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185 ケミヤロビの町2


「嘘だろ……」

「俺たちはあんなに苦労したのに……」


 ケミヤロビに入ったトロールエンペラーは、イロナ相手に逃げることもままならず、右足と左手を切断された後、首も斬り落とされて撃沈。

 アルタニア兵は、瞬殺されたことに驚いてその場に立ち尽くしている。


「これでよかろう?」

「は、はい……」


 そして案内役に一声掛けて、イロナは消えたのであった。



「まだやっているのか」


 外壁の穴まで戻ったイロナは、モンスターを吹き飛ばしているヤルモに声を掛け、ヤルモは後ろも見ないまま返事する。


「思ったより多くてな。てか、どんなモンスターだった?」

「ザコの親玉はやはりザコだった」

「あ、そう」


 ヤルモは「それはイロナに取ってはだろ」と思いながらも、あまりつつくと機嫌が悪くなりそうなので深く踏み込まない。


「どうする? もうじき勇者たちも来るし、あとは任せるか??」

「ふむ。そうするか」


 意外にもイロナがモンスターを譲ると言うのでヤルモは不思議に思う。しかし、モンスターはいまだに押し寄せているので戦闘は続けている。

 そうして一人で戦っていたら、前方から五人の影が見えた。その影はモンスターを蹴散らし、ヤルモたちの前に来ると反転して防御陣形を組んだ。


「なんだよ。息巻いてたわりには、まだまだモンスターが残ってるじゃねぇか」


 勇者パーティだ。オスカリはイロナがほとんど倒したものだと思っていたので、出番があって少しテンションが上がっている。


「飽きたみたいだ。あとは任せた」

「そんな理由でか!?」

「よかったじゃないか。出番があって」

「お前ら覚えてろよ……」


 ヤルモが残飯処理を押し付けるとオスカリは文句を言っていたが、イロナには覚えていてほしくないと心の中で思っている。

 ひとまずヤルモは、パラディンのトゥオマスが背負っているマルケッタを受け取ると、これからの作戦を聞いておく。


「そこで戦い続けるのか?」

「いや、この程度ならバラけるつもりだ。すまんが後衛の二人を上に連れて行ってくれ。そこからのほうが狙いやすい」

「わかった。んじゃ、俺たちは休ませてもらうよ」


 マルケッタを背負ったヤルモはイロナと腕を組み、そのあとを賢者ヘンリクと大魔導士リストが続く。

 その辺にいたアルタニア兵にマルケッタを見せて外壁の上に案内させると、そこで指示をしていたチョビ髭の将軍の元まで連れて行かれた。


「こいつらが、聖女様が雇った勇者パーティだと~??」


 案内役から説明を受けた将軍は、ヤルモたちを見てあからさまに不機嫌そうな顔をした。その顔を見たヤルモはイラッと来て、床に下ろしたマルケッタに耳打ちして喋らせる。


「何か不満でもありまして? そもそもこの程度のモンスター相手に遅れを取っているあなたこそ何をなさっていますの??」

「あ……いえ……巨大なトロールがいましてですね……」

「その程度も倒せず中に入れてしまうなんて、指揮官失格ですわね。お父様に報告させていただきますわ」

「そ、それだけは……」


 マルケッタの脅しに将軍が屈すると、ヤルモはニンマリ。しかし、いまだ戦闘中なので、ここはヘンリクに相談してみた。


「こちらの賢者様がこれより指揮いたしますわ。あなたは大声を出すだけでよろしいですわよ。それぐらいならできますでしょ?」

「それでは私の立場が……」

「わかりました。この場で解任しますわ」

「ぐっ……王女様の仰せの通りに」

「賢者様、あとはよろしくお願いします」


 これより賢者ヘンリクが指揮を取り、アルタニア兵は効率良く動く。下では勇者パーティのトゥオマスが外壁の穴を塞ぎ、オスカリと魔法剣士レコが駆け回っているので、それ以外のモンスターにまとまった遠距離攻撃。

 ある程度モンスターが減ると部隊を編成して、接近戦に移行するのであった。



「おお~。人族がゴミのようだな。な?」

「ゴミって……かわいそうに」


 外壁の上から戦闘を眺めていたイロナはヤルモに同意を求めたが、ヤルモはすんなりと頷けない。


「しかしあの男に代わってから、人族の(まと)まりがよくなったな」

「賢者のことか? たぶん頭がいいんだろう。人の使い方が上手い。最初っから賢者が指揮していたら、俺たちの出番はなかったかもな」

「ほう……魔法が得意なのは見たが、烏合の衆を纏めることも得意なのか」


 イロナは文化の違いが面白いのか、多数対多数の戦闘を楽しみながら見ているので、ヤルモも観戦を楽しむ。


「ホント、ユジュール王国の勇者パーティは優秀だ。どっかの勇者パーティと大違いだな」

「確かにな。あいつらと比べたら雲泥の差だ」


 今まで不甲斐ない勇者パーティしか見たことのないヤルモとイロナは、とある勇者パーティを思い浮かべて笑い合う。

 その同時刻、特級ダンジョンで戦闘中のクリスタが「くちゅんっ」と、かわいらしいくしゃみをしているとは露知らず……



 モンスターの数が残り僅かになると、ヘンリクがヤルモたちの元へやって来た。


「どうもモンスターの動きがおかしいんだ。何か気付いたことはないか?」

「いや、特には……てか、どこがどうおかしいんだ?」

(つたな)いが、統率が取れているように見えるんだ。まるで指揮官でもいるように……」

「ふ~ん。モンスターに指揮官ね~……まさか上から指示してたりな」

「そんなのあるわけ……ん?」

「「んん~~~??」」


 ヘンリクの相談にヤルモがボケると、ヘンリクは否定しつつ視線を上げたら、何かが浮いていた。


「イロナ、あそこに何か浮いてるんだけど……見えるか??」

「遠いからよくわからんが……ヴァンパイアみたいな羽があるな」

「「それだ!!」」


 モンスターを指揮していたのはヴァンパイアロード。謎が解けた瞬間、ヤルモとヘンリクの声が揃うのであった。


「ちょっと見て来てやる」

「おい……お前の女、飛んでるぞ??」

「まぁ、イロナだから……」


 しかし、強そうな敵を発見して飛び出したイロナのせいで、声がバラバラになってしまうのであったとさ。


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