表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
207/330

207 アルタニアの魔王2


「ぐっ……」


 突然斬り掛かったイロナの剣を、腰の剣を抜いて受け止めた魔王は、思ったより重かったからか動きが止まる。


「よく受けた!」

「これしき他愛のないことだ」

「そのわりには必死だったな」

「ぬかせ!!」


 しばし鍔迫(つばぜ)り合いをしていたイロナは、魔王の手から鎖のような物が伸びて来たので後ろに飛んだ。


「残念。そのまま拘束してやろうと思っていたのだがな」


 魔王が出した物は、血液で作られた鎖。これは血液をどんな形にでも変えられる凡庸性の高い【ブラッドマジック】だ。


「なんだ。剣だけで戦わんのか」

「剣も得意だが、人形は綺麗なまま手に入れたいのだ」

「そんな中途半端なことを考えていたら、すぐに死んでしまうぞ」

「それだけ余とお前に差があるということだ」

「くだらん……」


 魔王が勘違いしているので、イロナは怒り心頭。殺気を放ちながら怒鳴る。


「忠告は最後だ! 殺す気で来ないと我には勝てぬぞ!!」


 その怒鳴り声に魔王は……


「フッフフフフ。なるほど確かに……これほどの覇気がある者に手加減するなど慢心もいいところだ。地上に出ても強い者がいなかったからナメていたようだ。すまなかった」


 魔王は貴族がやるような大袈裟なお辞儀をしながらの謝罪。そして顔を上げた時には、先ほどのニヤケ面から真面目な顔に変わった。


「いい顔になったな。では、仕切り直した」


 逆にイロナは怒りの表情から冷静な表情に変わる。


「行くぞ!」

「来い!!」


 攻めても逆。魔王から攻撃を仕掛け、イロナが受ける。


 こうしてイロナVS魔王の戦闘は、お互いフルスロットルで始まるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 戦闘が始まる少し前……


 イロナと魔王の会話を聞いていたオスカリは仲間と共にコソコソやっていた。


「おいおいおい。あの嬢ちゃん、魔王に対して魔王みたいなこと言ってんぞ。しかも、自分から手加減すんなって……そこを突いたほうが絶対いいだろ」


 魔王VS魔王の会話なので、ツッコミどころが満載らしい。しかし、二人の戦闘が始まると、全員、一気に引き込まれた。


「すげぇ~」


 目で追うだけでやっとの剣劇。そこに魔王は【ブラッドマジック】なる魔法で、血を様々な形に変えて手数が増えている。

 剣、槍、ムチ……魔王は手に持つ剣で攻撃する合間に【ブラッドマジック】を放ち、イロナを防戦一方に追い込もうとする。


 イロナはその猛攻に合わせ、(わず)かばかりの隙にカウンターを仕掛ける。しかし、その隙がフェイントで、【ブラッドマジック】のカウンターが来る場合もあるので、あまり深く踏み込めない。

 それでもイロナは魔王の体を斬り裂き、魔王は能力で傷を治す。


 オスカリたちからすれば、互角の斬り合い。いや、ややイロナが優勢に見えていた。


「お前の女、ホントすげぇな……このまま楽勝で倒してしまうんじゃないか?」

「まぁそうだろうけど……」


 オスカリの問いに、ヤルモは歯切れが悪い。


「なんだ? 嬢ちゃんが心配なのか??」

「いや、ぜんぜん。てか、いますぐ逃げたほうがいいかも?」

「逃げる?? おまっ……あんなに必死に戦ってる嬢ちゃんを一人残して逃げるのかよ!?」


 ヤルモの答えにオスカリは納得いかないと詰め寄った。


「マジで急いだほうがいいかも?」

「だからお前は!?」

「ヤバッ……天井が落ちそうだ……」

「あん??」


 オスカリがヤルモの胸ぐらを掴んだところで緊急事態。イロナと魔王の出す衝撃のせいで、天井から砂がパラパラ落ちていたからヤルモはこんな消極的なことを言っていたのだ。


「どどど、どうすんだこれ!?」

「だから逃げたほうがいいって……」

「そういうことは、もっと焦りながら言いやがれ!!」


 このままでは生き埋めになりかねないと気付いたオスカリは焦り出した。ヤルモは自分だけなら生き埋めになってもなんとか脱出できると考えていたので、そこまで焦りを見せていなかったと思われる。


「こうしちゃおけねぇ! ずらかるぞ!!」

「「「「おおぉぉ!」」」」


 ヤルモと揉めている場合ではない。勇者パーティとヤルモは、すたこらさっさと元来た道を戻り、城から逃げ出したのであった。



「フゥ~……なんとか間に合ったな」


 外に出て城壁まで離れたら、オスカリは額の汗を拭って城を眺める。


「てか、ここからだと、嬢ちゃんの戦いが見えないな」

「そのうち見えるようになるだろ。あっ……」


 オスカリがボヤイていると、ヤルモが何かに気付いた。


「今度はなんだ?」

「さっき右から何か出たような……」

「右だと??」

「いや、左だ。いやいや、右だ!!」

「ちょっ! 何がどうなってやがんだ!?」


 アルタニア城内部ではてんやわんや。玉座の間で戦っていたイロナと魔王は壁を無視して大きく動き始め、部屋から部屋への移動では足りなくなって、城の右から出たり左から出たり、上から出たり後ろから出たり……


「わっ!? こっち来た!!」

「散開~~~!!」


 正面から出たり。勢いがあったので、ヤルモと勇者パーティは左右に散ったが、イロナと魔王は斬り合いながら城の中へと戻るのであったとさ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ