156 おさらい6
「【ブレイブスラッシュ】!!」
カイザーミノタウロスとの戦闘は大詰め。クリスタは突撃しながら斬撃を飛ばし、【灼熱炎】を斬り裂いた。
「どりゃ~~~!!」
そして、カイザーミノタウロスが振り回した斧を避けたと同時に腕を駆け上がり、顔面に向けての連続斬り。【灼熱炎】を撃たせまいと剣を振り続ける。
「ヒルッカさん! 自分に構わず行ってください!!」
「わかりました!!」
クリスタが作ってくれた道を辿ったパウリは、往復して戻って来た斧を盾で受け、必死に下がらないように耐え、ヒルッカを前に進ませた。
「ヒーちゃんに触れさせるか~~~!!」
ヒルッカがカイザーミノタウロスの懐でナイフを振り続けるなか、左拳が迫るとリュリュの攻撃魔法が乱れ飛ぶ。雷、風、氷、土属性。いくつもの槍を撃ち続け、カイザーミノタウロスの攻撃を阻害する。
「パウリ君! ヒルッカさん! 頑張って!!」
カイザーミノタウロスが発狂中では、パウリがいくら防御を固めても衝撃でHPが減ってしまう。クリスタがいくら炎を散らそうとも下で戦うヒルッカのHPが減ってしまう。
そんな二人をオルガは治癒し続け、勇者パーティは一心腐乱に戦い続ける。
「ぐあっ!?」
「キャ~~~!!」
しかし、ついにパウリに限界が来て、勇者パーティはカイザーミノタウロスが振った斧の風圧で吹き飛ばされてしまった。
「はぁはぁはぁ……大丈夫。いま治すから……」
オルガは怪我の酷いヒルッカに駆け寄って治療するが、MPは残り少ない。パウリとリュリュも気絶しているので、急がないと自分の命の危険がある。
「やはり私たちでは早すぎた……」
オルガはMPが尽きたと同時に諦めるような言葉を呟くが、その言葉は遮られる。
「「そうでもないぞ」」
「ヤルモさん……イロナさん……」
イロナとヤルモだ。いつの間にか前に出ていた二人は、同時に同じ言葉をオルガに掛けたのだ。
「見よ……アレがお前たちの勇者だ」
「ギリギリだったな。だが、勇者がキッチリ決めてくれた」
二人が同じ場所に指を向けるので、その先に視線を向けると、勇者クリスタがカイザーミノタウロスの首を刎ねた場面がオルガの目に映し出されたのであった。
「ゼェーゼェーゼェー……カイザーミノタウロス……討ち取ったり~~~!!」
クリスタは剣を掲げて勝利宣言すると、皆は駆け寄って抱きしめ……
「あ~……決め台詞言ってるところ悪いんだけど、みんな疲れ切っていてそれどころじゃないぞ」
「へ?? ヤルモさん、イロナさん……」
いや、クリスタに近付いたのはヤルモとイロナだけ。なのでヤルモは申し訳なさそうに現実を告げていた。
「うっそ~ん。かっこよく決めたと思ったのに~~~! あ……」
クリスタは後ろを振り向き、オルガたちが倒れている姿を見て文句を言っていたが、体は正直だ。死闘を繰り広げた疲れで、ストンと膝が落ちて地面にへたりこんだ。
「クックックッ……これでまた、我に近付いたな。勇者単体なら時間が掛かるが、パーティならば、思ったより早く我とやりあえそうだ。クックックッ」
「やっぱり私たち皆を狙ってたの!? その笑い方怖いから、戦ってる時はやめてよ~~~」
「やっぱ崩れ掛けたの、イロナのせいだったんだ……」
イロナが威圧的に笑うので、クリスタは全て理解する。ヤルモも勇者パーティの動き方がおかしかったのは、イロナの殺気のせいだと理解したのであった。
戦闘を終えた勇者パーティは全員寝転んでいるので、ヤルモがポーションを振り掛け回って皆を起こす。
しかし、スタミナ切れで動けないようだったので、「今回はサービスだ」とヤルモは言って、二人づつ首根っこを掴んでカイザーミノタウロスの落とした宝箱の前に集めた。
「猫じゃないんだから……」
「運び方はどうでもいいだろ。早く開けないとダンジョンに吸い込まれるぞ」
「ヤルモさんが開けてくれたらいいのに」
「んなことできるか。これは、お前たちが倒して手に入れた物だ。自分たちで開けて使え」
「ヤルモさん……」
「うまい肉だったら俺にも分けてくれよ」
「あははは。お肉だったらね~」
ヤルモが宝を譲ると言ったらクリスタが目を潤ませたので、照れ隠しにボケる。そのボケにクリスタは目を擦りながら笑っていたが、ボケが面白かったわけではなく、感動の涙を拭いていようだ。
「みんな、いっせいのうせで開けるよ?」
これは、勇者パーティ全員の勝利だ。クリスタは確認を取って皆が頷くと、声を合わせる。
「「「「「いっせいのうせ!」」」」」
五人は息を合わせ、宝箱の蓋を力を合わせて開けると、大きな魔石と杖が出て来たのであった。
「レジェンドの杖……聖女様かリュリュ君が装備できそうね」
「ここは攻撃力を上げるためにリュリュ君が持つべきでしょう」
「いいのですか!?」
お高いレジェンド装備をくれることに驚くリュリュに、クリスタは杖を渡していたが、どうやら装備できないようなのでオルガの手に渡っていた。
「なるほど……ヒーラー専用の装備みたいですね」
「空色の盾みたいに何かスキルはついてない?」
「あっ! あります! 一日一回ですけど、蘇生できるみたいですよ!!」
「凄い! 聖女様にピッタリじゃない!!」
レジェンド装備のスキルに興奮する勇者パーティであったが、一人だけは文句を言っていた。
「チッ……なんで勇者たちばっかりいい装備が出るんだ。ふざけんなよ。クソッ……」
ヤルモだ。自分はたいしていい物が出ないので睨んでいると、クリスタにポンッと肩を叩かれた。
「ププッ……ドンマイ!」
「慰めるならニヤケ面で言うな!!」
「「「「「あはははは」」」」」
こうして第五回特級ダンジョン攻略は、途中、卒業云々で泣いていたクセに、最後は笑い声のなか終わりを告げるのであった……