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186 ケミヤロビの町3


 外壁から飛び下りたように見えたイロナは、力業(ちからわざ)で空気を踏んで空を駆け、バサバサと飛んでいる血色の悪い黒髪の男、ヴァンパイアロードに急接近。

 ヴァンパイアロードは下を見ていてまだイロナに気付いていないので上から通り越し、後ろに回り込んで高度を合わせた。


「まさかお前が魔王とか言わないだろう?」


 魔王ならば会話が成り立つので、念のため確認するイロナ。無言ならそのまま斬り捨てようと思っていたのだが、ヴァンパイアロードは距離を取った後に口が動いた。


「魔王様は至高の存在。私はしがない指揮官ですよ」

「喋っただと……」

「どうやって飛んでいるのでしょうか……」


 ヴァンパイアロードが喋ったことでイロナに疑問が浮かび、翼も無しに飛んでいるイロナに気付いて疑問が浮かぶヴァンパイアロード。


「まぁいい。主殿に見せてみよう」

「何がいいかわかりませんが、駒が尽きそうなので私は帰らせていただきます」

「逃がすわけがなかろう」

「人族ごときに掴まる私だと思いますか?」


 睨み合い、隙を探す二人。


「消えた!?」


 いや、隙を探していたのは、逃げようとしていたヴァンパイアロードだけ。イロナは高速で空を駆け、一瞬にしてヴァンパイアロードの四肢を切断した。


「これしき、私には……」

「いくらでも生やすといい。その感触をいつまで楽しませてもらおうではないか」

「ナメるな~~~!!」


 ヴァンパイアロードは四肢を生やして元に戻すと同時にイロナに襲い掛かろうとしたが、今度は四肢プラス羽を斬り落とされる。さらには、イロナの回し蹴り。


「がはっ……」


 これも一瞬で、ヴァンパイアロードは外壁の頂上付近に叩き付けられて減り込むのであった。



「なんか飛んで来たんだけど……」


 凄い衝撃で外壁が揺れたので、ヤルモは身を乗り出して下を見た。


「人か? うわっ!?」


 なんとか外壁に減り込んだ物が目に入ったヤルモであったが、次の瞬間にはロングソードが飛んで来て、ヴァンパイアロードの胸に突き刺さった。


「主殿。お土産だ」

「イロナ……お土産ってなに??」

「こいつだ」


 宙を蹴って浮いていたイロナはヴァンパイアロードの頭を鷲掴みにし、外壁の上に投げ捨てて、ヤルモの質問の答えとする。


「これって……黒髪だからヴァンパイアロードじゃね??」

「そうだ。喋っていたから主殿にも見せてやろうと持って来た」

「それって魔王じゃん!!」


 ヤルモが驚いていたら、ヴァンパイアロードの四肢は復活して、ゆっくりと起き上がる。


「あなたは強いですが、魔王様のほうがもっと強い」

「うおっ! 喋った!?」

「な? 自分以外のことを魔王とか言ってるだろ??」

「聞いていますか??」


 ヴァンパイアロードが何か言っているのにわいわいやってる二人。質問したのに二人は答えてくれないので、ヴァンパイアロードもチャンスかと思って逃げようとした。


「ぐああぁぁ~!!」

「だから逃がすわけがないと言っているだろう」


 しかし、イロナはヴァンパイアロードを斬り刻み、今度は胸から上しか残っていない。


「まだ生きてるな……」

「あと、四、五回は楽しめそうだ」

「かわいそうに……」


 どうやらイロナは、自分が楽しむために生かしていたようだ。下手に細かくしすぎると煙りになって霧散した後に離れた所で復活するから、わざと大きな塊を残しているのだ。

 それに気付いて哀れんでいたヤルモであったが、そんな場合ではない。賢者ヘンリクを呼び寄せて一緒に尋問していた。


「私に何を聞こうと、死んでも答えませんよ」

「ここまでされても喋らないって……」

「モンスターでは、死の概念が違いすぎるのかもしれない。興味深い……」

「でも、人間みたいでかわいそうに思えるな~」

「私としては、実験に使いたいのだが……あっ!!」


 ヤルモと賢者が話し合っている間もイロナが斬り刻んでいたので、ヴァンパイアロードは復活するエネルギーが無くなり、灰となってその場に残るのであった。



「ふむ。ダンジョンから出たヴァンパイアは、このように死ぬのか」

「まだ喋ってたんだけど……」


 ヴァンパイアロードが息絶えると、イロナの関心は生態のみ。ヤルモが残念そうにしていても興味がなさそうだ。


「ん? なんか叫んでいるぞ」

勝鬨(かちどき)だな。終わったようだ」


 下から大声が聞こえて来たと思ったら、外壁の上からも同じ声が聞こえて来たのでヤルモが不思議に思っていたら、ヘンリクが答えを告げた。

 なので下を見ると、勇者オスカリを囲むように兵士が集まり「えいえいおー!」と剣を掲げていたのであった。


「プッ……あとから来ておいて恥ずかしくないのかよ。どう見ても、MVPはイロナか賢者だろ」

「まぁアレが勇者の役目だから大目に見てやってくれ」

「確かに、俺たちの隠れ蓑にはもってこいか」


 ヘンリクが自身の手柄を取られても笑っているのでヤルモも笑って許す。目立ちたくないヤルモに取っては、オスカリが目立てば目立つほど有り難いみたいだ。



 こうしてケミヤロビのモンスター襲来は、ヤルモとイロナの活躍は(かす)み、勇者オスカリの存在感が爆上げして終わりを告げるのであった……


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