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183 デスマーチ


「さて、行こうか!」

「「「「おう!!」」」」


 オスカリの音頭と勇者パーティの力強い声が聞こえるなか、ルオスコの町を立つ一行。


「「「「「いやいやいやいや」」」」」


 しかし、早くも止まった。


「ヤルモ! 止まれ~~~!!」


 しかし、ヤルモとイロナが先々行くので、オスカリが追い越して道を塞いだ。


「なんだよ」


 ヤルモが迷惑そうにすると、オスカリは頭をガシガシ掻きながら質問する。


「どっからツッコンだものか……」

「だからなんなんだよ」

「まず、最初に、聖女は背負って行くのか??」

「遅いんだから仕方がないだろ」

「次に、走って行くのか??」

「急がないとイロナが怖いから仕方がないだろ」

「最後に、俺たちにも走れと言うのか??」

「そうしないとイロナに殺されるから仕方がないだろ」

「うっ……」


 オスカリの問いに簡潔に答えたヤルモ。


「だから馬車は無しって言ってたのか~~」


 そして納得したオスカリ。勇者パーティも追い付いて来たら、何やら話し合う。


「まいったな~……前衛はなんとかなると思うけど、後衛がな~……」


 オスカリは大きな声を出しながらヤルモをチラッと見るので、なんとかイロナを止めてくれと言っていると気付いたヤルモ。


「無理だ……」

「だよな~」

「まぁ俺は鈍足だから、たぶん余裕でついて来れるぞ。もしも後衛が潰れたら、勇者とそっちのデカイのが背負って走れ」

「チッ……それしかないか……」


 ヤルモの案に、オスカリは舌打ちしながら頷くしかない。だってイロナがイライラしているのだから……



 それから再出発した一行は、ヤルモのペースに合わせて走ったら思っていたより余裕。今回はヤルモが「スピードアップアイテムは切らしている」とイロナに嘘をついたので馬車より早い程度の速度しか出ていない。

 本当は持っているけどケチなので使いたくない模様。そのケチなヤルモのおかげでオスカリも余裕を持って走れるので、追い付いて来て並走している。


「どうでもいいけど……」

「聞くな。喋っていたらスタミナが減るぞ」

「お、おう……」


 オスカリの質問は言わせねぇヤルモ。たぶん、隣のイロナが普通に歩いているように見えて速いからの質問だから、受け付けたくないのだろう。オスカリもその質問だったので、頷いて違う質問に変える。


「どれぐらいで休憩だ?」

「昼だ」

「そんなにか!? 人ひとり担いでおいて、お前が持たないだろう」

「俺のことはいいんだよ。仲間を気に掛けてやれ」

「そ、そうか……」


 ヤルモはイロナに脅されているから必死に走っていると思ったオスカリは少し下がって、賢者ヘンリクと大魔導士リストに時々声を掛けながら走り続けるのであった。



「おいヤルモ! お前もどうなってんだ!!」


 昼食時には、オスカリの苦情。ヤルモは携帯食をムシャムシャしながらオスカリを見た。


「お前、全然ペース落ちないじゃねぇか。話が違うだろ!!」


 ここまでの経緯を説明すると、走っていたらヘンリクが脱落し、オスカリが背負う。その少しあとにリストも脱落してパラディンのトゥオマスが背負う。

 これがお昼休憩の一時間前の出来事で、最初からマルケッタを背負っていたヤルモはペースが落ちると思っていたのに、それどころか涼しい顔でイロナと喋っていた。

 だから息も絶え絶えなんとか走り切ったオスカリは苦情を言っているのだ。


「早く食って体を休めろ」


 なのに、ヤルモは冷たい。


「嬢ちゃんも化け物だが、ヤルモも大概だな……」

「鈍足な分、スタミナがあるだけだ。いいから休め」

「せめて休憩の時間を作ってくれ! 頼む!!」


 オスカリが頭を下げるので、ヤルモはイロナに裁定を任せる。


「そうだな……お前たちのレベルが上がったら、また本気で立ち会ってくれると言うなら考えよう」

「だってよ。どっちがいい??」

「うっ……」

「いや、やっぱ走れ!!」


 ニヤニヤしながらイロナの質問の確認を取ったヤルモであったが、オスカリが言い淀んだ瞬間、突然焦り出した。


「はっは~ん。そういうことか。わかった。また戦おうじゃないか」

「だから走れよ~」

「がはは。お前も道連れだ」


 全てを悟ったオスカリとヤルモ。勇者パーティとの戦闘の際には、ヤルモまで戦闘に加えられて死ぬ思いをしたのだ。いまもイロナは、ヤルモと勇者パーティを獲物でも見るような目で見つめているのだから……



 休憩の確約が取れたオスカリは、一時間走ったら10分の休憩を入れて走り続ける。それでもヘンリクとリストは後半になるとバテるので、オスカリとトゥオマスの手を借りて、なんとか今日の宿泊予定の町に着いた。

 休憩時間を作ったせいで辺りは真っ暗となっていたが、宿屋の確保は出来たので勇者パーティは泥のように眠る。


 ヤルモ達はというと、貴族専用の宿を取って豪華なディナー。お風呂で旅の疲れを優雅に落とし、ベッドでは「ハァハァ」楽しむ。

 ちなみにマルケッタもひとり部屋で何故か「ハァハァ」言って夜を明かした。



 朝になると支払いはマルケッタの顔払い。ヤルモは払おうとしたのだが、宿屋のオーナーは王女様から貰えないと断り続けるので諦めていた。

 それから町を出ようと向かったが、門で待ち合わせしていた勇者パーティはまだ来ておらず。しかし時間通りに馬車に乗ってやって来たのでお(とが)めなし。どうも、ギリギリまで体を休めようと思って、馬車でやって来たようだ。


 こうして勇者一行はデスマーチを三日続け、その日の夕方過ぎに、皇帝が滞在しているというケミヤロビの町を視界に収めるのであった。


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