189 ケミヤロビの町6
「てか……どゆこと??」
賢者ヘンリクの【血の盟約】によって皇帝が身動き取れなくなると、ヤルモはついて行けないのでヘンリクに問う。
「俺も何も聞いてないぞ!!」
勇者オスカリも協力はしたが何も聞かされていなかったので、怒鳴るように質問した。
「話せば長くなるんだが……」
「「手短にっ!!」」
ヤルモもオスカリも長い話を聞きたくないから声を揃えると、ヘンリクはやれやれといった仕草をして語り始める。
ヘンリクが皇族の血を引く庶民の生まれは聞いていたので、その先を……
次期皇帝の父が殺されたならば、息子の自分と母が見付かった場合殺される可能性が高いので、父の知り合いがユジュール王国に逃がしてくれたこと。
ユジュール王国では国王が力になってくれたのだが、ヘンリクはいつかアルタニア帝国に帰って復讐すると誓って、得意の魔法を学んで賢者となったこと。
その過程でオスカリたちと出会い、復讐はどうでもよくなっていたこと。
ここからは、カーボエルテ王からの書状……
何故かカーボエルテ王はヘンリクの生い立ちを知っていて、皇帝に推薦したこと。もしも嫌ならそっちで皇帝候補を決めて、両国で内政干渉すること。
それらをユジュール王から聞いたヘンリクは、アルタニア帝国を変えるチャンスと考え、温めていたプランを何個か出して、一番勇者パーティに被害が出ない方法に決まった。
「えっと……ということは、俺はカーボエルテを出発する前から、アルタニアの変革作戦に組み込まれていたと言うことか?」
ヘンリクの話を聞き終えたヤルモは、無い頭をフル回転させて答えに行き着いた。
「そうだな……カーボエルテ王も皇帝のやり方は嫌っていたから絵を描いたみたいだ。これだけ強い二人なら、死にはしないと」
「嘘だろ~。また俺は嵌められたのかよ~~~」
ヤルモ、ガックシ。あれだけ信用したクリスタに騙されたと思って、膝をついた。するとヘンリクも目の前で膝をつけ、ヤルモに向かって土下座する。
「ヤルモ……こんなチャンスをくれて、私は感謝している。皇帝の目の前まで連れて来てくれなかったら、私は何もできなかった。これで、アルタニア帝国を変えられる。ありがとう!」
ヘンリクの感謝の言葉に、ヤルモはポカンとするしかない。
「おい。男が頭を下げてるんだ。何か言ったらどうなんだ?」
そんなヤルモの肩に手を置いたオスカリ。しかし、何も思い付かない。
「いや、俺は流されてここに来たから……」
「だってよ。一番の立役者なのに、自覚がまったくないぞ」
「立役者??」
「だってそうだろ? カーボエルテ王が聖女を縛らなかったら、俺たちはここまで来れなかった。ユジュール王の頼みをきいてくれなかったら、俺たちはここまで来れなかった。アルタニア帝国を変えるのはこれからだが、上手くいったなら、革命の立役者はヤルモ……お前だ」
勇者オスカリの言葉に、ヤルモの肩に重たい物が……
「俺は革命なんて考えてないぞ! お前たちが勝手にやったんだからな!!」
乗ったけど、払いのけた。
「そう言うなよ。英雄様」
「お、おお、お前……絶対面白がっているだろ! 英雄とか呼ぶな~~~!!」
「「「「「わはははは」」」」」
どうしても国のいざこざに関わり合いたくないヤルモが叫ぶが、勇者パーティは茶化して笑い続けるのであったとさ。
「絶対に俺は英雄にならないからな……」
ヤルモが恨めしく睨んでブツブツ言っていても、そんな場合ではない。ヘンリクは皇帝を使って兵士の前で「暗殺は冗談で和解した」と嘘をつかせる。
これでヤルモたちは自由の身。ヘンリクとマルケッタだけ残り、その他は領主邸で割り振られた部屋にて各々体を休める。
「うっううぅぅ……うが~~~!!」
皆と別れたヤルモはベッドに飛び込み、ゴロゴロ右往左往して悶えていた。
「なんだかさっぱりわからんが、今日はヤルのかヤラないのかヤルんだろ?」
しかし、ベッドに腰掛けたイロナは通常運転。ヤルモは耳をピクピクさせて、ゴロゴロは止まった。
「あ~……また厄介事に巻き込まれた。ツキが回って来たんじゃないのかよ。クソッ」
「ツキなら回って来てるじゃないか?」
「まぁイロナを抱けるのはいいけど……」
「それではない。こんな短期間で魔王と二度も戦えるんだぞ? 我は人族の領域に来て、なんてツイてるんだ。クックックックッ……」
「それって、イロナ自身のことを言ってるだけでは……」
慰めてくれていると一瞬思ったヤルモであったが、イロナは魔王しか見えていない。なんだか笑い方も怖いので、ヤルモもさっきまでの話に戻れないでいる。
「まぁ細かいことは賢者たちがやってくれるし、俺たちは魔王を倒せばいいだけか」
「うむ。もしかしたら、四天王も強くなっているかもな」
「四天王か~……そう言えば今日倒したヤツって、四天王だったんじゃね?」
「あんなザコが四天王なわけあるまい」
「イロナに取ってはだろ……」
ヤルモは戦ってはいないが、喋っていたからにはカーボエルテの魔王までは行かなくとも、それなりに強いのではないかと予想している。
しかし、イロナは認めてくれない。それどころか、魔王のことを考えていたら体が疼き出した。
「今日は中途半端だったから、主殿が立ち合ってくれないか?」
「どうしてそうなった!?」
イロナが疼いた感じは、戦闘欲。いまのイロナと戦ったら殺され兼ねないと思ったヤルモは、必死に体を売って夜が更けて行くのであった……
次話『 189-2 』は性的な描写が含まれていますのでアルファポリスにて『 R-18 』のサブタイトルで、明日更新します。
18歳以上でもしも読まれたい方は、アルファポリスにてしばしお待ちください。