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前科三犯、現在逃走中のオッサンは老後が心配  作者: ma-no
07 カーボエルテ王国 王都4
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164 勇者と聖女の力3


「ヤルモさん……アルタニアに帰りなよ」


 ここ二日顔を見せなかったクリスタが唐突に帰還を進めるので、ヤルモは一瞬固まったがすぐに鼻で笑う。


「ハッ……なんで俺があんな酷い国なんかに……」

「家族が心配なんでしょ? だから眠れないでしょ??」

「全然。親父とお袋には縁を切られたし、そもそも十年以上会ってないから顔も思い出せない」

「そんな顔してないじゃない!!」


 ヤルモは心配している顔を隠しているようだが、クリスタにはその顔が必死に隠している顔に見えて仕方がないので怒鳴ってしまう。

 そのクリスタの肩を押さえて、オルガが前に出て来る。


「ヤルモさんは優しいから、自分から家族を遠ざけていたのでしょう? 冤罪でも犯罪者の自分が会いに行っては迷惑を掛けると思って……」

「いや、遠ざけたのは親父だ。お袋なんて泣くだけで俺の話なんか聞きもしなかった」

「それでも産みの親です。助けたいのでしょう?」

「なんで俺を見捨てたヤツを助けたいと思うんだ? 見捨てたからこんな目にあうんだろ? 自業自得だ!!」


 オルガが優しく諭そうとしてもヤルモは怒鳴る。だが、その時……


「嘘つくなぁぁ~~~!!」


 クリスタに思いきり顔を殴られてヤルモは尻餅をついた。


「つう~~~」


 頑丈なヤルモを会心の一撃で殴ったからには、クリスタの拳は無事とは言い難いが、痛みより怒りが勝る。


「どうしてそんなに簡単に諦められるのよ! 家族でしょ! 見捨てられた? 違うでしょ! ヤルモさんが信じてくれないと諦めて離れたんでしょ!!」

「違う……」

「違わない! 冤罪で捕まった時には誰かを頼ったの!? どうせ一人で解決しようとしたんでしょ!!」

「だからなんだ! 俺はそうやって生きて来たんだ! これからもそうだ!!」

「ふざけんなぁぁ~~~!!」


 ヤルモが怒鳴り返すと、クリスタは涙を流しながらヤルモの胸元を掴む。


「なんで頼ってくれないのよ~。私たち仲間でしょ~」

「ナ・カ・マ……」


 クリスタがヤルモの胸を何度も叩きながら泣いていたら、オルガも膝をついてヤルモの手を両手で握る。


「ヤルモさんがどう思っていようと、私たちはヤルモさんを仲間だと思っているのです。その仲間が困っているなら助けたいのです」

「タ・ス・ケ……」

「ヤルモさんだって、私たちを何度も助けてくれたじゃないですか。今度は私たちの番です。助けさせてください」

「………」


 クリスタの涙とオルガの説得を受けて、ヤルモはついに黙ってしまう。


 これまで誰も頼ることなく生きて来たヤルモだ。自分に近付く者は騙して来ると決め付けて、誰も助けてくれないと思って生きて来たのだ。


 そんなヤルモの前に、魂を剥き出しに仲間と呼んでくれる女がいる。

 手を優しく握り助けさせてくれとお願いしてくる女がいる。


 ヤルモは自然と涙が流れ、本心が漏れてしまう……


「家族を、助けて、くれ……」


 その弱々しく小さな声は、クリスタとオルガの耳にはっきりと聞こえたので力強い声で返す。


「任せて!!」

「お任せを!!」

「うっ……うおあぁぁ~! うわあぁぁ~~~!!」


 男泣き……完全に雲は消え去り星々が辺りを照らす中、何一つ迷いなく発せられる二人の言葉に、ヤルモは信用していいのだと喜びの涙を流したのであった……





 大泣きするヤルモを、クリスタとオルガが抱き締めてどれぐらい経ったであろう……


「それで……どうやって家族を助けてくれるんだ?」


 ヤルモは泣き疲れたこともあり、正気に戻ってこれからのプランを確認する。


「あ~……それなんだけど……」


 しかし、クリスタは頬をポリポリ掻きながら歯切れが悪い。


「私たちは国から出れないんだ~。あはははは」


 まさか力強く自分を助けてくれると言った人物がついて来てくれないと知ったヤルモは、一瞬にして元の性格に戻った。


「騙しやがったな……」

「違う違う! 聞いて! ね?」

「やっぱ女は信用ならん……」

「だから違うんだって。私たちが助けるのはそこじゃないの。最後まで聞いてよ~」


 ヤルモの信用が振り出しに戻ったクリスタは、焦りながら宥めて、なんとかちょびっとは信用が戻った。


「まず、私たちって弱いじゃない? 戦力って、イロナさんがいれば問題ないでしょ??」

「まぁ……うん。いらないな……」

「納得が早くて助かるわ~。ちょっと寂しいけどね!」


 クリスタはヤルモの心ない言葉に微妙にキレてから話を続ける。


「まぁもしも軍隊とぶつかる場合は二人でなんとかなるからいいとして、問題は家族が人質に取られていることでしょ?」

「うん……」

「というわけで、こんなの用意しました~。パウリ! 連れて来て!!」


 クリスタが大声をあげると、庭に通ずる扉からパウリが出て来たのだが、その後ろにゾロゾロと続いている。


「はあ!? なんで全員起きてるんだ!?」


 そう。ウサミミ亭にいた全員が庭に出て来たのでヤルモは驚いているのだ。


「みんなヤルモさんを心配していたんだよ。でも、驚くところはそこじゃないから」


 ネタバラシをするクリスタはパウリが近付くと、その後ろに隠れていた人物の紹介をする。


「せ、聖女!?」

「そうで~す。アルタニアの聖女マルケッタは奴隷魔法で縛りまくったから、ヤルモさんの命令はなんでも聞いてくれま~す。恨みがあるみたいだから、甚振(いたぶ)るも良し、犯すも良しよ!」

「お前……本当に勇者で王女なのか??」


 クリスタのあまりにも酷い紹介に一同ドン引き。マルケッタを殺したいほど憎んでいるヤルモでさえ、クリスタが高貴な者か疑うのであったとさ。


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