151 おさらい1
「お~。ちゃんと辿り着いてたな」
第四回特級ダンジョン攻略は、すでに地下100階に向かう階段。地下99階の宝箱を回収してから遅れて現れたヤルモは、勇者パーティに声を掛けた。
「な、なんとか……」
「わはは。ボロボロだな」
勇者パーティは疲労困憊。クリスタも喋るのがやっとのようだ。
今回の特級ダンジョン攻略は、戦闘でヤルモ班との交代が無かったから、勇者パーティは疲れ果てているのだ。
勇者パーティは宝箱を回収せずにまっすぐ地下100階を目指し、ヤルモパーティは寄り道するから別行動。
ヤルモとイロナは、地下40階までは先行して進んで長時間の休憩であんなことやそんなことをして待ち、そこからは勇者パーティを見守りながら宝箱を漁っていたのだ。
「あとはラスボスだ。倒して気持ちよく帰ろうぜ」
そんな疲労困憊の勇者パーティに、ヤルモは鬼のような言葉。
「む、無理……このまま戦ったら全滅する。ヤルモさんたちでお願い……」
その言葉には、クリスタは情けない返事しかできない。
「正解だ」
しかし、ヤルモはニカッと笑った。
「……正解? ラスボスと戦わずに逃げ帰っていいの??」
「当たり前だろ。今まで経験値が入ってレベルが上がっているのに、それがゼロどころか死ぬんだぞ? 次に挑戦したら、もっと楽にここまで辿り着けるのに、なんで全てを捨てられるんだ」
ヤルモは一度言葉を切ると、クリスタの頭を撫でる。
「よく決断した。パーティリーダーとして、それが正しい判断だ。ここで無理して進むヤツ、けっこういるんだぞ」
「褒められた……ヤルモさんに、やっと褒められた……」
クリスタはヤルモに褒められて、涙ぐみながら拳を握り込む。
「いちおう聞くけど、帰還のためのポーションは残してあるよな?」
「えっ……それはその……」
「無いのかよ。褒めて損した~」
「待って! いま確認するから~~~!!」
ヤルモが追試を出したらクリスタは焦り出し、アイテムボックスをひっくり返して、勇者パーティでポーションの数を確認するのであったとさ。
「けっこう余ってた……これなら余裕で地下80階まで戻れるよ!」
確認が済むとクリスタが褒めてほしそうにドヤ顔するが、ヤルモは残念な顔をしている。
「いや、ポーションの確認はしておけよ」
「あ、あったんだからいいじゃない!」
「ここは聖女……いや、リュリュに管理を任せたほうがいいかもな」
「なんで私はダメなんですか!!」
「マップの確認で忙しいだろ~」
自分の名が出て言い直すものだからオルガは噛み付く。しかし、ヤルモは嘘をついて誤魔化した。本当はオルガが何度かがぶ飲みした経緯があるから、リュリュに任せたほうが無難だとヤルモは考えたのだ。
「さてと、さっさとラスボス倒して地上に帰るか~」
休憩を済ませたヤルモは、ぬるりと動いてフロアボスの部屋にと足を踏み入れ、イロナと共に挑むのであっ……
「ゴーレムか……つまらん。主殿一人で倒せるだろう」
「え? 一緒に戦うんじゃ……」
「やれ!」
「はい!!」
「「「「「あははははは」」」」」
モンスターを見て選り好みをするイロナ軍曹は、ヤルモに無茶振り。イロナと一緒なら楽に倒せると思っていたヤルモは、皆にもそう思われていたので笑われるのであった。
「しかし、どうやって倒したものか……小さいけど、あの色ってオリハルコンじゃね? イロナのヤツ、刃毀れしたくないから俺に譲ったんじゃないか……」
モンスターは5メートルほどのオリハルコンゴーレム。ダンジョンボスとしては小さいほうではあるが、防御力に極振りしているので攻撃力の低いヤルモとしてはやりにくい相手。
ステータスのパラメーターでいえば似たような山を描いているので、ヤルモ対ヤルモと言ってもいいだろう。
「俺も剣を壊したくないしな~……。しゃあねえ。行くか!」
ヤルモは剣をしまって、大盾だけを構えてオリハルコンゴーレムに突撃した。
オリハルコンゴーレムにヤルモが近付くと、上からパンチが降って来るが大盾を構えてガード。その直後に引いてオリハルコンゴーレムのバランスを崩す。
「ここだ!」
懐に潜り込んだヤルモは、オリハルコンゴーレムの軸足に大盾を使った体当たり。絶妙な角度での体当たりで、オリハルコンゴーレムはあっけなく倒れた。
「ふんぬぅぅ~~~!!」
からのサブミッション。オリハルコンゴーレムの足首、曲がらない方向に力業で曲げようと、ガシガシ右に左に動かすヤルモ。
しかし、オリハルコンゴーレムからパンチが飛んで来たので、パッと離して大盾で受け、力の加わった方向にわざと流れて距離を取る。
「一発じゃ終わらないわな」
オリハルコンゴーレムが立ち上がると、ヤルモは愚痴りながらリスタート。崩して倒してはアキレス腱固め。同じ足ばかり狙うと慣れてしまうので、逆の足を狙ったり、たまには手を狙い、首も狙う。
そうこうしていたら、右足の先は関節部分が壊れて、オリハルコンゴーレムの機動力が削がれるのであった。