け!!」
「おお!!」
いつもならイロナが真っ先に突っ込むのだが、今回はヤルモから。呪いの大盾を前に構えて、ドタドタと突っ込んで行った。
すると、ヤマタノオロチはヤルモにロックオン。遠距離から炎のブレスと風のブレスの同時発射。風で勢いの増した炎がヤルモを襲う。
「うおおおお!」
しかし、ヤルモは押し負けずにそのまま前進。真後ろに笑いが漏れているイロナがいるから、怖くて止まることができないのだ。
「では、行ってくる」
ヤマタノオロチに十分近付いてブレスが途切れると、イロナは後ろから飛び出して空を駆けて行った。
「どおりゃああぁぁ!!」
ヤマタノオロチの注意がイロナに行くと困るヤルモは、ヤマタノオロチの足に剣を振りかぶっての渾身の一撃。さすがはヤルモ。そのパワーは、ヤマタノオロチを後退させるほどの威力だったので、意識させるには十分だった。
そこからは、ヤマタノオロチの猛攻に晒されるヤルモ。八つの頭から属性違いのブレスが放たれ続け、大盾を上に構えて必死に耐える。
ブレス攻撃だけでなく、踏み付けや頭の打ち付け、噛み付きや尾の打ち回しも来るので、一瞬も気を抜けない。
しかし、直接攻撃はヤルモとしてはありがたい。ヤマタノオロチを崩し、いなして渾身の一撃が放てるからだ。攻撃は自分の体勢が崩れそうなのでやりたくないのだが、ヤマタノオロチの標的が外れないためにはやるしかない。
そのせいで、ヤマタノオロチのブレスが直撃するので、歯を食い縛って耐えるヤルモ。さすがは伝説級ということもあり、ヤルモにもダメージが積み重なるのであった。
一方その頃、イロナは空を駆け、とんでもない速度でヤマタノオロチの首に近付いて、一撃離脱。ヤマタノオロチは痛みが走ってイロナを探すのだが、すぐに離れて射程外に出ているので、ヤルモばかりを攻撃してしまう。
その隙を突いてイロナは一撃離脱を繰り返し、着実にヤマタノオロチにダメージが積み重なって行くのであった。
戦闘時間が長くなっているのに、ヤマタノオロチの頭は一向に落ちない。これではブレス攻撃が一切弱まらないので、ヤルモは楽ができないでいる。
「くうぅ~。イロナのヤツ、何をやってんだ。こんだけ時間を掛けてんだから、半分ぐらい斬り落としてくれよ」
そんな攻撃に晒されているヤルモは、すでにボロボロ。何本もポーションを飲んで、ヤマタノオロチの猛攻を耐えている。
そんななか、ヤマタノオロチの攻撃パターンが変わろうとしていた。
「終わった……いや、発狂か!?」
そう。ヤマタノオロチは残りHPが少なくなり、【発狂】に突入。八つの頭を一旦引いてからの、全ての頭から発射される同時無差別ブレスに突入したのだ。
「あ……なるほどな。それがしたかったのか」
だが、無差別ブレスは不発。ヤマタノオロチの頭は全て根本から切り離され、血を吹き出して空を舞ったのであった……
それはもちろん、イロナの策略。イロナはヤマタノオロチの首の根本にばかり攻撃し、斬りやすく準備をしていた。その力加減は絶妙で、全ての首に同じだけのダメージを与えることに成功する。
そして【発狂】の発動は、イロナの待ってましたのタイミング。ブレスを吐くタメの瞬間に凄まじい速度で斬撃を加え、八つの頭をほぼ同時に斬り落としたのだ。
「フフン♪ 八本の噴水は見物だな」
こうしてイロナは、ヤマタノオロチから吹き出す八本の血の噴水や頭が落下する様を見ながら笑うのであった……