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212 アルタニアの魔王7


 ヤルモたちが心配して見ていても、イロナVS魔王の戦闘は激しさを増す。


 魔王は13本もある触手のような剣をムチのように振り、辺りには常に空気を引き裂く音が鳴り響く。


 そんななかイロナはというと、絶賛削り中。深く踏み込まずに触手剣を斬り落とそうとしているが、早くも使っていたロングソードが折れた。

 しかしもう一本は鞘に収めていたので、折れた剣の柄は魔王に向けて投げ付け、それと同時に新しい剣を抜く。


 また激闘を繰り広げ、イロナと魔王の戦いが30分にも及ぶと、二本目の剣も折れてしまった。

 それを見た勇者パーティが城壁から飛び下りようとしたが、イロナが空を飛んで武器が刺さっている場所まで移動していたのでヤルモが止める。


 イロナはレジェンドの槍を握ると、追って来ていた魔王に連続突き。どうやらこれはスキルだったらしく、突きが空を飛ぶ。

 本来ならば魔王はまったく下がらないのだろうが、一瞬に百発もの突きが全身に放たれたのだから、半分近くしか防御できず。残りが触手や体に当たり、数メートル地面を削った。

 その隙に、イロナは剣を鞘に収めて槍を構える。どうやらお気に入りのロングソードは残り一本なので温存するようだ。


 イロナの槍術は、別段下手というわけではなく、なんならこの世界のトップクラス。ただ単に剣が好みなだけで使わなかっただけ。

 そんなイロナがレジェンドの槍を振るったならば、攻撃力が倍増。SSS級(トリプル)のロングソードは気に入っていたこともあり、自然と手加減していたようだ。

 力の加減が必要なくなったイロナの槍は、ひと振りで魔王の触手剣が飛ぶほど。次々と切断し、魔王を追い詰めるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



「おお~。巻き返して来た」


 イロナの剣が折れた時は心配していたオスカリであったが、武器が変わってからは安心して見ている。


「てか、いい槍持ってるじゃねぇか。なんで今まで使ってなかったんだ?」

「イロナの趣味だ」

「そ、そうか……にしても、槍も達人レベルなんて、やっぱ嬢ちゃんはすげぇな」


 イロナの趣味に少し引っ掛かるものがあったオスカリは、ヤルモに質問を続ける。


「ところでなんだが……お前たちの職業ってなんなんだ??」

「イロナが戦乙女で、俺がただの戦士だ」

「「「「「嘘つけ~い!!」」」」」


 中級職と下級職の羅列に、勇者パーティは仲良く総ツッコミ。魔王と単体で斬り合うイロナが中級職なわけがない。さらには、重火器を発射するヤルモが戦士なんてありえるわけがない。

 そのことを大声で詰め寄る勇者パーティに、ヤルモはこれしか言えない。


「詮索するな! 何を聞かれても俺は喋らないぞ! あと、イロナに聞いたら殺されるから、マジでやめとけよ!!」


 当然の秘匿(ひとく)。ついでにイロナの名前を出して脅し。本当はイロナに聞けば簡単に教えてくれるのだが、こう言っておけば勇者パーティも引くしかない。殺されたくないから……



 イロナVS魔王の戦闘が長時間になると、今度は違う心配がオスカリにのし掛かる。


「もう一時間だぞ……嬢ちゃんは大丈夫か??」

「どうだろう……」


 ここはヤルモも知らない情報なのでイロナをよく見ると、息が上がっているように見える。


「あんなに疲れているイロナを見るのは初めてかも……」

「てことは、俺たちの出番だな!」

「「「「おう!」」」」


 ヤルモが自信なく答えると、オスカリが大声を出して勇者パーティが続く。イロナでもてこずる化け物を見ても、勇者パーティは物怖じしていない。


「行くのか? イロナに殺されるかもしれないぞ??」

「どっちしにろあの嬢ちゃんが倒れたら打つ手がなくなるだろうが。ぶっちゃけ、俺たちだけじゃ無理だ」

「そうだろうけど……」

「お前はどうするんだ? このまま嬢ちゃんが殺されるのを見ているのか??」


 オスカリの問いに、ヤルモは考えてしまう。


 旗色が悪いのは確実。

 しかし邪魔したら殺される。

 でも、このままだと世界が滅んでしまう。

 やるしかない……

 なんとか勇者パーティにだけ罰が行くようにできないだろうか??


 行くのは決定したが、勇者パーティに罪を(なす)り付けようとするヤルモ。


「チッ……行きゃあいいんだろ! イロナの相手はお前たちがしろよ!!」


 いいアイデアが思い付かないヤルモは、勇者パーティにお願いするしかない。


「いや、そこはヤルモがなんとか……」

「「「「うんうん」」」」

「俺に擦り付けんな!!」


 どうやら勇者パーティもヤルモに擦り付けようとしていたらしく、出陣が遅れるのであったとさ。



「こんなことしている場合じゃなかった!?」


 しばし揉めていたら、オスカリの目にイロナの戦闘がチラッと入り、焦りながら指示。


「行くぞ!」

「「「「おう!!」」」」

「イロナの相手はお前たちがしろよ!」


 勇者パーティが城壁から飛び下りると、ヤルモもグチグチ続く。するとヘンリクが下から風魔法を当ててくれたのでふわりと着地。そのままダッシュで戦闘区域に急ぐヤルモたちであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



「チッ……まだ発狂にもならんのか」


 幾千もの斬撃を避け、幾千もの斬撃を放ったイロナは、さすがに疲れて来た模様。


「致し方ない。少し無理するか」


 なので、戦術の変更。今まで触手剣狙いだったのを、体狙いに変える。

 イロナは空気を蹴って空を飛び、最高速度で方向転換や飛ぶ刺突で攻撃、それとフェイントを加えて飛び回り、13本の触手剣を掻い潜って再び魔王の懐に飛び込んだ。


「喰らえ~! 【百花繚乱(ひゃっかりょうらん)】!!」


 そしてスキルの発動。これは相手を血みどろにして、花が咲き乱れるようにする技なのだが……


「グオオォォ~~~!!」

「しまっ!?」


 その一撃目で、魔王の【発狂】が発動。今まで与えたダメージがついに花開いたのだが、スキル発動中ではタイミングが悪すぎる。


 イロナは下から来た赤黒い槍を喰らい、13本の触手剣の一斉攻撃を受けるのであった……


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