146 女子会1
「あ~……返そっか?」
特級ダンジョンを出て、諸々の手続きが終わったクリスタがウサミミ亭に帰ったら、ヤルモはいまだにグチグチ言っていたので、クリスタは気を遣って空色の盾を返そうと提案した。
「い、いいのか??」
その気遣いに、ヤルモはまったく気を遣わずに喜んで受け取ろうとしている。
「あ、でも、さっき冒険者ギルドに報告しちゃったんだよね~。あははは」
「そんなもん受け取れるか!」
いや、気遣いではなく、クリスタはヤルモをからかっていただけ。勇者の持つ装備に手を出すと盗人認定されると思っているヤルモには、絶大な効果があるとクリスタはわかっていたのでケラケラ笑っている。
「嵌めやがったな……」
「まぁまぁ。ちゃんと値段は査定してもらったから、これ受け取って」
「お……おお! こんなに!?」
ヤルモがクリスタを怒り満ちた目で見ていると、大量の金貨の入った皮袋が出て来たので手のひら返し。金額を確認したら嬉しそうな顔をし、返還問題はどうでもよくなったようだ。
それから気分よく夕食を平らげたヤルモは、空色の盾を磨いているクリスタに質問する。
「しかし、勇者とダンジョンに潜ったら、100%レジェンドが出てないか?」
「たまたまじゃない?」
「四連続だぞ? たまたまで納得できるか。俺とイロナの時なんて、肉だぞ?? うまかったけど……」
「確かにお肉は笑ったけど、私に苦情を言われてもね~……こないだまで素人だったんだよ?」
たった四回しかダンジョンを制覇したことのないクリスタでは参考にならないので、ヤルモは頼りになるイロナに聞いてみる。
「こんなにレジェンド装備って出るものなのか?」
「そうだな……魔王以外だと、10回に1回あるかないかぐらいの確率だと聞いたことがある。我も小、中ボスだと、引き当てたのは数えるほどだ。それとラスボスぐらい強いレアボスってのもいるが、そいつも大差ない確率だな」
「となると、勇者の職業補正みたいなのがあるのかも……」
イロナの話を聞いてヤルモがブツブツ言っていると、クリスタたちはキョトンとしている。そこから復活したクリスタは、ヤルモを無視してイロナに質問する。
「あの……イロナさんは魔王に詳しすぎるし、レジェンド装備についても詳しすぎるけど、どれだけダンジョンに潜ってるの?」
「トゥオネタル族のダンジョンは深いから、そこまで多くないぞ。100階以降に出るボスが、たまにレジェンド装備を落とすことがあるだけだ」
世間話のように始まったカミングアウトに、クリスタたちはざわっとして時が止まる。
「今日のレジェンドドラゴンも、トゥオネタル族のダンジョンではもっと強くてな。首を斬り落とすのはなかなかに難しい。弱いのは残念だが、そのおかげであんなに綺麗に斬り落とせたのだ」
皆が固まっているのにも関わらず嬉しそうに語るイロナ。クリスタは辺りを見回して頷くと、イロナに視線を合わせる。
「トゥ、トゥオネタル族って……イロナさんってトゥオネタル族なの??」
「ああ。我はトゥオネタル族、族長のむす……」
「わっ! わああああ!!」
考えごとをしていたヤルモは、急に叫んで割り込むが、時すでに遅し。
「うそ……イロナさんがあのトゥオネタル族だなんて……」
「冗談! 冗談だからな??」
「だからあんなに強いんだ……」
「冗談って言ってるだろ! 真に受けるな!!」
ヤルモが必死に誤魔化そうとするが、その必死さのせいでクリスタたちはよけい信じることとなっている。
「でも、トゥオネタル族って男しかいないんじゃ……」
「そ、そう! 男しかいないから、イロナはトゥオネタル族じゃないんだ!!」
「もう! ヤルモさんうるさい!!」
クリスタに怒鳴られたヤルモは口を閉ざすわけはなく、ギャーギャー騒ぎ倒すので、クリスタたちは違うアプローチをしてみる。
「イロナさ~ん? たまには女子会なんてしてみない??」
「女子会……人族の女が集まって、男のことを値踏みする会のことか??」
「まぁ……そんな感じかな??」
「うむ。人族の女の生態も気になっていたのだ。その女子会、我も参加するぞ!」
イロナの女子会の知識は片寄っているので、クリスタは「楽しい話をするような会なんだけど……」とか思っているが、この波に乗らないわけにはいかない。
エイニに料理とお酒を注文してから、女子を連れてクリスタの部屋に向かうのであった。
ちなみにヤルモは女子会を阻止しようとしていたが、イロナの鉄拳でのされ、パウリとリュリュに自室まで運ばれたのであったとさ。
* * * * * * * * *
「それじゃあ、かんぱ~い」
「「「「「かんぱ~い」」」」」
クリスタの音頭で始まる女子会。参加者はイロナ、クリスタ、オルガ、ヒルッカ。ここまではわかるのだが、料理と飲み物を部屋に運んで来たエイニとリーサまでしれっと参加している。
「イロナさんほどの美人なら、トゥオネタル族の男はほっとかなかったでしょ? やっぱりモテモテだったの??」
まずはクリスタのジャブ。遠回しにイロナがトゥオネタル族だと確認を取ったので、イロナ以外の女子から「グッジョブ!」と親指を立てられている。
「ああ。我とヤリたがる男が群がって来てな。全員半殺しにしてやったんだ。そう、あの日はこの赤ワインのように、鮮やかな赤い湖ができたのだ」
イロナは青春時代の綺麗な1ページを発表するような口調で語るが、一同心の中で「ええぇぇ~」とドン引き。
そりゃ、ジャブを出しただけで、真っ赤な血の海を作り出したというカウンターのバズーカが飛んで来たら、ルールが違いすぎてリングに上がる勇気が出ないのだろう……