202 新・四天王2
ヤルモが戦闘を始める少し前、イロナVS執事風の老紳士クスターとの戦闘は始まった。
「よく避けましたね」
初手はクスター。耳を劈く音を発生させる突撃から、レイピアによる刺突。イロナが紙一重で避けたら、クスターは嬉しそうに振り返った。
「たいした突きでもないから当然だ」
イロナはややガッカリした顔。やはり、いまからでも一人で新・四天王を相手取ろうか悩んでいる。
「ただのお試しなのですから、そうガッカリした顔をしないでください」
「お試し??」
「本当にあなたがあの中で一番強いのか確認しただけです。元、アルタニア帝国一の近衛騎士が相手にすべき相手かと……」
「そんなのが自慢になるとは思えないがな~」
アルタニア帝国で一番だと言われても、イロナには伝わらない。魔王に殺された時点で弱者だと決め付けているからだ。
しかしクスターはそれが気に食わないようで身の上話が始まった。
「年老いて行くなかで、何が一番辛かったと思います? あれだけ鍛えた筋肉が衰えて行くのです。あの恐怖は、いまも思い出しただけで涙が出ます」
「……」
「なので技を磨いてみましたが、完成したと思った技は盾すら貫けませんでした。完成にも、あと一歩筋力が足りなかったのです」
「……」
イロナは無言で見ているのに、クスターの話は止まらない。
「しかし魔王様から与えられたこの力は素晴らしい。私の全盛期の力を遥かに超え、技もそのまま受け継がれました。見た目は老けたままなのは残念ですが、現在の私は最強と言っても過言ではありません!!」
ようやく結論が来たので、イロナの返し。
「はぁ~~~……長々と何を喋るかと思っていたら、つまらん……」
だが、超酷い。
「なっ……この素晴らしい話のどこがつまらないのですか!?」
「全てだ。そもそも力無き者が考えた技法が、技だ。なのに、力が足りないから完成しなかった? 意味がわからん」
「私の苦労を嘲笑うというのですね……」
「興味がない。というか、この長話は我を動かさないための作戦なのだろ?」
「違います! 瞬殺しても面白くないから話をしただけです!!」
イロナ相手だと、人の苦労はどこへその。クスターも微妙に涙目になってしまった。
「もういいだろ。さっさと死ね」
「それは私のセリフです!!」
どう考えても新・四天王のセリフなのにイロナが言ってしまったがために、クスターは怒りの刺突。しかも、さっきより倍は速い。
「ぐわっ!?」
だが、イロナは接触間際に胴を薙ぎ払い、クスターを真っ二つに……。その二つの物体はゴロゴロと転がり、花壇にぶつかってようやく止まった。
「なんだ……ただのザコではないか」
そこに近付いたイロナは、上から物を言う。
「油断していただけです! こんな傷、私は瞬く間に治るのですよ!!」
クスターが体の断面を合わせるとすぐにくっついて、立ち上がるにも支障はなくなる。
「今度はさらに倍だ~~~!!」
それどころか、もうすでに激しい動きをしてもいいくらい完全回復していた。
「ぎゃああぁぁ~~~!!」
しかし、イロナはその凄まじい速度の突きを、今度は四肢を斬り刻んで攻防一体とする。
「やはりつまらん……せめて二対一にしておけばよかった」
イロナが愚痴りながら近付くと、クスターは一瞬で両手両足を生やしてレイピアを拾う。
「フッ……まだまだ私は本気を出していないのに、そんな余裕があると思っているのですか?」
「もちろんだ。貴様の技など我に通じん」
「ならば、最高速度だ~!!」
クスターの攻撃は、最後まで刺突。足の筋肉が異常に発達しているので、その足ならば、先程の三倍はスピードが出るだろう。
「はい??」
だが、そのスピードをイロナが凌駕する。クスターが足に力を入れた瞬間に間合いを詰め、全身滅多斬りにしたのだ。
「この程度で死にはしないのだろ? さっさと治せ」
呆気に取られるクスターの髪の毛を掴んでいたイロナが命令すると、クスターはこちらに戻って来る。
「くっ……これしき、永遠の命を得た私に……ぎゃああぁぁ~~~!?」
一瞬で体を治しても、意味がない。クスターは体を治す度に斬り刻まれ、悲鳴を上げるのであった。
「もうおしまいか?」
何度も頭だけにされたクスターは徐々に復活の時間が遅くなり、しまいには頭だけの姿で止まったので、イロナは髪の毛を掴んで質問した。
「こ、こんなわけは……」
「技がどうとか言っていたお前には、いい物を見せてやろう」
クスターはイロナとの力の差が飲み込めず、放心状態。そこにイロナは髪を掴んだまま、一瞬で移動する。
「主殿を見ろ。あれが、技というものだ」
クスターがムリヤリ見せられているのは、ヤルモが二体のカイザーヴァンパイアの猛攻を捌いている姿。スピードで遥かに負けているのに、経験と技を持って致命傷を避けている姿だ。
「どうだ。主殿の凄さはわかったか?」
「あんなの、ただ甚振られているだけでは……」
「はぁ~。だからお前は弱いのだ。次の世があるのなら、一から修行をやり直せ」
イロナはクスターの頭を斬り刻み、この世から抹消する。
こうしてイロナとクスターの戦闘は早くも決着。およそ五分の出来事であった……