154 おさらい4
地下80階のセーフティエリアで卒業前夜祭みたいに泣いていたヤルモ、クリスタ、オルガであったが、眠気が来たら体を休める。明日にはダンジョンボスとの激しい戦闘が待っているので、冒険者としての常識を重んじたようだ。
しかし、ヤルモは夜の楽しみも重んじているようで、イロナと「ハァハァ」してから寝ていた。
そして例の如く、露天風呂で疲れを取る。女性陣は慣れたものだが、リュリュとパウリは水着姿でも、クリスタたちの姿は刺激的なのかできるだけ見ないようにしている。
ちなみにヤルモは、またグスグスしながら「大きくなったな~」とか言っている。ただ、オルガの胸を見ながら言っていたので、クリスタとイロナにしばかれていた。
どうやらクリスタは巨乳を見ているヤルモが許せなくてしばき、イロナは性奴隷としてのプライドがあるからヤルモをしばいていたっぽい。
長時間の休息を取ったら、セーフティエリアを立つ勇者一行。戦闘では、勇者パーティよりヤルモパーティのほうが早く終わるが、勇者パーティは慎重に戦い、上手く消耗を減らせているようだ。
そうして地下99階も順調にクリアしたら、ダンジョンボスの部屋の前で少し休憩する。
「あとちょっとだ。あとちょっとだぞ……うぅぅ」
「また泣いてるよ……いい加減、気持ち悪いんだけど~?」
ここまでの道中でもヤルモはグスグス言っていたので、クリスタの感動は激減。今回はマジでやめてほしいみたいだ。
「ううぅぅ。お前たちならできる。できるからな! ううぅぅ」
「何回も聞いたから! もう行くよ!!」
休憩が終わってもヤルモはうっとうしいらしく、クリスタはキレ気味に皆を引き連れ、ダンジョンボスの部屋に入るのであった。
「ミノタウロス? アレって上位種よね?」
クリスタは8メートルぐらいある赤黒いミノタウロスを確認するとオルガに問うた。
「はい。モンスター図鑑に載っていた上から二番目のカイザーミノタウロスですね。強化魔法や炎を吐くので注意が必要です」
「みんな……いけそう?」
クリスタは勝てる確率は半々ぐらいだと勘が働いたので、皆に意見を聞いてしまった。しかしその発言は、イロナは気に食わない。
「ザコ相手に何を尻込みしている……勝てなくても勝て!!」
「えぇ~……はい!!」
「「「「はい!!」」」」
意味不明なイロナの命令に、クリスタは一瞬嫌そうな顔をしたが、殺気を放たれたからにはいい返事。皆も行かないことにはイロナに殺されると感じたのか、背水の陣でも敷くような気合いの声をあげたのであった。
「パウリ……最初は二人で耐えるよ」
「はい!」
「まずはリュリュ君とヒルッカちゃんで外から削ってみて」
「「わかりました!」」
「聖女様は私たちを守ってね」
「任せてください!」
皆に指示を出したクリスタは、よりいっそう気合いの入った顔になった。
「さあ……絶対に倒すよ!!」
「「「「はい!!」」」」
クリスタの気迫は皆を鼓舞し、カイザーミノタウロスとの戦闘を開始するのであった。
勇者パーティはクリスタとパウリを先頭にジリジリ前進。そこにリュリュとオルガの支援魔法が放たれたと同時に、カイザーミノタウロスは咆哮と共に突撃して来た。
「パウリ!」
「ぐおおぉぉ~!!」
カイザーミノタウロスは、右手に持つ斧で薙ぎ払うので、盾で受けたパウリは声を張り上げながら耐える。
「こっちは任せて! どりゃ~!!」
パウリに耐えられたので、カイザーミノタウロスは左手の拳を振り下ろすが、クリスタが回転と体のバネを使った会心の一撃。
その斬り付けでクリスタの剣は拳を斬り裂き、カイザーミノタウロスは痛みからか一度距離を取った。
「「くらえ~~~!!」」
そこに、リュリュの攻撃魔法と、ヒルッカのスリングショット乱れ撃ち。
ヒルッカの弾は水のマジックアイテムを使っているので、当たった瞬間弾けて、カイザーミノタウロスは水浸し。リュリュの放った攻撃魔法は雷だったため、全身を一気に痺れさせることに成功した。
「もらった! 【ブレイブスラッシュ】!!」
カイザーミノタウロスの硬直した瞬間を見逃さないクリスタ。一気に距離を詰めてゼロ距離からの必殺技。
この攻撃でカイザーミノタウロスの胸に大きな傷が作られたが、そうは上手くいかないようだ。
「グキャアアァァ~!!」
「このぉ!!」
クリスタの着地を狙って、カイザーミノタウロスの斧フルスイング。クリスタは盾で防御をしたが、吹っ飛ばされてしまった。
「勇者様!」
「ふぅ~。ありがとう」
吹っ飛ばされたクリスタは、パウリに受け止められて体勢を立て直し、減ったHPはすかさずオルガに治された。
「やっぱ持ってるよね~。次、構えて!」
カイザーミノタウロスは自己治癒で傷をすぐに直して完全回復。それを見てクリスタは軽く愚痴るが、気を取り直して前進。
クリスタたちがジリジリ前進していたら、カイザーミノタウロスは大口を開けた。
「集合! 【範囲展開】!!」
後衛も固まったら、空色の盾のスキルを使って皆を光の膜で守る。その直後、カイザーミノタウロスから【灼熱炎】が放たれた。
「何度使っても、このスキル凄い。熱も通さないよ」
スキル【空の御守り】の前には強力な炎も形無し。クリスタは自慢するように言っていると、オルガが諫める。
「回数制限もあるんですから、気を付けてくださいね」
「わかってるよ~」
「あと、イロナさんには砕かれたの忘れないでください。強い攻撃には対応できないんですから」
「それもわかってるって~……けど、イロナさんより強いモンスターっているのかな??」
「「「「うぅぅ~~~ん……」」」」
オルガは装備の性能に溺れるなと言いたいようだが、イロナを引き合いに出したのは失敗。【灼熱炎】が辺りを焦がすなか、クリスタからの問いに皆は唸り出してしまうのであった。