214 アルタニアの魔王9
魔王討伐は、【発狂】が終わって振り出しへ。勇者パーティは魔王の攻撃パターンが変わったので、固まって話し合っていた。
「地面から出て来る槍は無くなったけど、あのムチが正確に狙って来るから厄介だな。てか、これは発狂が終わったってことか?」
「おそらく……確か魔王は、ラスボスと一緒で発狂後にHPが回復するはずだ」
「チッ……耐えるのでやっとだってのに、どうやって倒すんだよ」
オスカリとヘンリクが喋っていても、魔王からの攻撃はやまずに戦闘は続く。
賢者ヘンリクは全体を覆うシールド魔法を使うが、耐えられるのは数発なので、触手剣は勇者パーティに迫る。
そこにパラディンのトゥオマスが大盾で触手剣を受け、力いっぱい耐える。
それだけでは手数が足りないので、勇者オスカリと魔法剣士レコが剣を振るって触手剣を弾き返したいが、レコは受けるのでやっと。オスカリが僅かばかりの傷を付けるだけ。
大魔導師リストは、攻撃専門。ダメージがあればラッキーぐらいの気持ちで、ひたすら中級魔法を乱射している。
なんとかチームワークで持たせているが、スタミナ、MP、HP、闇属性の攻撃補助アイテム、聖属性の防御アイテム等々、全ての消費が激しい。その上、一歩間違うと誰かが倒れて瓦解するので、集中力も切ることはできない。
そんな極限の状態を打破する救世主が……
「なんだ。ヤルモだけかよ」
現れない。勇者パーティは誰しも、イロナの登場を待っていたのだ。しかし、ガッカリされてもヤルモは気にせず、最前列に陣取って魔王の攻撃を引き受ける。
「伝令だ! もうじきイロナが来る!!」
「「「「おお!!」」」」
イロナが来ると聞いて、勇者パーティの士気が爆上げ。
「あと、なんかやらかしそうだ! 逃げる準備はしておけ!!」
「「「「お……おお」」」」
だが、やらかしそうと聞いて士気は通常に。巨大な城を破壊したイロナだ。それ以上のことをやりかねないと思ってしまったのだろう。
「とりあえず俺も盾役するから、上手く使ってくれ!」
ヤルモの最後の言葉に、オスカリが応える。
「嬢ちゃんが無茶するなら、あとのことは考えなくていいだろう。こんな機会はもうない! 思う存分、魔王戦を楽しもうじゃないか!!」
「「「「「おう!」」」」」
「行くぞ~~~!!」
「「「「「おおおお!!」」」」」
オスカリの声に、勇者パーティプラスヤルモは呼応。消極的な戦い方を捨て、魔王に突撃するのであった。
ヤルモは急遽パーティに入ったので、基本、魔王の目の前に陣取って、サンドバッグ役。複数の触手剣を相手取る。
さすがは重戦車ヤルモ。触手剣を大盾で受け、逆側は剣の腹で止めている。たまに間に合わない場合があるが、その場合はダメージの低い箇所で受け止め、膨大なHPで耐えている。
ヤルモのおかげで、魔王からの攻撃は半減。勇者パーティも攻撃に出ることができる。
リストとヘンリクの大魔法で道を開き、トゥオマスが大きな体で露払い。魔王の懐に入ったら、オスカリとレコの闇属性を乗せたコンビ斬り。
連続攻撃と行きたいところだが欲を掻かず、すぐに撤退。リストとヘンリクの援護を受けながら、三人は触手剣を捌きつつ後退して射程範囲を抜ける。
「なんだかんだ言って、ヤルモも化け物クラスだよな」
一呼吸入れたオスカリは、トゥオマスと喋る。
「ああ。防御だけなら、間違いなく俺より上だ」
「攻撃もお前より上だろ?」
「アレは別だろ。アレ以来使ってないし」
「まぁトドメをしくったら、恰好の的だもんな~」
ヤルモの戦車モードは火力があるがデメリットもあるので、トゥオマスは盾役としての勝負がしたいようだ。
「てか、ヤルモばっかりに戦わせている場合じゃないな。ヘンリク、回復と補助魔法は終わったか?」
「ああ。ヤルモにも掛けておいた」
「うっし! 一太刀でも多く魔王に入れんぞ!!」
「「「「おお!!」」」」
小休憩を入れた勇者パーティは、再び突撃。協力して触手剣を抜け、一撃離脱と繰り返す。
勇者パーティが攻撃を入れた直後は、ヤルモの手が少し空くので、その間に大盾に隠れてポーションや補助アイテムをがぶ飲み。次に備える。
そうして一丸となって戦っていたら、勇者パーティが触手剣から身を守りながらヤルモの元へやって来た。
「いったい嬢ちゃんはいつ来るんだ?」
「たぶんもうそろそろだと思うんだが……」
「待つだけのアイテムも尽きそうだ。すまんが、何人か離脱するぞ」
「わかった。しばらく持たせる!」
勇者パーティがジリジリ後退すると、ヤルモに全ての触手剣が襲い掛かる。
「ぐっ……うおおぉぉ~!!」
守れるのは半分程度。致命傷は避け、必死に守るが、触手剣がヤルモの足に突き刺さる。
「オラァアァァ!!」
一歩遅ければ、魔王に持ち上げられてヤルモが宙ぶらりんになりかけたところに、オスカリの会心の一撃。触手剣を傷付けて後退させた。
「助かった!」
「いい! それより動けるか!?」
「おう!」
「んじゃ、一緒に耐えるぞ!!」
オスカリが連れて来たのはトゥオマスだけ。それと魔王の射程範囲外にヘンリクが控えているのみ。
防御に適した人員で魔王の猛攻を耐えるが、どう見てもジリ貧。それでも必死に耐え、イロナの登場を待つ。
その数分後、ついにその時が来る。
ザーーー……ザシュザシュザシュザシュッ!!
空から数百本もの金色の剣が降り注ぎ、魔王の触手剣が全て切断されたのだ。
「イロナ!?」
「嬢ちゃん!?」
突然の出来事だったのに、そんなことをやってのけるなんてイロナしかないとヤルモとオスカリは確証する。そして、皆は一斉に金色の剣が降って来た上空を見た。
そこには、金色の全身鎧を纏い、背中から真っ白な翼を羽ばたかせるイロナが飛んでいたのであった……