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前科三犯、現在逃走中のオッサンは老後が心配  作者: ma-no
02 カーボエルテ国 ハミナの町
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022 中級ダンジョン4


 タピオを脅して若手パーティに料理を作らせる許可をもらったイロナは、アイリに向き直り話をまとめる。


「ドロップアイテムはお前たちで分ければいい。我らはいちおう横取りした形になってしまったからな。それでも感謝したいなら料理を作ってくれたらいい」

「はい! 作らせていただきます! リーダーもそれでいいよね!?」

「はい!!」


 タピオへ向けたイロナの殺気は、若手パーティにも浴びせられていたので、素直に返事するアイリとシモ。ただ、あまりにも怖すぎたので、オークのドロップアイテムは全て渡すので許してくれとシモは言っていた。

 どうもイロナに対して失礼な態度を取ったことで命の危機を感じているようだ。しかし、イロナは頑として受け取らず、睨まれたからにはシモも引っ込めるしかなかった。


 それからは、イロナの顔色を窺いながら全員で調理を開始する若手パーティ。イロナが仁王立ちで見つめ続けるので、手を抜くこともできない。


「あ、あの……そんなに見られると緊張するのですが……」


 あまりにもガン見してくるイロナに負けて、ついにアイリから泣きが入った。


「気にするでない。我は料理の勉強をしているだけだ」

「勉強ですか?」

「主殿に作ってやりたくてな。ただ、我は料理なんてしたことがないから、さっぱりわからないんだ」

「で、でしたら、ご一緒にどうでしょうか? やったほうがわかりやすいと思いますよ」

「それは助かる」


 アイリのファインプレーで、イロナの視線から解放される若手パーティ。ガン見されるよりは、隣に立って手を動かしてもらうほうがまだマシだと思ったようだ。

 そのおかげでイロナのお茶目な一面が見れたので、若手パーティから緊張が少し和らぐ。

 イロナは包丁を持ったら手を切り、フライパンを持ったら火傷、木の皿を持ったら(つまず)く。戦闘以外は不器用で笑われる一面があったが、すぐに笑いは消えた。

 そりゃ、自分の手を切っても火傷しても無傷では、怖くなるってものだ。


 それでもなんとかかんとか料理を完成させた若手パーティは、イロナを中心に食事を囲む。


「ふむ……主殿の作る物よりは品数もあるし味もいいが、こんなものか」


 若手パーティのディナーは、パンとシチューと野菜炒め。一通り口に入れたイロナは、思ったより美味しく感じないようだ。


「すみません。ホームでならもっと美味しい物を作れたのですが、食材も少なくて……」

「いや、外で食べるにしては十分だ。教えを()うた身なのに、変なことを言って悪かった」


 イロナに怒られていると思ったアイリは素直に謝るが、怒っていたわけではないと知ってホッしている。


「いえいえ……それにしても、お二人は強いのですね。高ランクなのですか?」

「ランクは昨日、Dランクに上がったばかりだ」

「え……では、再登録したとかですか?」

「う~ん……まぁそんな感じだ。あまり主殿から身の上を話すなと止められているから、深く詮索するのはやめてくれ」

「あ、はい。申し訳ありませんでした」


 ようやく話が弾みだしたがイロナが話を切ったので、楽しいはずの夕食が静まり返る。その沈黙が長く続くと、いたたまれなくなったアイリがあの件に触れてしまった。


「あの……あちらの方は、彼氏さんなのですか?」

「主殿か? 主殿は、我の主だ」

「主……ご亭主さんでしたか」

「違うぞ。我を買った主だ」


 彼氏でも配偶者でもない奴隷と聞いて、若手パーティはザワッとする。


「何かおかしいことでもあったか?」

「い、いえ……大変な思いをしているのだと思いまして……」

「何も大変ではない。主殿と出会って我は楽しいぞ」

「あ、そういうことでしたか」


 若手パーティは、イロナの酷い奴隷生活を思い描いて同情していたが、いい主人と出会えて幸福の中にいるのだと勘違いしてウンウン頷いていた。


 そこでイロナは、タピオのために料理を作っていたことを思い出して一度席を外し、タピオの首根っこを掴んで引きずって戻って来た。


「だから俺はいいって言ってるだろ」

「ほう……それは、我の手料理が食べたくないように聞こえるのだが」

「いえ、食べさせいただきます!」


 イロナに殺気を向けられたからには拒否できないタピオ。すぐに意見を曲げて、正座でイロナの隣に座る。

 その姿に、若手パーティは「あっれ~? こっちのオッサンが奴隷なのでは??」と思うのであった。



「どうだ? 我の初めて作った料理の味は? うまいだろ??」

「うまい! これなら次からイロナに頼もうかな」

「そうだろうそうだろう」


 タピオに褒められたイロナはご満悦。ただ、若手パーティは「それ、ほとんど私たちが作ったのに……」と、冷めた目で見ていた。


「そうだ主殿。こいつらに、先輩として助言をしてやってくれ」

「なんでだ?」

「さっき間違いなく死にかけていただろうが」

「死んだらそいつらのせいだ」

「せっかく我に料理を教えてくれたのだ。すぐに死なれたら寝覚めが悪いだろう」

「だから俺には関係がない」

「やれ」

「あ、はい……」


 またしても、イロナに殺気を放たれたタピオは従うしかないらしく、若手パーティの目も見ないで渋々語る。


「俺は冒険者歴が長いから、お前たちみたいな奴を山ほど見て来た。セーフティエリアが近いから無理して進んだだろ? それはダンジョンの罠だ。なんとかなると思わせて、先に進ませているんだ。正直、お前たちの実力なら15階までだ。いまはレベル上げに専念して、少しでも不安がある場合はすぐに撤退しろ」


 タピオは長々と喋って、頭を掻きながら締める。


「ま、こんなオッサンに言われたことが、どれだけ心に残るかわからないがな。ただひとつだけ言えることは、俺の忠告を無視した奴は二度と見ていない。勝手気ままな冒険者稼業だ。生きるも死ぬもお前たち次第だ」


 ぶっきらぼうな言い方で締めたタピオは、返事が来ないのはいつも通りだと思って、若手パーティもすぐに死ぬだろうと受け取る。


「主殿の有り難い言葉……しかと心に刻んだな!」

「「「「「はい!」」」」」


 しかし、イロナが殺気を放って怒鳴り付けると、しっかりと返事をしたあとは、ブツブツとタピオの言葉を繰り返す若手パーティであったとさ。


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