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前科三犯、現在逃走中のオッサンは老後が心配  作者: ma-no
07 カーボエルテ王国 王都4
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158 聖女マルケッタ2


 第五回特級ダンジョン攻略を笑顔で終えた勇者一行は帰路に着く。いつも通り勇者パーティは冒険者ギルドに寄ってから帰るようだが、いつもはイチャイチャしながら町に消えて行くヤルモがずっとついて来ていた。

 クリスタたちは同じ方向に向かっているだけだと思っていたが、冒険者ギルドに近付いてもまだついて来ていたので疑問を口にする。


「こっちに用事でもあるの?」

「たまにはギルドに顔を出そうと思ってな」

「ヤルモさんがギルドの報告について来てくれるなんて珍し~い」

「最後ぐらいはな。見届けさせてく…れ……ぐずっ」

「また泣いて~。あはははは」


 どうやらヤルモにも教師の自覚があったらしく、報告が終わるまでがダンジョン攻略だから、そこまで見たかったようだ。しかし、またフライングで泣き出したからには勇者パーティ全員から笑われてしまっている。


「てか、今回はギリギリだったし、もう一回ぐらい攻略に付き合って欲しいんだよね~……皆はどうかな??」


 クリスタが皆に問うと全員頷き、オルガが代表して答える。


「ですね。道中も交代でモンスターを倒していましたし、本来ならば疲れきっていて、最下層で撤退していた可能性が高いです」

「だよね? だから、もう一回だけダンジョンについて来て。お願いします!」

「「「「お願いします!」」」」


 クリスタに続き、勇者パーティは頭を下げるのでヤルモは困ってしまう。


「道端でそんなことするな。目立ってしょうがないだろ」

「受けてくれるまで頭を下げ続けるよ! なんだったら土下座でもしよっか?」

「わかった。わかったから普通にしろ。ったく……面倒くせぇな~」

「あはは。ぜんぜん面倒くさそうに聞こえないんだけど~? あはははは」


 ヤルモは悪態をついても顔に出ている。言葉とは裏腹に頼られて嬉しいようだ。本当はそんなにお願いしなくても、二つ返事とまではいかないが簡単に折れていただろう。それだけヤルモは、クリスタたちと一緒の時間が楽しいのだ。


 しかし、そんな楽しい時間はもうおしまい。ヤルモたちは黒いマントを羽織った男たちにいきなり道を塞がれてしまった。


「大罪人が何を楽しそうに笑っていますの!!」


 クリスタが黒マントの男に何かを言い掛けたその時、後ろから女性の大声が聞こえたのでヤルモたちは振り返る。


「せ、聖女……」


 そう。聖女マルケッタとそのお供が、ヤルモたちを取り囲んだのだ。ヤルモはマルケッタの顔を見た瞬間、さっきまでの楽しい気分が砕け散り、ブルブルと震えてイロナにもたれかかる。


「あら? わたくしの顔を覚えていたのですわね。まぁ、あなたが殺した勇者様の隣にいたのですから忘れられないでしょう。いえ、わたくしの体を嫌らしい目で見ていたから忘れられなかったのじゃなくて? 逃した魚が大きすぎてね!」


 マルケッタは饒舌に語るが、ヤルモは震えていて耳に入って来ないので受け答えもできない。しかしその時、三人の女性がヤルモを守るように前に出た。


「ついにここまで来たのね。でも、ヤルモさんは渡さないわよ!」

「ヤルモさんはもうアルタニア帝国の民ではなく、カーボエルテ王国の民です。ここは穏便にお引き取りを」


 クリスタとオルガだ。クリスタは挑発するような言葉を放つので、オルガが穏便に済ませようとしているが……


「これが主殿を(おび)えさせる聖女か……なんだ。この程度なら一瞬でチリに変えられるぞ」


 イロナが台無しにする。


「「いやいやいやいや……」」


 ていうかやりずき。クリスタとオルガに諭されて下がらされていた。だって、イロナなら、本当に人間一人を肉片ひとつ残さず消し去りそうだから……



「ハッ……今回は上手く女性を騙せているみたいですわね。その犯罪者を庇う必要なんてなくてよ? ヤルモは三度の強姦罪、勇者様の殺害までした大罪人ですからね!」


 仕切り直し。マルケッタはヤルモの罪を出してクリスタたちを引き離そうとしているが、意味がない。


「それ、聞いてるよ。全部冤罪なんでしょ?」

「はぁ……言葉巧みに騙されたのですわね。馬鹿な女ですこと」

「どっちが馬鹿よ! あんたが信じなかったから、ヤルモさんはこんなに傷付いているんでしょ!!」

「はあ?? 犯罪者のどこを信じろと言うのですの? てか、あなたこそ、アルタニア帝国の王女で聖女のわたくしに対してその口はなんですの!? 平伏しなさい!!」

「あんたなんかに平伏しませ~ん。バーカ!!」

「なんですって~~~!!」

「バーカ、バーカ!」


 クリスタが子供っぽく煽るとマルケッタが顔を真っ赤にするが、オルガがクリスタの口を塞いで止めた。


「勇者様。何をやっているのですか。王女でもあるのですから、民の前ではもう少し振る舞いに気を付けてください」

「あ……ちょっと熱くなっちゃった。あははは」


 オルガの説教にクリスタは頭を掻いて笑うが、マルケッタは驚愕の表情を浮かべている。


「勇者……その馬鹿女が、王女……」

「その通りです。こちらはカーボエルテ王国の勇者、クリスタ王女様であらせられます」

「クリスタ……あのクリスタですの!?」


 そう。マルケッタも王女の端くれ。同じ王女なら、他国の王女の名前ぐらいは記憶している。


「お気に入りのドレスを汚した恨み、忘れたわけじゃなくてよ!!」

「ん? なんのことかな??」


 いや、なんだか少なからず因縁があるようだ。子供の頃お転婆だったクリスタにドレスや人形を汚された恨みは消えていなかったらしく、数多くの恨み節がマルケッタから語られたのであった……


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