208 アルタニアの魔王3
時は少し戻り、ヤルモたちが玉座の間から逃げ出した直後、イロナVS魔王の戦闘が激しさを増した。
イロナの最速の剣を魔王は後ろに跳んで避ける。その動作が大きくて、後ろにあった壁に激突。しかし、あまりにも素早く動いたせいで簡単に壁に穴が開いたから、スピードは落ちずに隙にも繋がらなかった。
そこにイロナが追い討ちを掛け、魔王に斬り付け。魔王は【ブラッドマジック】で作った二本の腕と二本の剣で防御し、右手に持つ剣で横薙ぎ。イロナは微妙に反応が遅れたので、剣で防御すると同時に横に跳んで威力を逃がした。
その先にも、壁。イロナは肩から衝突したが、こちらも意に介さず破壊。何もなかったように戦闘に戻る。
イロナと魔王の戦いは平面だけでなく、三次元に突入。防御の流れで高く跳んだ魔王は、頭で天井に穴を開けて上のフロアへ移動。イロナも剣で天井をくりぬき移動からの斬り付け。
縦方向だけでは足りず、斜め上にも動き続け、城の窓でもない場所からイロナが飛び出した。その場合は、空気を蹴っての反転。
助走をつけたイロナの斬撃に、今度は魔王が壁を数枚ぶち抜いて上空に逃げる。その場合は、【ブラッドマジック】で羽を生やして反転。イロナをマネして助走をつけた重たい斬り付けで反撃する。
二人の戦いは城ひとつでは到底足りず、外にまで及んでしまっているが、そんな戦いをしていては城が持つはずがない。
ちょうど玉座の間に戻ったところで、ついに城が崩れ落ちるのであった……
* * * * * * * * *
「や、やりやがった……」
イロナと魔王の戦いの余波に逃げ回っていたオスカリたちであったが、城が大きな音を出して崩れると、口をあんぐり。
まさかあんなに巨大な建物が崩壊するなんてこれっぽっちも思っていなかったから、驚きを隠せないようだ。
その少しあとに砂煙に辺りが包まれ、オスカリたちも巻き込まれて姿が見えなくなるのであった。
「ぺっぺっぺっ……全員無事か~??」
砂煙が落ち着くと、オスカリは口に入った砂を吐き出しながら仲間を捜し、一人、また一人と集まって来て、勇者パーティの無事は確認が取れた。そこでイロナについて何やら喋っていたが、ヤルモだけ見付かっていないので捜し始める。
「おう! こんな所にいたのか」
ヤルモがいた場所は、城壁の屋上。オスカリたちが上から探したほうが楽だと思って上ったら、偶然発見したのだ。
「嬢ちゃんは……生き埋めになってるのか?」
「いや……戦闘音は聞こえるからどこかで戦ってると思うんだが、見当たらないんだ」
「確かになんか聞こえるな。あの瓦礫の裏か??」
大きな瓦礫が散乱する現場では、見晴らしがいい場所でも死角が多いのでイロナの姿は見付からない。しばし全員でイロナを捜していたら、ヤルモが手をポンッと打った。
「あ、そっか。上か」
「上だ~~~??」
ヤルモが見上げると勇者パーティも続き、空を駆けるふたつの物体に気付いた。
「また飛んでるよ。お前の女、いったいどうやって飛んでるんだ??」
「筋力でムリヤリ飛んでるようなこと言ってたけど……お前はできないのか??」
「できるか!!」
「だよな~」
「いや……支援魔法を重ね掛けしてもらえれば……ちょっとやってみようぜ」
空でなら誰にも被害が出ないので、イロナと魔王の戦闘は打ち上げ花火状態。数人は座って空を眺め、オスカリは賢者ヘンリクと大魔導士リストと一緒に遊び出したのであった。
* * * * * * * * *
時は少し戻り、城が崩壊する直前……
「ムッ……」
「しまった……」
玉座の間で戦っていたイロナと魔王は、同時に城の異変に気付いた。
「こんなことで死ぬでないぞ」
「そちらこそだ」
天井が落ちるなか、お互い一言ずつ声を掛けると城からの脱出を試みる。
イロナは上に飛ぶと同時に凄まじい速度の連続斬り。イロナの進行方向にある大きな石が一瞬にして小間切れになるので、当たったとしてもダメージにもならない。
そのままイロナは剣を振りながら、上空に抜けるのであった。
魔王の脱出方法は【ブラッドマジック】。血液で自分の体より大きなドリルを作り、高速回転させて落下物を撥ね除ける。
そして背中の羽でばっさばっさと飛び、大きな石もドリルで貫通。障害物をものともせずに、上空に抜けるのであった。
「来たか」
イロナから数秒遅れて城から脱出した魔王は、空気を蹴って空中浮遊しているイロナとの高さを合わせて羽を動かす。
「せっかくの豪華な根城が台無しだ」
「我のせいだとでも言いたげだな」
「ああ。貴様のせいだ。どこにも間違いはないぞ」
帝都を不当に乗っ取ったのは魔王なのだが、現在の所有者は魔王なのだから、不法侵入したイロナとの戦いで崩壊したのだから魔王の言い分は正しい。しかし、イロナはそんな物に興味はない。
「地上は煙が凄いな。ここで第2ラウンドと行こうではないか!」
「苦情は聞き入れられないと……」
「ぐずくずしているとこちらから行くぞ~~~!!」
イロナよりも魔王のほうが物に対する愛着があるようで、少しテンションダウン。しかし、イロナが斬り掛かって来たからには、呆けている場合ではない。
二人は空を飛び回り、激しい空中戦を繰り広げるのであった。