234 アルタニアの魔王再び2
「説教はあとだ。早く魔王の化けの皮を剥いで来い」
「説教で済むのかな?」
「済むわけなかろう!」
「は~い。行きま~す」
イロナからの説教は、暴力付き。それはわかりきっていたヤルモはいらぬことを言ってイロナを怒らせてしまったので、すごすごとサキュバス魔王との戦闘に戻る。
「あなたぁ。本当にぃ、私のところに来る気はなぁいぃ? その女よりぃ、私のほうが優しいわよぉ??」
すると、魔王からの勧誘が始まった。
「魔王と手を組んでも、イロナに殺されるのが落ちだ」
「そこはせめてぇ、あの女を愛してるとかじゃないのぉ?」
人の心がわからないヤルモが魔王に間違いを正されたら、後ろをチラッと見てイロナの顔色を窺った。しかし、イロナは性奴隷なので愛とは無縁。どうも、この二人は人間のクセに、魔王より人間の心がないようだ。
「それそれ。俺もそれが言いたかったんだ」
イロナは怖い顔のままだったので、ヤルモは慌てて言い直したが、そんな言葉は魔王に看破される。
「嘘言ってないでぇ、私の配下になりなさぁいぃ」
「嘘なわけがないだろ! 俺はイロナを愛している!!」
これ以上魔王に喋らすと、ヤルモの命に関わる。ヤルモは恥ずかしいことを言いながら突撃した。
「もぉうぅ。仕方がない子ねぇ。少しかわいがってあげるわぁ」
魔王も臨戦態勢。ムチを素早く振ってヤルモを狙う。しかし、直線的な軌道はヤルモの大盾を崩せず。弾き返された。
「私の攻撃手段わぁ、ムチだけじゃないのよぉ」
魔王が左手を前に出すと、巨大な【ファイヤーボール】が飛び出るが、これもヤルモの大盾を崩せない。
「ウフフフ。ほらほらぁ」
それは魔王もわかっていたことなので、魔王は回転しながらムチと【ファイヤーボール】の乱れ打ち。しかも、ヤルモの速度では追い付けないほどの高速回転で攻撃を繰り返す。
「ちょっとぉ、やりすぎたかしらぁ?」
ヤルモを十分痛め付けた魔王は、煙が上がる中心地を見て笑う。そこには、片膝を突いて微動だにしないヤルモがいるからだ。
「ウフフフ。痛かったでしょぉ? 熱かったでしょぉ? 私の配下になるならぁ、もうやめてあげるわよぉ??」
どうしてもヤルモを配下に加えたい魔王が近付くと……
「オラッ!」
っと、ヤルモの奇襲。
「チッ……」
しかし、今回は魔王も演技をしている可能性を考慮していたので、舌打ちをしながら大きく後ろに跳んでヤルモの剣を避けた。
「もっとぉ、痛め付けないとぉ、ダメなようねぇ」
またしても、魔王はムチと魔法での遠距離攻撃。魔王の速度で遠距離攻撃をやられるとヤルモは近付けないので、完全に呪いの大盾で防御していたのに弱った振りをしていたのだ。
「くっそ~。早く第二形態にしないとイロナに殺されるのに……あ、そうだ。俺にも遠距離攻撃があったんだった」
ヤルモ、凡ミス。部分変型モードを使えば攻撃できると思い出して、大盾に隠れながら準備を整える。
『ロックオン、完了しました』
「んじゃ、あいつを時計回りにするように、肩のヤツ撃てるか?」
『ラジャー。ファイアー』
ヤルモの頭に座る軍服少女人形が敬礼すると、ヤルモの肩からロケット弾が飛び交い、魔王の進路を阻害する。
「なんなのぉ~??」
戦士だと思っていたのにいきなり飛び道具が来たせいで、魔王はヤルモの狙い通りの動きとなった。
パラララ、パラララ……
そこに機銃掃射。どうやら魔王を時計回りにして欲しかったのは、右手の五本指から弾丸を発射したかったからだったようだ。
「ぐっ……この程度ぉぉ……キャアアァァ!!」
「ナビ! 集中砲火だ!!」
『ファイアー』
弾丸を防御するために足を止めるのは愚策。避けたロケット弾は魔王を追っていたので、足を止めた瞬間に着弾し、さらに追加で畳み掛けられた。
「くっ、くそぉぉ! どこに行ったのぉぉ!!」
数十発のロケット弾に魔王が晒されたからには煙で視界が悪くなり、ヤルモの姿が確認できない。
「ゲフッ!?」
「ここだ」
その隙に、ヤルモは魔王の後ろに回り込んでの上から叩き斬り。声を掛けるより前に攻撃を完了させるとは、バレないように徹底している。
「オラオラオラオラ~!!」
そして振り出しへ。また剣を振り下ろし、ストンピングで魔王を地面に張り付ける。
「こんのおおぉぉ!!」
もちろん、そんな攻撃は先ほど魔王は破ったので、ムチを振ってヤルモの顔を狙ったが、ヤルモは後ろに跳んで避けた。
「ありったけぶちこめ!」
『ファイアー』
「キャアアァァ!!」
遠距離攻撃のできるヤルモに死角はない。ロケット弾を数十発撃ち込み、魔王を立たせない。
「なんなのよぉ、あの攻撃わぁ……ギャアアァァ!?」
魔王相手に卑怯なんて言葉、ヤルモの辞書にはない。煙で視界が悪いうちに魔王の後ろに回り込んで、剣を振り下ろしてからのストンピング。
「うおおぉぉ!!」
ここで決めると言わんばかりに、ヤルモは声を張り上げて魔王を滅多打ちにするのであった。
ヤルモの攻撃で、ついに魔王のHPが尽きる……
「うおっ!?」
その瞬間、魔王は竜巻に包まれたので、ヤルモは十数メートル上空へ。そして、ドシャッと地面に叩き付けられた。
「つぅ~……」
そんな高さから落ちたのだからヤルモにも痛みが走ったが、すぐに飛び起きて魔王を見据える。
「これで俺の仕事は終わりかな?」
魔王第二形態の合図は二度も見たことがあるヤルモは、その時を待つ。
「グギャアアァァ!!」
「うっ……なんだアレ……」
咆哮と共に竜巻は弾け飛び、魔王の姿が現れると、ヤルモは顔を歪める。
「ゴッ……ゴリラ……俺はゴリラの胸に顔を埋めていたのか~~~!?」
そこには、巨大なゴリラが胸を叩いて威嚇していたので、ヤルモは先の行動を後悔するのであったとさ。