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213 アルタニアの魔王8


 【発狂】のタイミングが最悪だったせいで、魔王の攻撃をまともに受けてしまったイロナは地面を平行に飛び、城壁にぶつかった。


「イロナ!?」


 魔王に向けて走っていたヤルモは、イロナが飛んで行った方向を目で追い、瞬時に頭を入れ換える。


「俺が魔王を惹き付ける。勇者パーティでイロナの元へ向かってくれ」


 頑丈が売りのヤルモが作戦を告げると、オスカリが反論する。


「アホか。誰に物を言ってんだ」

「でも、俺が耐えたほうが……」

「俺たちのこと、ナメてるのか? 勇者だぞ。勇者パーティだぞ。五人で挑めば、いくらでも時間が稼げるってんだ」


 オスカリがムッとしながら返すと、ヤルモが吹き出す。


「ブッ……倒すんじゃないのかよ」

「それは嬢ちゃんに任さないとあとが怖いだろ」

「よくわかってんな」

「俺たちも調教済みだからな」


 お互い笑みを浮かべると、ヤルモは最後の言葉を残す。


「ちなみにアレは発狂だ。死ぬなよ」

「ああ。お前も嬢ちゃんに殺されるなよ」


 ヤルモとオスカリは拳をゴツンと当てると、各々の役割を果たすために動き出すのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



「さってと……かっこつけてしまったけど、アレってどうしたらいいもんかね?」


 魔王を中心に、赤黒く巨大な槍が何十本と立ち、その次の瞬間には触手剣で輪切りにされて崩れ落ちる光景を見て、オスカリは皆に相談を持ち掛けた。


「俺が耐える」

「私も支援に回る」


 パラディンのトゥオマスと賢者ヘンリクは防御に立候補。


「俺はとりあえず攻撃魔法だな」

「俺も効くかどうかわからないけど、それだ」


 大魔導師リストと魔法剣士レコは惹き付け役に手をあげる。


「じゃあ、俺はマルチに動くって感じだな。てか、いつも通りじゃねぇか」

「「「「わはははは」」」」


 オスカリが締めると笑いが起こり、その数秒後には顔を引き締めた。


「うっし! 嬢ちゃんが復活するまで粘んぞ!!」

「「「「おう!!」」」」


 こうして勇者パーティは負け戦とわかりつつ、初めての魔王戦に突入するのであつた。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



「イロナ!? どこだ!?」


 勇者パーティが戦闘を開始した同時刻、ヤルモは城壁に突っ込んだイロナを探していた。

 その城壁はイロナがぶつかった場所から崩れ、瓦礫が散乱しているのでなかなか見付からない。ヤルモは大きな瓦礫を中心に遠くに投げ捨てて、イロナの探索を続けていた。


「あ~~~……クソッ!!」


 この声は、ヤルモの声ではない。


「イロナ!?」


 そう。イロナが瓦礫を押し退けて普通に立ち上がってから発した声だ。


 ヤルモは瓦礫を掻き分け、傷だらけのイロナに駆け寄った。


「大丈夫か??」

「ミスッていいのをもらったが、なんとかな。これぐらいなら動くには支障もない」

「いやいや、そのまま戦うな。エクスポーション飲んでくれよ」

「う~ん……まぁいいか。よこせ」


 ヤルモがお願いすると、イロナは渋々受け取った。おそらく、魔王の強さが自分の上を行っていたので、このままでは負ける可能性を考えてしまったのだろう。

 ちなみに、このエクスポーションもヤルモがダンジョン深くで掻き集めた物で、売ったら超お高い。HPも千は回復するので、イロナの減ったHPなら四本もあれば全快に近い数字となった。


「そういえば、我はどれぐらい寝ていた?」

「さあ? 5、6分ぐらいかな??」

「戦闘中の気絶なんて、いつ振りだろうか……」

「そんなことより、勇者たちを助けてやってくれないか? あいつらのほうが死にそうだ」

「ほう……奴らが魔王と戦っているのか。少し見学するか」

「いや、いますぐ行ってやってほしいな~??」


 ヤルモがやんわり助けを求めても、イロナは聞きゃしない。ヤルモを肩に担いで、勇者たちの戦闘がよく見える場所へと一瞬で移動するのであった。



「おお~。やってるやってる」


 イロナの視線の先には、発狂中の魔王が勇者パーティに襲い掛かる姿。盾や防御魔法で必死に耐え、たまにオスカリが触手剣を自身の剣で弾いている。

 その後方からは魔法が飛び交い、ほとんどが触手剣に斬られて霧散。たまに体にヒットしているが、すぐに回復するのでダメージが入っているかはわからない。


「やはりあいつらはいいな。我でもてこずる敵に物怖じしていない」

「そうだけど、めちゃくちゃ綱渡りだぞ。あと何分持つか……」


 勇者パーティは全力で応戦しているが、ヤルモの目には刻一刻と死に近付いているように見える。


「てか、ここからどうするんだ? 一緒に戦うか??」


 発狂中ならば残りHPは少ないので、ヤルモとしては全員で押し切りたい。


「我が負けるとでも思っているのか……」


 しかし、イロナがそれを許してくれず。殺気まで放つので、ヤルモは殺されると思った。だが、イロナはすぐに殺気を引っ込ませて顔を崩す。


「まぁこのままでは負ける可能性が高いな」

「えっ……」

「見ろ。発狂が止まった」


 せっかくイロナが一時間も掛けて魔王の膨大なHPを削ったというのに、振り出しへ。また一からHPを削るには、イロナでも疲れるのだろう。


「仕方ない。主の命令だ。イロナ、一緒に戦え」


 そんな状態ならば、ヤルモも伝家の宝刀。主従関係を思い出させ、ムリヤリ共闘させようとする。


「ほう……我に命令するか……」

「ここは譲れん!!」


 命の掛かった修羅場だ。国はどうでもいいが、冒険者として自分の命が掛かっているのだから、ヤルモも引けない。


「まぁよかろう」


 意外にもイロナがすぐに折れてくれたので、ヤルモは胸を撫で下ろした。


「ヤツは我が倒すから、主殿たちでしばらく時間を稼いでくれ」

「いや、それじゃあ、最初と変わらないだろ」

「大丈夫だ。我にも奥の手がある。あまり気乗りせんが、あの魔王では仕方あるまい」

「てことは、俺みたいのができるってことか?」

「アレとは違うが、近いモノがな。少々時間が掛かるから、それまでは繋いでおいてくれ」

「……わかった。任せろ!!」


 何が起こるかわからないが、ヤルモはイロナを信じて走り出したのであった。


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