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前科三犯、現在逃走中のオッサンは老後が心配  作者: ma-no
07 カーボエルテ王国 王都4
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165 勇者と聖女の力4


「ゴホンッ! さっきのは冗談だよ~?」


 マルケッタを(なぶ)ってもオッケー的な発言をしたクリスタであったが、皆の冷たい目を見て、慌ててマルケッタの使い道を説明する。


「このマルケッタは王女でもあるから、それなりの権限を持ってるの。尋問もして、ヤルモさんの家族が健在なのは確認が取れてるよ。だからアルタニアに戻ったら、すぐに開放するように命令したらいいの!」


 この説明で、なんとか皆の冷たい目は戻ったが、ヤルモは聞いておかないといけないことはある。


「その奴隷魔法ってのは、解除できたりしないのか?」

「一般人には詳しく説明はできないんだけど、他国にも使い手がいたら簡単に解除はできるよ。だから念のため、お父様の秘術を使わせてもらったの」

「王様の秘術? なんだそれ??」

「これも極秘事項。まぁ奴隷魔法より強い魔法だと思って。これはお父様にしか解除できないから安心してくれていいよ」


 国王の秘術とは、国王の血を使った契約魔法【血の盟約】。本来は忠心が永遠の忠誠を誓った誉れとして使われ、用途通り一切裏切れなくする魔法だ。

 ただ、発動にも解除にも血を多く使うから、よっぽどの成果を出した者にしか使われることのない魔法なので、マルケッタに使われることは例外中の例外なのだ。


「これでアルタニア帝国に入る問題と家族を救い出す問題は解決ね。次は~……」


 クリスタはイロナをチラッと見てからヤルモとの話に戻る。


「魔王をどうしようかって話。マルケッタ情報では、20日ぐらい前にダンジョンから出て帝都を乗っ取ったみたい。このまま放置すると、アルタニア帝国の被害状況は拡大して行く可能性が高いわね」

「マジか……」

「大マジ。ヤルモさんはどうしたい??」


 驚くヤルモにクリスタが問うが、ヤルモの答えは決まっている。


「あんな国、滅んで当然……」

「主殿! 外に出た魔王は強いと聞いたことがある! ()るぞ!!」


 当然イロナも答えは決まっているので、ヤルモの答えはカットイン。その行動をクリスタは予想していたのか、笑い出した。


「あはは。だって?」

「お前……こうなることを見越してアルタニアに帰ることを勧めたんだろ……」

「違うって~。そこはどうしても越えられない壁だったんだよ~」

「チッ……やりゃいいんだろ」


 ヤルモも、どうやってもイロナの行動を止める方法が思い付かないので諦めるしかない。


「ま、皇帝に会って謁見まではマルケッタを使うとして、ヤルモさんって勇者になる気があるの?」

「いや、まったく……面倒くさそうだし」

「だよね~? だから、こんなのも用意しました~」


 クリスタはカードや手紙を広げてヤルモに見せる。


「こんなの何に使うんだ?」

「勇者になっていれば戦闘力は申し分ないと証明ができるんだろうけど、いまの冒険者カードだけでは厳しいでしょ?」

「まぁ……そうだろうな」

「だから二人の冒険者カードをS級に上げました~」

「はあ!? んなもん勇者しかなれないランクじゃないか!!」

「うん。だからお父様に無理を言って、チョチョイとね……」

「勝手なことしやがって……」

「まだまだあるから聞いてよ~」


 クリスタの用意した物は、S級冒険者カード以外に、国王からの書状を複数。男爵家当主の身分カード。騎士職最高位のカード。さらにオルガからも教会騎士最高位のカードが用意してあった。

 これらはこの二日、クリスタとオルガが走り回って集めた物。だいたいは、本当は魔王を倒していないから事実を発表するぞと脅しまくったようだが……冒険者ギルドだけは脅しはいらなかったようだが……



「各機関で最高のランクだから、ヤルモさんは現在、書類上世界最強の戦士となりました~。パチパチパチパチ~」


 クリスタが催促して皆の拍手の音が響くが、ヤルモは口をパクパクしている。


「これでどんな悪事を働いても、権力で揉み消せるわよ!」

「だからお前は王女じゃないのかよ!!」


 クリスタが酷いことを言いながらウィンクするので、ヤルモはツッコミの仕事があるからこちら側に戻って来た。


「てか、なんで俺は男爵家の当主にならなきゃいけないんだよ」

「貴族って、いろいろ特典あるんだよ? 町に並ばないで入れるし」

「それだけのためかよ!」

「まっさか~。アルタニア帝国に入るから、最小限の防御だよ」

「防御??」

「ヤルモさんには国の使者として入ってもらい、皇帝に手紙を渡してもらうの。手紙の内容をかいつまんで説明すると『うちの最強戦士を貸してやるから、こちらの条件を無条件に呑め』って感じ。もしも怒らせて捕まった場合は人質交換するから、国の偉い人を説得しやすいように爵位を付けたのよ」


 アフターケアまで考えているクリスタの話を感心して聞いていたが、ヤルモは気になることもある。


「なんか俺っていいように使われてない??」

「あ、気付いちゃった? 少しぐらい国に美味しいことがないとお父様が折れてくれなくって~。たはは」

「笑ってやがる……」

「そう怒らないでよ。その代わり、ヤルモさんとイロナさんがアルタニア帝国で何をしようと、我がカーボエルテ王国が全て責任を負うわ。なんならチョチョイと滅ぼして来てもいいわよ!」

「ぶはっ……わはははは」


 クリスタが何度も王女様っぽくない言葉を吐くので、ついにヤルモは吹き出して笑う。


「お前、本当に王女様かよ。わはははは」

「よく言われる。あははは」


 二人は笑いながら、目を擦りながら握手を交わす。


 こうしてヤルモは、勇者クリスタと聖女オルガに固く閉ざした心の扉を開けられて、アルタニア帝国帰還を決意したのであった。


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