235 アルタニアの魔王再び3
「グギャアアァァ!!」
魔王第二形態は、サキュバスからの巨大なゴリラ。ヤルモは魔王の巨乳に顔を埋めたことを後悔していたけど、気を取り直してイロナに話を振る。
「じゃあ、あとは任せていいんだよな? ……アレ??」
いつもなら、イロナはいつの間にかヤルモの隣に立っているので話を振ったのだが、キョロキョロしてもイロナはいない。
「なんであんなところに……」
なので、ヤルモが後ろを振り向いたら、イロナは遠く離れたところで何故かモジモジしていた。
「お~い……ゲフッ!?」
しかし声を掛けた瞬間に、ヤルモは魔王に蹴り飛ばされて地面に転がることになった。
「って~……ヤバイ!?」
珍しく気を抜いていたヤルモは、魔王の攻撃をまともに受けて大ダメージ。だが、このまま寝ていてはさらにダメージを負うので、痛みを無視して立ち上がった。
「ゲギャギャギャギャ~!」
そこに、魔王は無茶苦茶な攻撃。大きな拳を振り下ろし、ドコドコと殴りまくる。
「ぐうぅぅ……ゴフッ」
しばし大盾で耐えていたヤルモだが、急に横に変化した魔王の拳は速すぎて、防御は間に合ったのだが踏ん張りが効かずに大きく真横に飛ばされる。
「くそっ! 撃て!!」
『ファイアー』
このままではジリ貧のヤルモは、ナビの軍服少女人形にロケット弾を撃たせて反撃。しかしロケット弾は、真っ直ぐ向かって来ていた魔王に次々と叩き落とされる。
「うおおぉぉ!!」
ヤルモの得意は接近戦。体勢が整いさえすれば、力量差があっても技術でカバーできる。
ロケット弾で時間稼ぎをしたヤルモは、ギリギリと剣の柄を強く握り、魔王の拳に向けて斬り付けた。
「グギャアアァァ!?」
カウンターで渾身の一撃を放てば、魔王第二形態にだってダメージを与えられる。しかし、それで怒り心頭の魔王は、さらに無茶苦茶な拳の振り回しでヤルモを防戦一方に追い込んだ。
「ナビ! チャンスがあれば勝手に撃て!!」
『ラジャー。……ファイアー』
大盾に隠れて亀になっていては、攻撃に移れないヤルモ。なのでナビを頼りたいが、射線が確保できないので自己判断に任せるしかない。
魔王の猛攻を耐えながら、たまにできた射線によって、時々ロケット弾が宙を舞うのであった。
「ぐううぅぅ……」
防戦一方のヤルモは、ロケット弾で魔王のHPを削りながらイロナの登場を待つしかない。
そしてその時は、ついに……
「ゲギャギャギャ~~~!!」
来ない。魔王は大口を開けて、巨大なエネルギー波を放ったのだ。
「ぐおおぉぉ!!」
ヤルモはゼロ距離からのエネルギー波を呪いの大盾で耐えるが、さすがは魔王。ヤルモの力を超える威力だったので、ヤルモは凄い速度で後退させられた。
地面に轍を作り、ついにヤルモ待望のあの人の元まで……
ドンッ!
「ぐあっ……」
辿り着いたのだが、イロナは片手で軽々ヤルモを止めたので、エネルギー波とイロナの間に立たされたヤルモはけっこう痛い。
しかし、ヤルモの真骨頂は盾役。後ろから支えてもらうことで、魔王のエネルギー波を耐えきったヤルモであった。
「はぁはぁはぁはぁ……」
防御に多大な力を使ったヤルモはお疲れモード。珍しく片膝を突いている。
「これは……どういった状況なのだ?」
そこに、最初から見ていたはずのイロナからの質問。
「はぁはぁ。イロナが第二形態まで持って行けって言ったんだろ~。はぁはぁ」
「いつの間に……」
「なんで見てないんだよ。はぁはぁ。声も掛けたんだぞ」
「す、すまん。心ここに在らずだった」
これまた珍しく、イロナからの謝罪。ぶっちゃけイロナがモジモジしていたのはヤルモのせい。大声で愛してるとか言ったがために、免疫のないイロナがモジモジしてしまっていたのだ。
しかし、お互いそのことに気付かず。それよりもヤルモは、いまのピンチを脱したい。
「頼むから戦ってくれ。俺一人じゃキツイ」
「う、うむ……あのゴリラが魔王なんだな?」
「ああ。それじゃあ行くか!」
「おお!!」
イロナ、復活。いつものイロナに戻り、一人で魔王に突っ込んで行った。
ヤルモは一緒に戦う雰囲気を出していたクセに、その場にステイ。イロナのスピードについて行けないってのもあるのだが、助けを求めてイロナの機嫌が悪くなったら困るから、自分も行くみたいなことを言ったっぽい。
こうしてヤルモの戦闘は終了。イロナVS魔王ゴリラバージョンの戦いを安心して見守るのであった。
イロナと魔王はお互いダッシュで突っ込み、まずはイロナの小手調べ。レジェンドの剣を抜いて、横に薙ぐ。
「グギャアアァァ~!!」
その速度は速すぎて、魔王が気付いたのは当たってから。簡単に吹っ飛んで行った。
「ふむ……あそこの魔王よりは強いか。しかし、主殿だけでよく持ったな」
一撃入れただけで、戦力確認の終了。カーボエルテの魔王より、こちらの魔王のほうが強いと瞬時に悟ったイロナは、ヤルモを感心してチラッと視線を送った。
そのせいでヤルモはビクッとしてたけど……
「さあ! 主殿をたぶらかした罰だ! せめて我を楽しませるのだ!!」
こうしてイロナは、どちらにしても自分のためにしかならないことを言いながら、魔王に突撃するのであった。