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169 帰郷への道中1


 勇者クリスタたちと別れたヤルモはしばし号泣しながら歩いていたが、しだいに早足になり、ついには走り出した。


「イロナ! 速すぎる! 迷子になるぞ!!」


 そう。イロナがアルタニア帝国に出た魔王と戦いたすぎて速度が上がり、歩いているように見えるのにヤルモは追い付けないのだ。しかし、ヤルモの大声は聞こえたようで、道案内が必要なことを思い出したイロナは渋々止まった。


「遅いっ!」

「できるだけ急ぐから、俺に合わせてくれよ~」


 クリスタたちとの別れで大泣きしたヤルモは、再び涙目。さすがに主を泣かせるのは悪いと感じたイロナは……


「また泣いたら面倒だな……ならば先を行け」


 いや、慰めるのが面倒なだけ。しかし、それでヤルモのペースで進めるようになったので、ヤルモはホッとして走り出した。ただし、イロナから文句が来ないように、ありとあらゆるスピードアップアイテムを使って全力疾走で……


 イロナはしばらくヤルモの後ろを走っていたが、ペースを覚えたら並走する。


「主殿は器用だな」

「ん? なんのことだ??」

「マルなんとかという聖女を背負っているのに、まったく揺れていなかったぞ」

「まぁ……あまり揺らすと文句言って来そうだし……」

「文句?? 静かなものじゃないか」

「そういえばそうだな……」


 ヤルモはこんな運び方をしたらマルケッタが絶対に文句を言って来ると思っていたのにまったくないので、喋りたくはないが背負子に乗っているマルケッタに質問してみる。


「なんで静かなんだ?」

「………」

「俺なんかと喋りたくないのか??」

「………」


 ヤルモが何を言おうとマルケッタは声を発しない。なので、イロナが速度を落としてマルケッタを見ると、口をパクパクしていた。


「何か喋ろうとしているみたいだぞ」

「なんだそれ? ……あっ! 奴隷魔法だ!!」


 どうやらクリスタが奴隷の権利をヤルモに譲渡する前に、マルケッタに黙っているようにと命令していたから喋れなかったようだ。


「えっと……喋ることを許可する……これでいいのかな??」

「ようやくですわ……このクソ野郎! 遅いのですわ! どうしてわたくしがクソ野郎の背中に乗らないといけないのですの!! このレイプ犯が!!」

「やっぱ黙れ!!」


 マルケッタが喋れるようになったらこの始末。汚い言葉で(ののし)られたヤルモは、早くも口を塞いだ。


「喋らせると面倒だけど……アルタニアに帰った時に喋らないと変か……」


 しかし、他の人に何か勘繰られるのも面倒なので、ヤルモは制約を掛ける。それは、汚ない言葉は無し。よけいなことは言わない。勝手に喋らないこと。

 それらを後ろに背負っているマルケッタに言い聞かせたら、ヤルモは練習してみる。


「俺のことを聞かれたらどう説明する?」

「女性を襲うことが大好きな犯罪者ですわ」

「まだか~」


 口は良くなったが、ヤルモに対しての認識が酷いままなので少し調整する。


「どう説明する??」

「普通の冒険ですわ」

「よし!」


 目立ちたくないヤルモが見た目も実力も控えめに教え込んだら、マルケッタは思い通りのことを言ってくれたので、小さくガッツポーズ。


「主殿……こいつ、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしていたぞ?」

「顔で語るのも禁止だ~!!」


 しかし、走りながらでは表情まではわからず。マルケッタは顔で訴えていたのをイロナが教えてくれたので、これも禁止してヤルモは走り続けるのであった。



 カーボエルテ王都から真っ直ぐアルタニア帝国に向かう道には、当然のことのように旅人や商人が歩いていたり馬車を走らせていたり。

 正面から来る人はそれほどでもないのだが、ヤルモに追い抜かれた人は背負っているマルケッタを見て驚いている。人ひとりを担いで余裕で走っているのだから……

 本来ヤルモの走りはそれほど速くはないのだが、アイテムでドーピングした今なら早馬よりも速度出ているので、急ぎの手紙を町から町へ運ぶ冒険者が乗る馬も時々驚かせていた。

 馬を驚かせるだけならいいのだが、冒険者が抜かれまいと張り合って飛ばすものだから馬を疲れさせたりしていた。


 王都と国境は馬車で七日とわりと近かったため、ヤルモが全力疾走したおかげで夕方すぎには、カーボエルテ王国の国境の町に到着。ヤルモは国境は山越えを選んだのでこの先に何があるかわからないから、ここで一泊するようだ。

 国境の町ということもあり、他国に商品を運ぶ商人が多いのか門の前には長蛇の列ができていたので、ヤルモはドキドキしながら閑散としている貴族専用の門に向かった。


「あん? なんだお前たちは……ここは貴族様専用だ。さっさと消えろ」


 門兵はヤルモの姿を見た瞬間、邪険にして追い払おうとする。そりゃ、布の服の袖を破いたオッサンが背負子を担いでいたら、当然の対応だ。問答無用で斬られなかっただけ、まだマシな対応だろう。


「あ~……ちょっと待ってくれ。どれだったかな?」

「お前……俺が優しいからってナメてるのか? 貴族様が目の前にいたら、即刻斬り殺しているぞ」

「えっと~……これとこれか。見てくれ」

「斬られたいようだな……」


 ヤルモはカードと手紙を同時に出したが、門兵は剣の柄に手を掛けた。


「いちおう俺は男爵家の当主ってことになってるんだ。面倒事に巻き込まれたくないなら、見るだけ見たほうがいいぞ」

「お前が男爵家だと~~~? ホンマや!? いやいや、偽造だろ??」

「手紙を読めばわかる」


 ヤルモはどう見ても怪しい男なので、どうしても信用ならない門兵だったが、手紙の王印を見て真面目な顔に変わり、文章を読むと青ざめた。


「も、申し訳ありません……いやいや、本当は別人とかじゃありませんか??」


 門兵は謝罪して丁寧な口調になったが、なかなか通してくれない。


「それになんて書いてあったんだ?」

「はあ……国王陛下から密命を受けている男爵家と……それと、見た目はアレだが、美女を二人連れていると……」

「アレってなんだよ」

「いや、アレとしか書かれていないのでなんとも……ちなみに、もう一人はどちらにいます??」


 ヤルモは振り向いて背負子に乗っているマルケッタを見せる。


「これでいいか?」

「あ~。大丈夫そうですね。どうぞお通りください」

「何が大丈夫なんだよ!」


 どうやら貴族と通じるのは、イロナとマルケッタの顔を見た時だけ。ヤルモが対応したから時間が掛かったようだ。


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