192 ムオニノの町3
町の中央には、四天王が揃い踏み。
金棒を持つ巨大な牛人間、カイザーミノタウロス。
巨大な赤黒いドラゴン、カイザードラゴン。
巨大で鎧を着こんだ鬼、カイザーオーガ。
モンスターになってまで魔法を追求する巨大な魔法使い、カイザーウィザード。
単体ならベテラン冒険者でも倒せるだろうが、それが4体も同時に出現しているのならば、まず、死を免れない。
しかし、そんな強敵を見てイロナは不敵に笑い、ヤルモは小さくガッツポーズしてる。前者は強敵に喜び、後者はイロナが満足してくれると喜んでいるのだ。
「てか、キング級やエンペラー級もその辺にいるけど……乱戦でもイロナは大丈夫だよな?」
「クックックッ。もちろんだ。これはこれでなかなか趣のあるシチュエーションだな」
「同意はできないけど……とりあえず、イロナの背中を守る感じで戦ったらいいか?」
「うむ。だが、四天王は我の獲物だからな!」
「う~い」
作戦を擦り合わせたら、戦闘の開始。イロナは一瞬で移動して、カイザーミノタウロスに一太刀入れ、カイザーオーガにも蹴りを入れる。
いきなりイロナは四天王とモンスターに囲まれる形になってしまっているので、ヤルモはそこに突撃。剣と大盾を振り回して道を作り、囲まれても気にせず戦っているイロナの後ろに陣取った。
「後ろと横は任せろ!!」
「おう!!」
360度から迫るモンスターと戦っていたイロナは、ヤルモが来たことによって前面に集中できる。
イロナは凄まじい速さで攻撃を繰り出し、四天王を傷付ける。魔法やブレスが放たれた場合は剣で斬り裂き、自身へのダメージはゼロ。
しかし四天王の後ろにもモンスターが控えているので、間からモンスターが躍り出る。その場合もイロナは笑いながら対応。あっという間に斬り裂き、一切隙を見せない。
ヤルモは倒すことを優先せずに、モンスターの足並みを乱すことを優先して戦う。剣や大盾でモンスターを弾き返す方向を調整し、できるだけ多くのモンスターを巻き込んで転倒させ、イロナに向かわないようにする。
たまに後ろからブレス等の余波が来るが、ちらちらイロナの戦闘は見ているので、余裕があれば大盾で防御。間に合わない場合は、歯を食い縛って耐える。
まぁイロナが剣で斬った余波なので、ヤルモの防御力ならたいしたダメージとなっていない。
ヤルモの協力のおかげでイロナは四天王と楽に戦うことができ、順調にHPを削っていたら、ヤルモ側のモンスターの群れに穴が開いた。
「なんちゅう戦い方してんだ!」
勇者パーティの登場だ。モンスターの上位種相手に二人が囲まれていたから、慌てて助けに来たようだ。
オスカリはあとから来たわりにはヤルモに指示を出して、イロナを起点に円形の配置で戦闘を繰り広げながら喋る。
「普通、ちょっとずつ倒してボスと戦うんだろうが」
「俺もそう思う。でも、イロナのテンション上がってるから……」
ヤルモだって、できるなら乱戦なんて避けたい。避けたいのだ。
「そ、そうか。じゃあ、しゃあねぇな」
イロナの名前を出しただけで、オスカリは納得。イロナが難易度の高い戦いを欲していると瞬時に理解した。
「てか、後ろの4体って、他のモンスターと別格な気がするんだが……」
「四天王だ」
「マジか!? 初めて見た……」
「言っておくけど、四天王、めっちゃ強いからな? 一体だけでもめちゃくちゃしんどいんだからな?」
ヤルモが忠告すると、オスカリは何か気付いたようだ。
「ひょっとしてだけど、お前も一人で四天王を倒したのか??」
「ああ。ろくな仲間がいなかったからな。その時は、1体ずつなんとか倒してたけど満身創痍だった。一人で同時に相手取っているイロナが異常なんだ」
「いや、お前も大概なことしてるぞ?」
「俺はやるしかなかっただけだ」
ここでオスカリもヤルモが異常だと決め付け、だからこそイロナと行動を共にできるのだと納得した。
「てか、やりにくいだろ? こっちはいいから、外から削ってくれ」
「確かに俺たちにはやりにくいか……心配して損したぜ」
時々イロナの戦闘の余波が襲うので、勇者パーティがやりにくいというより、ヤルモが守るのが面倒になったので追い払う。
勇者パーティもこんな乱戦を……というか、後ろにも敵がいるから戦いにくいのでヤルモ案を受け入れ、モンスターを吹き飛ばした瞬間にタイミングを合わせて逃げて行った。
これでヤルモは通常運転。モンスターを吹き飛ばし、少しずつHPを削る。
勇者パーティは外から1体ずつ標的にしていたが、ヤルモが吹き飛ばして隊列が乱れたところを狙ったほうが楽だと気付き、倒れているモンスターに一斉に襲いかかってトドメまで持って行く。
勇者パーティとヤルモの策が上手く嵌まり、モンスターが倒れるスピードが加速。しかし加速しているのは、イロナも同じだ。
上位モンスターが割って入る数が減ったので、四天王に与えるダメージが増える。まずはカイザーミノタウロスが落ち、カイザーウィザードが斬り刻まれる。
そしてカイザーオーガを倒したら、あとはお楽しみ。今まで手加減した蹴りだけで押し戻していたカイザードラゴンと空中戦を繰り広げ、綺麗に首を斬り落としたのであった。