238 帝都のその後2
「ふ~ん……ま、適正価格で買い取ってくれるなら、俺には関係ない話か……あとで行こっと」
帝都の運営に興味がないヤルモは、オスカリから冒険者ギルドが稼働していると聞けただけで十分。パンに肉を挟んだ物をかじってムシャムシャしてる。
「あとで行くって……ラスボスの報告はどうすんだよ」
「それはイロナが勢い余ったせいで、ボス戦を二周して来たから大丈夫だ」
「そっちも問題だろ」
「止められないんだから仕方がないだろ~」
冒険者ギルドのルールを破ったのだからオスカリも怒りたいところであったが、イロナの前ではそれはできない。いちおうセーフティーエリアに戻って一日空けたからオッケー的な流れになったけど、そっちにもオスカリは驚いていた。
「そんな下層を行って来いしたのに、この短期間で戻って来たのか……」
「イロナがテンション上がってたんだから仕方がないだろ~」
「そのテンションの正体は、アレか??」
オスカリは、刀を鞘から抜いて妖しい笑みを浮かべているイロナを指差した。
「なんかブツブツ言ってんぞ?」
「あまり見ないほうがいいぞ。試し斬りにされたくないならな」
「お、おう……」
やはりオスカリも刀と喋っているイロナは怖いのか、ヤルモの忠告はすんなりと受け入れるのであったとさ。
ヤルモも食事を掻き込んだら、オスカリの案内で冒険者ギルドへ。イロナは後ろを歩くので、ヤルモとオスカリは後ろから斬られないかと怯えていた。
そうして元々あった冒険者ギルド、少し破損した大きな建物に入ったヤルモは、人の多さに驚く。
「もう賑わってんだな」
「たぶん半数は職員と大工だ。残り半数が、兵士と冒険者だな」
現在冒険者ギルドは復旧作業に追われ、ダンジョンに潜った者の処理も同時平行で行われているので、人が入り乱れている。
「冒険者はわからなくもないけど……兵士は何してんだ??」
「ここのダンジョンって、特級以外にも中級と上級があるのは知ってるか?」
「ああ。いちおう」
「どこでスタンピードが起こるかわからねぇから、物量作戦で一気にクリアさせたってわけだ。中級ぐらいなら、兵士でもいけんだろ」
「なるほど。数がいれば余裕だろうな」
「俺たちも、冒険者を引き連れて上級に潜って来たところだ」
賢者ヘンリクは帝都に掛かりっきりになっているので、勇者パーティは暇。難易度の高い特級ダンジョンに潜るのは正規パーティで行きたかったらしく、地下70階の上級ダンジョンなら余裕だろうと潜ったが、問題はあったそうだ。
「物量で攻めたんだけどな~……階層が増えていたんだ」
「そっちもスタンピードが起こっていたのか」
「ああ。中級も増えていたから、ここにあるダンジョン全てで起こったんだろうな。どうりでモンスターが多かったわけだ」
三ヶ所ものダンジョンから出たモンスターが全て魔王の配下になっていたから、町をみっつも襲えたのだとオスカリたちは予想している。
「なるほどな~」
「あ、そうだ。うちは物量作戦で地図も作らせていたんだ。ヤルモも提出してくれ」
「地図?? そんなもん作ってないぞ」
「はあ? 普通、簡単な地図ぐらい作って進むもんだろ。いや……そっか。冒険者じゃ、秘匿にするもんか。今回だけ、金を払うから出してやってくれ」
オスカリ、一人で喋って納得。確かに冒険者ならば、パーティごとに地図を作って自分たちだけで使うのだから、タダで提出するわけがない。
勇者パーティだって、ギルドからの依頼だから隅々まで調べて提出するのだから、オスカリは言い直したみたいだ。
「俺、一度通ったらだいたい頭に入るから、メモったりしないんだ」
「マジか……見た目のわりには、ヘンリク並みに記憶力があるんだな」
「見た目ってなんだよ。読み書きだってできるんだぞ」
「わりぃわりぃ。そう怒るなよ」
そりゃ、遠回しに馬鹿と言われたらヤルモだって怒る。しかし、読み書きとか言われても、「それが頭のいい証拠にならないんだけどな~?」とかオスカリは思っている。
「しかし、どうしたものか……俺たちはそれを見ながら地図を作るつもりだったんだが……」
「有料なら書いてやるよ」
「本当か??」
「かなり簡略化された物だけど、それでいいならな」
「それでかまわない。誰かに紙もらって来る!」
ヤルモが代案を出したらオスカリは嬉しそうに走って行ったので、ヤルモもここへ来た目的を果たす。
受付に向かい、悩んだ結果、S級の冒険者カードを提出したがやっぱり疑われていた。しかし近くにいた兵士が証人になってくれたので、疑惑は払拭された。
ただし、特級ダンジョンを二人で制したと書類を提出しても、やっぱり疑われたヤルモ。アイテムボックスから次から次に出て来ては、盗難品だと思われたようだ。
そこにユジュール王国からやって来ているギルドマスター代理が場の収拾を図り、適正価格で買い取ってもらえた。
さらにギルド職員には、ヤルモとイロナの顔を覚えるようにとお達しが下り、ジロジロと見られるヤルモは居心地が悪そうにしていた。
買い取りのお金を受け取った頃にはオスカリも戻って来たので、鍛冶場に寄ってから宿泊場所に帰った三人。
ヤルモは夕食ができるまで食堂でマッピングの作業をしていたが、オスカリが一枚目を持ってしまった。
「嘘だろ……まったく迷わずに階段まで進んでる……」
「「「「なんだと!? 見せてくれ!!」」」」
そう。ヤルモの書いた地図は、ぐにゃぐにゃっとした線だけの一筆書。こんな物を見せられては、勇者パーティはヤルモにも驚いてしまうのであった。