159 聖女マルケッタ3
「他国の王女様に、そんなに迷惑を掛けていたなんて……」
「子供の頃の話だって~。てか、まったく覚えてないから、こ~んなちっさな頃の話じゃない? そりゃイタズラだってしてるって~」
聖女マルケッタにけっこう酷いイタズラをしていたと聞いたオルガは、クリスタを冷たい目で見ていたが、クリスタは記憶にないのでケラケラ笑うだけ。
それがマルケッタの怒りを買ったが、話が脱線しまくっていたので、怒りはヤルモにぶつけられる。
「ヤルモ。勇者殺害の罪でお前を逮捕しますわ! 速やかに捕縛しなさい!!」
黒いマントの男がジリジリと前に出るが、クリスタが声を張り上げて止める。
「ヤルモさんは我が国の国民よ! 指一本でも触れたら、王女の権限で逮捕するわ!!」
「いいえ、ヤルモは我が国の民。どの国にいようと犯罪者は引き渡されて然るべきですわ!」
「冤罪だらけのアルタニアになんか引き渡せるわけないでしょ! あんたはちょっとでもヤルモさんの話を聞いてあげたの!!」
「冤罪? 我が国の法が間違うわけがありませんわ。この目で勇者様を殺害した現場を見たのに、冤罪なんてことはありませんわ!」
マルケッタの発言のせいで周りで見ていた民衆は、ヤルモが悪者じゃないかと考えてしまった。
「勇者を殺害? なんのためにヤルモさんが殺すのよ」
「ハッ……魔王を復活させて、アルタニア帝国を滅亡に導こうとしたからに決まっていますでしょ」
「そもそも、あんたたちが魔王討伐を失敗しただけでしょ。その失敗をヤルモさんに擦り付けているだけでしょ」
「犯罪者から何を聞いたか知りませんが、その男が敵前逃亡しなければ勇者様が死ななかったのですわ!」
このマルケッタの発言には、ニヤリと笑うクリスタ。
「ほら? やっぱりヤルモさんは殺してないじゃない。ヤルモさんは魔王の間の前で、実力不足だから戻ろうと言ったんでしょ? それなのに無理矢理中に入ったあんたたちが馬鹿なだけなのよ」
「はあ!? どう見てもヤルモのせいでしょうが!!」
「皆はどう思う??」
公開裁判。クリスタはこの騒ぎを見ていた民に意見を聞いて、その全てがクリスタを肯定することとなったので、マルケッタはヒステリックな声を出す。
「卑怯ですわ! 自国の王女の言葉など、肯定するしかありませんことよ!!」
「卑怯なんかじゃない。これが一般的な考えよ。どうしてわからないのよ!」
「わかる必要なんてないですわ! わたくしたちは犯罪者を連れて帰るだけ。ヤルモを捕らえよ! 止めるのならば、痛い目にあいますわよ!!」
ついにマルケッタは強行手段。黒マントの男たちはその命令を聞いて、剣を抜きながら包囲を狭める。
「パウリ! まだ手を出さないで!」
「はっ!」
パウリも剣を抜きそうになったが、クリスタの命令を聞いてヤルモの前に立ち塞がるだけ。
黒マントはパウリを押してどけようとしたが、ピクリとも動かない。なので顔を殴ってどけようとしたが、それは最悪の一手だろう。
「暴行罪成立! 王女クリスタが命ずる。アルタニア帝国王女マルケッタ、並びにその一同の逮捕を命ずる!!」
「「「「はっ!!」」」」
現行犯逮捕のために今まで動かなかっただけ。これは国どうしの揉め事なので、クリスタはどうしても先に攻撃された事実を作りたかったのだ。
「あと、イロナさんは何もしないで。お願いだから……」
剣を抜いて勇者パーティに雄々しく命令したクリスタであったが、イロナには女々しくお願いするしかなかった……
「何が暴行罪ですの! 大義は大罪人を捕らえるアルタニア帝国に有り! 犯罪者を庇うのならば、その者も同罪ですわ。やってしまいなさい!!」
斯くして、ヤルモを巡った国どうしの争いと発展したが、その争いは一方的。
クリスタは素早く動いて、鞘に入ったままの剣での打ち付け。黒マントの男を軽々吹っ飛ばす。
パウリは盾だけ使い、剣を受けてからの押し返しプラス、ヤルモ直伝ケンカキックで吹っ飛ばす。
ヒルッカはちょこまか動き回って縄を掛け、三人ほど一気に捕縛。
リュリュは魔法使い対決。相手が詠唱を終える前に風の玉を当ててのしてしまう。
オルガは……なんか黒マントをビンタでのしていた。
さすがはヤルモとイロナがしごいた勇者パーティ。技術だけでなくレベルも爆上げしていたこともあり、マルケッタが用意した高レベル騎士ではまったく歯が立たなくなっている。
こうして勇者パーティの大活躍で、アルタニア帝国兵20人余りはあっという間に蹴散らされ、立っているのは聖女マルケッタだけになるのであった。
「衛兵! 連行しなさい!!」
「「「「「はっ!!」」」」」
騒ぎを聞き付けて集まっていた衛兵に指示を出したクリスタは、マルケッタの目の前まで歩み寄る。
「これで残りはあんただけね。前々からアルタニア帝国の聖女に会ったら、やりたいことがあったのよね~……」
「ヒッ……」
クリスタが妖しい笑みを浮かべるのでマルケッタは後退るが、同じく妖しい笑みを浮かべるオルガにぶつかって小さく悲鳴をあげた。
「ヤルモさんったら、全然私たちのことを信じてくれなかったのですよ。もう、関係を築くのにどれだけ苦労したことか……」
「そうそう。お金を払って依頼を出してるのに信じてくれなかったんだよ~?」
「マルケッタ様一人に罪を押し付けるのは酷ですが、最後にヤルモさんの心を折ったのはマルケッタ様ですよね? 天罰と思って罰を受けてください」
「聖女様公認の天罰……いきま~~~す!!」
「きゃああぁぁ~~~!!」
これまで散々ヤルモに溜められたストレスは、ついに発散。二人の天罰と名を変えた復讐の往復ビンタは、しばらく止まらないのであったとさ。