193 ムオニノの町4
「満足したか?」
四天王を圧倒したイロナに、モンスターを倒しながら近付いたヤルモは背中越しに尋ねた。
「うむ! 一匹ではたいしたことはないが、四匹同時ならけっこう楽しめたぞ」
イロナは満面の笑みでモンスターを斬り裂きながら答えてくれたので、ヤルモはホッとする。
「あとは、こいつらを一掃するだけだな」
「いや、もう一匹いる」
「ん? 魔王もここにいるのか??」
「こないだのコウモリだ」
「コウモリ??」
「我はコウモリを仕留めて来るから、主殿たちは下を片付けていろ」
イロナは質問に答えずに空を駆けて離れて行ったので、ヤルモは迫り来るモンスターを相手取る。その数秒後には空から戦闘音が聞こえて来たが、ヤルモも忙しいので見上げている暇はない。
そうしてモンスターの数が減って来ると、勇者パーティとすれ違い様に進捗状況を確認し、モンスターが残り僅かとなった頃にイロナが降って来た。
「ドーン!」と鳴った方向にヤルモと勇者パーティが一斉に見ると、そこには人型のモンスターが四肢を無くし、胸に剣を突き刺されて倒れていた。
ひとまずヤルモたちは目配せし、代表でヤルモとオスカリがイロナに駆け寄った。
「そいつって……前の町にもいた喋るヴァンパイアロードか?」
「うむ。こいつが空からモンスターを操っていたのだ」
「てことは、指示役ってことか……いったいぜんたい、どうなってるんだ??」
「我に聞くな。こういうのは主殿が詳しい」
「俺も知らないって~」
ヴァンパイアロードが塵となり行く中、オスカリの問いをいきなりイロナに無茶振りされたヤルモは情けない声を出していたが、まだモンスターが残っているのでそれどころではない。
「とりあえず、モンスターを倒そうぜ。考えるのはそれからだ」
「だな。ここさえ終わらせたら、あとは兵士で楽勝だろう。残りは俺たちの取り分でいいか?」
四天王というおいしい敵がいたのに、イロナひとりに取られたからには勇者パーティとしては立つ瀬がない。オスカリはせめて上位モンスターを倒したいようだ。
「そうだな……貴様らの糧にせよ。レベルがひとつでも上がれば、また我が楽しめるからな」
「テンション下がるようなこと言うなよ~」
「俺も行こっと……」
イロナの譲る理由が強者を求むことだったので、オスカリはやる気が下がる。しかしヤルモは、自分も巻き込まれることが確定しているとわかっているので、率先してモンスターを狩るのであったとさ。
「そっちの報告を聞かせてくれるか?」
上位モンスターを殲滅して休憩していたヤルモたちの元へ賢者ヘンリクが走って来たので、そちらは勇者パーティが対応。
ほとんど「お前もパーティに戻ってイロナと戦え!」的な愚痴であったが、ヘンリクは「残りはアルタニア兵で処理する」と言って逃げて行った。
たぶん、イロナと戦うのは一回でお腹一杯なのだろう。
それからしばらく経つと、勝鬨のような声が聞こえて来て、ムオニノの町からモンスターを一掃した合図となるのであった。
今日はここで野営となるので、アルタニア軍は事後処理で忙しく動く。死んだモンスターを運び、使えそうな装備は掻き集める。
この作戦には冒険者も参加しているので、食用のモンスターは冒険者が解体し、町の氷室や保管庫に運ばれる。食用に向かないモンスターや取れる肉が少ないモンスターは焼却処分となり、一ヶ所に集められて兵士が燃やす。
今回は上位種も豊作なので、解体された物は勇者パーティとヤルモパーティの元へと運ばれていた。
「「「「うんめぇ~~~!!」」」」
ただ塩を振って焼いただけの肉なのに、勇者パーティは大満足。両手に骨付き肉を握って貪り食っている。
ヤルモとイロナはそれを横目に見つつ、こちらも手で掴んでかぶりついている。
「うまいけど、あの牛には勝てないな」
「うむ。しかし、カイザードラゴンなど食べられるとは思いもしなかった」
「そりゃ、ダンジョンの下層にいるもんな。こんなことでもないと無理だろ~」
「なるほど……下層から連れ出せばいいのだな」
「かもな……いや、そんなことしたらヤバくない??」
イロナなら余裕でできると思ったヤルモであったが、こんな未来も想像してしまった。
カイザードラゴンを地下深くから甚振って上って来るイロナの姿。それはまだいいとして、カイザードラゴンを見てモンスターが逃げ惑ったとしたら、それはもうスタンピード、もしくは魔王じゃね?? と……
勇者パーティにも耳に入ってしまったのか、食べる手がピタリと止まった。
「おいおい。絶対にそんなことさせるなよ? あの嬢ちゃん、絶対に魔王認定されるぞ??」
「俺に止められると思うのか??」
「いや、止めてもらわないと俺たちが困る。呼ばれても絶対に行かねぇからな!」
魔王の相手は勇者がするもの。しかし、これまで散々イロナに甚振られたオスカリは、すでにお手上げ。せめてユジュール王国以外でやってくれとヤルモにお願いしていた。
「ところで、ここには何日ぐらい滞在するのだ??」
そんなやり取りをしているヤルモとオスカリの元へ、イロナからの死の宣告。
「ヘンリク! ヘンリクはどこだ! すぐに出発するぞ~~~!!」
またここで数日過ごすと、イロナの暇潰しに使われる。オスカリは痛い思いをしたくないので、必死にヘンリクを探し回るのであったとさ。