218 報酬1
魔王討伐後、二日間泥のように眠ったヤルモたちは、お昼に食堂に集まって食事をしていた。
「今日のあの二人、なんかおかしくないか?」
そんななか、オスカリがヘンリクたちとコソコソやっている。
「二人ともだらしない顔をしてるな……」
「昼間っからイチャイチャしやがって……」
どうやらヤルモとイロナからラブラブオーラが出ているし、イロナがヤルモの口にエサをポイポイ入れてイチャイチャしているのが気になるらしい。
「昨日はヤルモの変な声は聞こえて来なかったよな?」
「うむ。呻き声はなかったと思う」
「てことは~……普通に寝てただけか? にしても、あの雰囲気はないよな~」
昨夜はたんに、一般的な夜の営みしかしていないヤルモとイロナ。二人は長い夜をそのまま過ごしたから、今日もラブラブなオーラが継続しているのだ。
そのことを知らない勇者パーティは居心地が悪いので、肘で牽制し合って、代表でオスカリが声を掛ける。
「昨日はどんなプレイだったんだ?」
オスカリはなんて聞いたもんかと悩んだ末、超がさつな質問。デリカシーのない質問だが、ヤルモは特に気にせず答える。
「別に……何もしてないよな?」
「うむ……な?」
「ぜったい何かあるって~! 喰らうか!?」
オスカリは照れるイロナの張り手を喰らってのたうち回った経験があるので、後ろに跳んで回避。
「ぎゃああぁぁ~!?」
しかし、さっきまで椅子に座っていたイロナが回り込んでおり、脇腹に肘打ちを入れたからにはもっと痛い。
オスカリがのたうち回り、ヘンリクに治療を求めることで、ヤルモたちのラブラブエピソードは聞いてはならないことだと学習した勇者パーティであったとさ。
「ああ~……まだ痛いわ。あっ! ヤルモ。まだ部屋に行くな」
食事を終えてしばしまったりしたヤルモとイロナが席を立ったら、オスカリに止められた。
「なんだ?」
「これからのことだ。ちょっと話があるから聞け」
家族の救出、魔王の討伐、やりたいことはすでに終えているから聞く必要はないかとヤルモは考えていたが、よくよく考えたらアルタニア帝国の首都がどうなるかは気になるので、イロナと共に席に戻った。
「国のことは、数日後にカーボエルテとユジュールから支援部隊が来てくれるから、ヤルモは何もしなくていいからな」
「まぁ、何もする気はなかったけど……でも、めちゃくちゃ早いな」
「カーボエルテ側は、ヤルモたちの出発前には出てたみたいだ」
ヘンリクが言うにはアルタニア帝国の手前、ユジュール王国側の国境で、カーボエルテ王国の使者と合流してから支援部隊が出発することになっていた。
アルタニア帝国に入れる書状も皇帝に書かせて国境に送っていたので、上手くいっていれば数日中には帝都に着くらしい。
「チッ……俺の知らないところでやりたい放題だな」
「お前が俺たちに丸投げしたんだろうが」
「うっ……」
ヤルモが愚痴ったらオスカリが事実を告げるので、少しは堪えたようだ。
「まぁそれで、アルタニアがいい国に生まれ変わるってことだな」
「前途多難だがな。できるだけ血が流れないように変えて行くつもりだ」
「そうか……」
ヘンリクの答えにヤルモが遠い目をしていると、オスカリがズイッと身を乗り出す。
「それでだ……ここって、特級ダンジョンがあるだろ?」
ヤルモの返事の前に、イロナの耳がピクピク動く。
「あ~……誰かがダンジョンレベルを下げないとダメなのか」
「俺たちが行きたいんだけど、ヘンリクが動けないから数日待機だ。先行して潜ってくれないか?」
「主殿!!」
そう。特級ダンジョンがあると聞いて、イロナは耳をピクピクさせていたのだ。
「う、うん。行くから落ち着いてくれ。痛いから」
そして、イロナにバシバシ背中を叩かれているからヤルモは痛いのだ。
「まぁ魔王討伐はタダ働きだったからな。しばらくここで稼がせてもらう」
「ああ。その件もあったんだ。皇帝からちょっとは貰えるぞ」
「マジで!?」
「そりゃ、魔王を討伐したんだから誰にも文句は言わせねぇよ。つっても、皇帝は傀儡だから、泥棒みたいなもんだけどな」
「やった~~~!!」
「お前……金に困ってるのか??」
報酬があると聞いてヤルモが大袈裟に喜ぶので、オスカリは勘違い。ただ単にケチなだけだ。
「あ……でも、冒険者ギルドは稼働するのか? 換金できないんじゃ、アイテムが溜まる一方だぞ」
「やっぱ困ってるのか? いくらか貸してやろうか??」
オスカリがますます勘違いしていると、ヤルモの質問の答えはヘンリクが代わる。
どうやらアルタニア帝国の冒険者ギルドは信用ならないから、ユジュール王国からの使者がギルドマスター代行をするそうだ。買い取りはカーボエルテ王国の使者が担当するので、査定もなんとかなるらしい。
「お~。至れり尽くせりだな。あとは道具屋と鍛冶屋があればな~」
「しばらくは、道具屋は冒険者ギルド、鍛冶屋はアルタニア軍が担当する。装備の整備をしたいなら案内するぞ」
「いくらぐらい掛かる?」
「整備はタダだ」
「いよっしゃ~~~!」
「なあ? 借金でもあるのか??」
金に意地汚いヤルモが喜ぶと、オスカリは多大な借金があるのだと決め付けて不憫に思うのであったとさ。