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172 帰郷への道中4


「気付いてるだろ! お前たちに言ってるんだ! いい加減止まれよ!!」


 冒険者らしき五人の中年男性はヤルモたちの前に回り込んで来たので、さすがにヤルモも止まるしかなかった。


「俺たちは今日この町に着いたばかりだから、迷惑なんて掛けてないはずなんだが……」


 ヤルモが面倒くさそうに応じると、五人の中のリーダーらしき髭面の剣士が前に出た。


「お前じゃない……そっちの女に用があるんだ」

「こいつ? またお前は人様に迷惑掛けたのか??」


 リーダーがマルケッタを指差すので、ヤルモは迷惑を掛けたと決め付けている。


「迷惑など掛けていませんわ。わたくしが声を掛けてあげたにも関わらず、断るから少し(ののし)っただけですわ」

「あれが少しだと……あんな汚い言葉、初めて聞いたわ! あのあと俺たちは三日三晩酒を(あお)ったんだぞ!!」

「そんなもの知りませんわ」


 どうやらこの中年パーティは、マルケッタの心ない言葉に傷付き、傷の舐め合いをしてなんとか回復したようだ。その光景が見えてしまったヤルモは、マルケッタの頭を掴んでお辞儀させ、一緒に謝る。


「それは申し訳なかった。お前も謝れ」

「申し訳ありませんでした」


 あれほど凄まじい罵詈雑言を発していたマルケッタが普通に謝るので、リーダーたちはポカンとしてしまう。


「本当にすまなかった。それじゃあ、宿を探さないといけないから行くな」


 その隙に、ヤルモは五人の横をすり抜けて逃げようとしたが、意外な人物が止める。


「主殿。もう少し話をしていかないか?」

「いや、動いてくれよ~」


 イロナだ。腕を組んでいたイロナが一歩も動いてくれないので、パワーで負けているヤルモでは動かせない。なんなら、イロナの手に力が入っているので腕がけっこう痛い。


「てか何その顔……怖いんだけど??」

「ククク……」


 さらに獲物を定めるような顔をしているので、ヤルモに悪寒が走る。五人のオッサンが殺されると……


 ヤルモもフリーズしていたら、そのせいでリーダーたちが復活してしまった。


「ま、まぁアレだ。謝ればいいんだ。俺たちだって、そこまで根に持っていたわけじゃないんだからな」


 完全に根に持っているような顔のリーダーは心の広さをアピールしているので、ヤルモはその先を早く喋って欲しい。


「それ以外にも、こいつに何か用があるのか?」

「おお。そうだ! そいつはアルタニア帝国の聖女だろ?? 聞きたいことがあったんだ」

「……なんだ??」

「魔王がダンジョンの外に出たってホントか!?」


 リーダーは聖女マルケッタの正体も魔王についても知っているので、ヤルモに嫌な予感が働く。いや、その前からずっと嫌な予感はあったから、ヤルモは早くこの場を離れたかったのだ。


「ちなみにだけど……お前たちって何者だ??」

「この国では有名人だから名乗るのを忘れていたな。俺はオスカリ。ゴホンッ! ユジュール王国を守る勇者オスカリだ!!」


 オスカリは咳払いして仲間に目配せしてからの、五人の決めポーズ。たぶんその決めポーズはカッコイイのだろうが、ヤルモには通じない。


「はぁ~~~」

「なんだそのため息は!!」


 ヤルモは思っていた答えが当たっていたのでため息が出てしまい、イロナは……


「ククッ……クククッ……ククククッ……」

「おい、この嬢ちゃんなんか怖いんだけど……」


 目から怪光線を放ちながら肩を震わせているのでめっちゃ怖い。


「主殿……こいつはヤッても大丈夫なヤツだよな? な??」

「ダメに決まってるだろ! てか、お前たちも逃げろ!!」


 ヤルモがあまりにも焦っているので、オスカリたちは逃げようかと考えたが、話が途中だったのでイロナの挑発は受け流す。


「それで……いや、場所を変えようか。お前たち、今日の宿も決まってないんだろ? なら、俺たちの泊まっている宿に来いよ。清潔でメシもうまいし安いぞ」

「それって勇者料金じゃないのか?」

「あ~。そうかもな。ま、それなら情報料として奢ってやる」

「……わかった。案内してくれ」


 人が増えて来たこともあり、ヤルモもこんな有名人と喋るには場所を変えたいので、オスカリたちのあとに続く。けっしてお安い宿やタダに乗ったわけではないと思われる。

 それにイロナがロックオンしているのだ。オスカリたちから離れるには、それ相応の覚悟がいる。血を見る覚悟が……



「クックックッ……アレはなかなかいいな」

「あ~……歴戦の猛者って感じだな。でも、頼むから早まらないでくれよ?」


 勇者パーティを後ろから眺めるイロナの評価にヤルモも同意見なのだが、いまにも襲い掛からないかと思ってビクビクしてる。


「やはり、勇者と名乗ったあの男が一番面白そうだ」

「だな。歩き方を見ただけで強さがわかる。あの魔法使いも……いや、賢者かな? たぶんめちゃくちゃ強いぞ」

「うむうむ。全員相手取っても面白そうだ。あんな偽勇者とは比べ物にならん」

「あいつらも頑張ってるんだから偽者はかわいそうだろ~」


 イロナはひと月近くも同じ釜の飯を食った勇者クリスタを偽者だと切って捨てるのでヤルモは憐れみを感じるが、このまま偽者と扱われてターゲットが外れたほうが幸せなのではないかとも考えるのであった。


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