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211 アルタニアの魔王6


 雷鳴と暴風が吹き荒れるなか、ヤルモと勇者パーティはその風に耐えながら中心を見据えていた。


「でかい……」

「ヤバイのが出て来そうだな……」


 伝説でも聞いたことのない魔王第三形態は、変身の余波だけでも城ひとつ吹き飛びそうなので、ヤルモたちの緊張が高まる。もうすでに城は崩れて無いけど……


「ちょっと行って来る」

「おい! 待て!!」


 そんななか、ヤルモは城壁を飛び下りてしまった。そしてズーーンという音と揺れが起きると、オスカリはやれやれといった顔をする。


「あんな重装備で、よく飛び下りるな」


 そしてドタドタと走って行ったヤルモを、呆れた顔で見続けるのであった。



「主殿か……」


 イロナはヤルモの足音に気付き、振り返りもしないで声を掛けた。


「主殿もやりたいなら止めはしないが、最初は我からだ」

「いや、イロナの楽しみを奪うつもりはないぞ。剣を届けに来たんだ」

「ムッ……確かにもうじき折れそうだな」


 ヤルモに言われてイロナがロングソードを確認すると、刃毀(はこぼ)れが酷く、微妙に曲がって見える。


「剣は残り二本だ。あとはレジェンドの槍な。その辺に刺しておけばいいか?」

「うむ。剣だけは一本貰っておこう」


 ヤルモはロングソードを渡して残りを地面に突き刺すと、イロナに水の代わりのポーションを飲ませる。


「ちなみにアレって、第三形態か??」

「らしいぞ。我も初めてだ。クックックックッ」

「あ、元気そうだな。じゃあ、華麗な戦いを拝ませてもらうよ。またな」

「うむ。ご苦労であった」


 イロナを心配すると怒りそうで怖いので、細心の注意を払って体調を聞き出したヤルモは、笑い顔を見てやっぱり怖くなる。なので、すたこらさっさと逃げ出したのであった。



 ヤルモが走り出して間もなく……ついに魔王の変身が終わる。


 ドオォォーーーン!!


 爆発と共に竜巻は消し飛び、暴風が強く吹き荒れて瓦礫を吹き飛ばした。その数秒後には、竜巻の中心に巨大な(うごめ)く何かが現れた。


「なんだアレ……」

「クラーケンにも見えなくはないが……」


 オスカリとヘンリクですら見たことも聞いたこともないモンスターの出現。


 10メートルを超える人間のような体からはタコのような太い触手が13本生え、その先端の全てが剣のような形をしている。

 見た目は人間のようにも見えるその体は(いびつ)で、肌は焼けただれたように見え、血管は浮いていたり外に出たりして脈打っている。


「グオオオォォォ~~~!!」


 もう魔王には意識が無いのか、大きな咆哮(ほうこう)と共に動き出したのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



「ぐっ……」


 魔王が歪な形のモンスターに生まれ変わると、咆哮と共にイロナに攻撃。13本の触手剣を全て使って斬り付けた。

 その剣は凄まじく速く、イロナでも避けるのでやっと。受けた場合も力負けして、大きく押し込まれる。


「クハハハハハ!」


 しかし、イロナは笑いながら突撃。どうやら自分より強い敵と出会って楽しいらしい……


 イロナは13本の触手剣を、空気を蹴ってきり揉みしながら掻い潜り、懐に到着。そこには二本の腕が待ち構えて剣が飛んで来たが、これもかすりながらも避けきり、瞬く間に十の斬撃を入れる。

 しかし、魔王は二本の剣を反転させ、触手剣も戻って来ている。絶対絶命のピンチに、イロナは斬撃を四方八方に放って抜け出す道を探す。

 ほんの(わず)か、魔王の連携が乱れた隙に、イロナは空気を蹴ってまたきり揉み。その速度でも剣を振るい、一気に魔王の懐から脱出した。


「ふむ……ほとんどダメージとなっていないか」


 脱出した際に触手剣を一本斬り落としたのだが、切断面から血管が伸びて引き合い、すぐに復活。斬り付けた体もすでに傷は塞がっている。


「これは斬りごたえがありそうだ!」


 それなのに、イロナは嬉しそう。しかし、先程のようには突撃せずに、外から削る作戦に切り替えた。


 触手剣をかわし、カウンター。深く踏み込まずに一撃離脱。正面からだけでなく、たまには背中から。しかし、そこは死角ではない。

 魔王は首を強引に捻って真後ろを見るからだ。さらには、両手両足の関節も逆に折り、正面を向いているかのような剣の振るい方。当然、触手剣に向きなんて関係ないので、イロナを正確に捉えて斬り付ける。


 スピード、パワー、手数……全てが魔王に軍配が上がっているが、イロナはこれまでの経験のおかげでなんとか互角に持ち込んでいる。

 しかしダメージに関してだけは、やや不利。魔王は怪我を負ってもすぐさま回復するが、イロナは時々かすって血が流れる。


 それでもイロナは、笑いながら戦闘を続けるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 一方その頃、勇者パーティの元へヤルモが戻って来た。


「おお~。さすがイロナ。互角に戦ってる」

「そうでもないぞ」


 ヤルモは開始から見ていなかったので、オスカリから経過を聞く。


「やや嬢ちゃんのほうが傷を負わしている数が多いんだが、相手はすぐに回復してるんだ。このままでは、嬢ちゃんのほうが不利だぞ」

「なのに、あんなに笑ってるのか……」

「今までで一番の笑顔だな……」


 イロナの満面の笑みに、オスカリたちは引き気味。


「アレじゃあ、助けがいるのかどうかわからん」

「まぁ、あの顔のうちは大丈夫だと思う」

「ヤルモが言うなら信じるしかないか」


 イロナ取り扱い説明書であるヤルモの発言だから信用に足るらしいが、実際はまったくわかっていないヤルモ。

 しかし、地下270階もあるダンジョンの魔王を一人で倒した時は何時間も掛かったと聞いていたので、イロナは不利な状態でも倒したと考えている。


 それはもう、血塗れの姿であったとしても……


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