237 帝都のその後1
魔王を倒して逆走し、地下140階のセーフティーエリアで一泊したヤルモは、いつものように性奴隷の仕事を強要して来ないイロナに不思議に思っていたが、準備を済ませたら元気よく出発。
そして、イロナだけ『ガンガン行こう』。レジェンドの刀が出たということもあり、水を得た魚状態。どんなモンスターでも一刀両断で斬り裂かれている。
ヤルモはついて行くだけでやっと。宝箱を回収したいのだが、イロナがあまりにも早くモンスターを倒して先に進んでしまうので、通路に置いてある宝箱とモンスターのドロップアイテムしか回収できずに悲しんでいた。
その甲斐あって、昼過ぎには地下160階に到達。昼食も無しに、ダンジョンボスもあっという間に一刀両断にして、特級ダンジョンを出る二人であった。
「おう! 戻ったか」
ヤルモたちが宿泊場所に帰ると、廊下でバッタリ会った勇者オスカリに出迎えられた。
「ん? 嬢ちゃんと腕を組んでないなんて珍しいな」
いつもならべったりの二人なので、がさつなオスカリでも二人の変化に気付いたらしい。
「まぁ、たまにはな」
「怒らせたのか??」
「そんなことより、ちょっと話がある。ここの食堂でいいか? メシって出るよな??」
「まだ料理人が残っているから大丈夫だと思うけど……あからさまに話を変えやがったな」
「もう俺のことをからかわないんじゃなかったのか?」
「うっ……」
ヤルモをからかったせいでイロナブートキャンプが始まったからには、オスカリもこれ以上の詮索はできない。イロナをチラッと見たら、ニヤニヤしていたから怖いし……
場所を変え、食堂に入るとヤルモは、軍から派遣されている料理人にすぐに食べられる物を注文。その時、教えてもらったレシピ以外の物を頼んでいた。
パンの入ったカゴだけは先に受け取ったヤルモは、飲み物をお盆に乗せてテーブル席に着く。そして、イロナと一緒にパンをかじった。
「んで……話ってのはなんだ?」
ヤルモはパンに夢中で一向に話を切り出さないので、オスカリからの質問。
「ああ……なんつうか……」
「なんだ? そんなに言いづらいことなのか??」
「まぁ……どうしたものか、いま悩んでる」
「はあ? 今度は何をやらかしたんだ……できるだけ協力するから、包み隠さず話せ」
オスカリはイロナが何かやらかしたと思ってチラッと見ていたが、イロナは運ばれて来た肉にかじりついていて気付いていない。
「俺たち特級に潜っていただろ?」
「それは知ってる。お前たちなら、クリアは楽勝だろ。それとも何か? 物理の効かないボスでも出て逃げ帰ったのか??」
「それもいたけど、イロナが斬り刻んでくれたから大丈夫だ。それよりも、魔王がな……」
「あの嬢ちゃん、物理法則無視できんのかよ……ん? 最後、なんつった??」
ヤルモはどんどん声が小さくなっていたので、オスカリは聞き取れなかったようだ。
「だから魔王がな。いたんだ……」
「はあ!?」
ここで正式にオスカリが驚いた。そりゃ、魔王二連荘では、驚きを隠せないのであろう。
「それで倒して来たんだが……」
「まだ俺が驚いているだろうが!!」
ヤルモはオスカリのツッコミを無視して、結果報告。道中はどうでもいいだろうと思って、四天王と魔王の説明だけで終わらせた。
「つまり、また俺たちが倒したことにしろってことだな」
「そんなところだ」
「できるか!!」
オスカリ、即刻拒否。前回同様、少しは手伝ったのならば協力して倒したことにしてもいいのだろうが、如何せん、特級ダンジョンに潜ってもいないのだから、人の手柄を奪うことをしたくないのだろう。
あの、カーボエルテの勇者と違って……
「しゃあねぇ。魔王の魔石は裏ルートで売っぱらうか」
「目立ちたくないからって、そこまでするか……」
「面倒なんだよ」
「ああ! クソッ! ヘンリクに聞いてやるから夜まで待ってろ」
オスカリが折れたことによって、ヤルモ勝利と言いたいところだが、賢者ヘンリクにはなんだかんだ騙されているので、ヤルモは最大級の警戒を心に誓うのであった。
「ところで、もう冒険者ギルドはやってるのか?」
「その話もあったんだったな。いまは……」
現在帝都では、脱出した帝都民の帰還が始まったのだが、多くの民が魔王に殺されたので、町の運営が正常に戻るには数ヵ月は要すると予想している。
なので、取り急ぎ冒険者ギルドと商業ギルドを稼働させ、帝都のダンジョンから手に入れたお宝を他の町に売る計画を立てているそうだ。
そのお宝の中には、没収した皇帝コレクションや貴族コレクションを混ぜるので、金銭的にはすぐに落ち着くとのこと。
しばらくしたら、稼げると勘違いした冒険者が集まり、その冒険者相手に商売しようとする商人も出て来るはずだから、小規模な経済活動から始まり徐々に広がって、帝都の機能が取り戻せると予想しているらしい……
「賢者のヤツ……また人を騙そうとしてやがるのか……」
「いや、これはカーボエルテから来た使者の案らしいぞ」
「もう着いてやがんのか……」
「ああ。冒険者ギルドと商業ギルドを牛耳ってやがる」
「それで大丈夫なのか??」
適材適所。お金に強いカーボエルテ王国がお金に関しては集めたり払ったりをし、管理はユジュール王国がすることに決まったらしい。
ただし、カーボエルテ王国の使者は、一番いい物ばかりを自国に輸出しようとしていたので、何度も揉めたらしい……