241 帝都のその後5
宿泊場所の貴族邸を出た勇者パーティは、ヤルモを担いで繁華街へ。いまだ復興中なので本来の賑わいがないが、数件開店した酒場に冒険者や兵士が殺到しているので賑わっている。
一部の者は久し振りの酒なので、ハメを外して騒がしい。そこに勇者パーティの登場となったからには一段と声が大きくなり、さながらお祭りのようになってしまった。
「いいかげん下ろせよ!」
そんなことになっていては、体が痺れて身動きの取れないヤルモは胴上げされながらギャーギャー文句。リストとヘンリクが常に麻痺魔法を使い続けて途切れないから、逃げ出すこともできないようだ。
勇者パーティは一通り騒ぎ散らしたら、酒場の奥へ。店員以外は近付かないようにお願いして席に着く。
「おっしゃ! かんぱ~い!!」
「「「「かんぱ~い!」」」」
いつも通りオスカリの音頭で始まる飲み会。ヤルモに掛けられていた麻痺魔法は解除されたが、オスカリとトゥオマスが両隣に座っているから逃げ場がないのでチビチビやってる。
「俺の奢りなんだから、もっと景気よく飲めよ」
そんな飲み方をしていては、オスカリが絡んで来てうっとうしい。
「弱いわけじゃないだろ?」
「こういう人が多いところで飲むのは苦手なんだよ」
「苦手だ~? 大勢で飲むから楽しいんだろうが。よし! 俺が直してやる!!」
「直らねぇから。背中叩くなよ」
「こういうのは、全部喋って、酒と一緒に吐き出せば一発だ」
「だから背中叩くなって言ってるだろ」
オスカリは酒が入ると馴れ馴れしさがアップするのか、ヤルモの背中をバシバシ叩いて止まらない。こんなオッサンにまとわりつかれてうっとおしいヤルモは、仕方なく苦手な理由を語るのであった。
数十分後……
「「「「「………」」」」」
チーンッと、お通夜状態。そりゃ、ヤルモが三度も酒で失敗していたと聞いたら勇者パーティも何も言えない。普通の失敗なら笑って蹴散らしただろうが、そのあとに5年の服役がセットでは笑うこともできなかった。
「うっううぅぅ、ヤルモ、お前……苦労したんだな~」
「泣くな! くっつくな! お前もか! 気持ち悪いんだよ!!」
笑えなければ、泣くしかない。オスカリとトゥオマスがヤルモに抱きつくので、本当に気持ち悪いヤルモ。ただ、酒のお代わりを持って来た女性店員は、二人のオッサンがオッサンの取り合いをしていると思って微笑ましく見ていた。
「がっはっはっ! 笑っとけ! 笑っとけばなんとかなるって。がっはっはっ!」
「「「「がっはっはっ!」」」」
「泣くか笑うかどっちかにしろ! この酔っ払いどもが!! プッ……」
早くも笑い出した勇者パーティ。ヤルモはついていけずに悪態をついているが、意外と楽しいのか軽く吹き出していた。
それからもっと悲惨な話はないのかとヤルモに質問が来たので些細な失敗談を喋ったら、勇者パーティは笑う笑う。人の不幸は蜜の味なのだろうが、その笑い方は、ヤルモには不幸を吹き飛ばしてくれているように感じていた。
「ああ~。笑った」
オスカリは顔面を揉みながら息を整える。
「俺の目の前で、よくそんなに笑えるな」
被害者を笑い者にしたからには、ヤルモだって嫌味のひとつも言いたい模様。
「わりぃわりぃ。謝ったんだから、もういいだろ」
「ぜんぜん悪いと思ってないだろ?」
「そんなことより、あっちのお姉ちゃんなんてどうだ?」
「俺の話、聞いてたか??」
オスカリはニヤケながら酒場の女性店員を指差すが、ヤルモは見もしない。
「せっかく嬢ちゃんから引き離してやったんだから、ちょっとは羽を伸ばせよ」
「あん? 俺とイロナの仲を裂こうとしてやがんのか……」
「ちげぇちげぇ。あんな恐妻家じゃ、ストレス溜まってるんじゃないかと思ってな。うちのカカアも怖くてな。時々こいつらに飲みに連れ出してもらってるんだ」
「お前、結婚してんのか!?」
「俺、勇者だぞ? いまでも『おじ様~』とか呼ばれてモテモテなんだぞ??」
「うっそだ~」
「よ~し。お前、そこに直れ!!」
オスカリが始める説教。その内容は、自分がどれだけモテるかだったので、ヤルモは聞く気がない。しかし、勇者パーティ全員モテていたので、ヤルモが徐々にへこんで行った。
「全員、既婚者かよ……」
そう。勇者パーティは、引く手数多の女性から生涯の伴侶を選んで子供までいたので、同年代の格差に打ちのめされたのだ。
「は? お前も結婚してんじゃねぇか。それも、あんな若くて美人な女を娶っておいて、嫌味か? ええ!?」
ヤルモはボソッと言った言葉に、オスカリはウザ絡み。イロナが鬼軍曹なのを忘れているようだ。
「いや、イロナは……なんでもない」
「なんでもないってなんだよ。何を言い掛けたんだ~?」
「うっせぇな~。酒癖悪すぎるだろ」
「お前が飲まないから飲んでやってるんだろ~」
ヤルモはイロナの立場を言い掛けたが踏み留まり、オスカリに絡まれる。しかしヤルモはお茶を頼んで、これ以上の酒は飲まなかった。
「よ~し! もう一軒行くぞ~!!」
「「「「おお~! わははは」」」」
酔っ払いの勇者パーティは、ヤルモの肩を組んで離してくれない。本気で振り払ったら抜けられるだろうが、こんな飲み会は初めてなので実はヤルモも楽しいらしく、嫌がる振りをしながら連れ回される。
「ムフフ……次はお待ちかねの娼館だ~!!」
オスカリ、絶好調。めちゃくちゃ下品な顔で、ピンクな雰囲気が漂う建物を「バーンッ!」と紹介した。
「か……帰る!!」
しかし、ヤルモの苦手な女の園には、行きたくても行けない。
「なんだよヘタレだな~。嬢ちゃんの顔が浮かんで立たないのか??」
なのでオスカリが挑発するが、そんな安い挑発にヤルモが乗るわけがない。
「イロナにバレたら、間違いなく、俺は消される……お前たちもな!!」
「「「「「あ……」」」」」
そう。苦手やヘタレ云々は関係ない。バレたらあのイロナが黙っているわけがない。少しでも違和感を与えたら、確実に拷問されて吐かされる。その途中で死ぬ可能性だって高い。
ヤルモだけが怒られるならまだしも、キレたイロナが何をするかはわからない。確実に勇者パーティも殺される。
その結果、帝都に魔王再降臨となり、滅ぼされる未来が見えてしまった勇者パーティ。
「あ~……飲み直すか??」
「俺は帰るからな!!」
一気に酔いから冷めてしまった勇者パーティは踵を返し、ヤルモはイロナの待つ宿泊場所へ走るのであったとさ。