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188 ケミヤロビの町5


 オスカリが皇帝暗殺と勇者らしからぬことを口走ったからには一触即発。将軍や周りにいる騎士が剣を抜き、外へも応援を呼びに走る。


「おい……これ、どうすんだよ? マジで皇帝を殺すのか??」

「いや、俺もヘンリクに言われた通りのことを言っただけだから……」


 ヤルモとオスカリはコソコソやりながら賢者ヘンリクを見たら、悪い顔をしていた。


「アイツ、ヤバくないか?」

「お、おう。こんな顔、見たことない……」


 二人がコソコソしていたら、選手交代。ヘンリクが指図する。


「まずは、護衛を追い出して立てこもろう。皇帝とゆっくり喋るのはそのあとだ」

「チッ……もうやるしかないよな!」

「俺は何もしないからな!」


 オスカリを含めた勇者パーティは覚悟を決めたが、ヤルモは覚悟がないので、イロナとマルケッタを連れて部屋の端に移動した。


「全員殺せ!」

「「「「「はっ!!」」」」」


 そのすぐあとに、皇帝の命令と共にアルタニア兵は襲い掛かって来た。


「「「「「ぐわ~~~!!」」」」」


 しかし、勇者パーティは一蹴。武器も使わずに殴り飛ばし、全員部屋から放り出されるのであった。



 それから出入口を塞いだら、ヘンリクはツカツカと皇帝に近付いた。


「ところで皇帝陛下は、シュルヴェステルという名に聞き覚えはありませんか?」


 一瞬の出来事で呆けていた皇帝は、ヘンリクの問いで気を取り直し、兵士が一人もいなくなっていても態度を崩さず受け答えする。


「シュルヴェステル……あの反逆者か……」

「そう。反逆者となっている皇帝陛下の兄上のことです」

「それがなんだと言うのだ」

「シュルヴェステルは皇族の中では珍しく民に優しい人物でした。将来的には帝国の構造改革をしたいと言っていたのですが、夢半ばに冤罪で殺されてしまったのです」


 ヘンリクがとうとうとシュルヴェステルなる人物の人となりを語ると、ヤルモは「こいつ何言っちゃってんの?」と最初は思っていたが、冤罪と聞いてからは自分のことのように聞いていた。


「仮に、本当に反逆者だとしても、何も一家全員処刑はやりすぎでしょう」

「王を暗殺したのだ。当然の報いだ」

「何故、第一継承権のシュルヴェステルが殺す必要があります? 待っていれば、皇帝の椅子は回って来ますのに」

「シュルヴェステルはその性格から父上に嫌われていたのだ。だから、(ちん)に王位を譲ると宣言した矢先に犯行に及んだ」

「なるほど、ストーリーとしてはよくできています。フッ……」


 ヘンリクが小バカにするように笑うと、皇族は不服そうな顔をする。


「そんな昔のことを出して、お前は朕に何を言わせたいのだ?」

「単なる確認です。父からの手紙では、第二王子が第一王子に罪を着せて皇帝暗殺を(くわだ)てていると書かれていましたので」

「父? 手紙??」

「それはもう、綿密に計画されたものでした。毒の入手先、第二王子に皇位を譲る遺書、関わった貴族、口封じに殺した人数……これさえ表に出していれば形勢は逆転していたのでしょうが、一歩遅かった」

「毒だと……貴様は何者だ!!」


 前皇帝崩御は、表向きには賊と戦って死んだことになっているので、知っている人は極一部。なので皇帝は焦っているように見える。


「先に言ったはずです。シュルヴェステルは私の父です。あなたは息子の私を取り逃がしていたのですよ」

「いや、息子も縛り首に……」

「それは、政略結婚させられた家族です。父は、庶民の母と私をとても愛しておられましたから。もちろん結婚したからには、本妻と子供も、私と同じように愛情を注いでいたらしいですよ」


 新事実の発表に、ヤルモとオスカリはまたコソコソやっている。


「おい、あいつ、なんか自分は皇族みたいなこと言ってるぞ?」

「いや、俺も初耳なんだけど……」

「てか、俺たちって、お家騒動に巻き込まれてないか??」

「お、おう……どうなってんだ??」

「俺が聞いてるんだよ~~~」


 ますます肩身が狭くなるヤルモ。しかし、もうすでに皇帝監禁の罪は確定しているので動くに動けない。


 なので、皇帝とヘンリクのやり取りを聞くしかない。


「フッ……いまさらそれがどうした。何十年も前のことなど、どこに証拠が残っているというのだ」

「証拠など必要ありません。父の恨みを私が晴らすだけです」

「殺すだけなら容易(たやす)いだろう……その後はどうする? お前が皇帝となったところで、我が息子が必ずや報復に現れるぞ」


 皇帝はすでに自分の死など関係ないと言わんばかりに反論するが、ヘンリクも死を覚悟してここに立っている。


「私はいいのです。父の意思が受け継がれ、アルタニア帝国が変わってくれたなら……」

「そんなことはできぬ!」

「そうでしょうか? アルタニア帝国には火種はそこかしこにあります。ここでクーデターを起こし、聖女様が代官として民を導けば、必ずや味方は集まりますよ。ここにいるヤルモという男も、アルタニア帝国の被害者の一人なので、こうしてクーデターに駆け付けてくれたのですからね」


 何故かヘンリクがヤルモを紹介するので、ヤルモは首がもげそうなぐらい首を横に振っている。


「ぶはははは。それなら自分でやってみろ! アルタニア帝国の闇の深さ、とくと味わえ! 朕は地獄から見させてもらうとしよう。ぶはははは」


 皇帝は自分の死を覚悟して笑うと、ヘンリクもニヤリと笑う。


「と、筋書きを用意していたのですがね~……そんなことをすると、無関係の人を巻き込んでしまうので、やめました」

「ははは……は??」

「皇帝陛下には私と血の盟約を結んでもらって操り人形になってもらいます」

「な、なんだと……」

「あなたにとって、死ぬより屈辱的でしょう。父の仇やアルタニアの膿という膿をあなたの手で絞り出し、継承権のある子供まで自分で殺すのですから……もちろん、恨みはあなた一人に抱えさせて死んでもらいます」

「ふざけるな……やめろ……」

「オスカリ……すまないが手伝ってくれ」

「お、おう……」


 こうして勇者パーティに体を押さえ付けられた皇帝は逃げることもままならず、王族だけが使える秘術【血の盟約】によって、ヘンリクの操り人形になるのであった……


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