144 合同チーム7
「動けるか?」
「う、うん……」
ヒュドラとの死闘を制したクリスタは、オルガたちから褒め立てられているが、いまだに立ち上がろうとしないのでヤルモが手を伸ばす。
「よっと」
「あ……」
ヤルモの手を借りて立ち上がったクリスタだったが、ガクンっと膝が落ちて地面に両膝をついた。
「チッ……言わんこっちゃない。しばらく勇者は使い物にならんぞ」
「ゴメン……」
「あ~。勇者に言ってるんじゃない。独り言だ。お前はよくやったよ」
「本当!?」
しゅんとするクリスタをヤルモが褒めるとすぐに復活した。
「イロナだって……」
「イロナさんがどうしたの?」
「いや……そういえば、勇者が勝手に一人で突っ込んで行ったから、イロナの無茶振りが来たんだった。反省しろよ」
「はい! もうパーティの和を乱したりしません!!」
イロナも褒めていたと言おうとしたヤルモは、途中で変更。クリスタを褒めたあとは、必ず調子に乗るからやめたようだ。
今回に限っては、教会の教えから彼氏を作れなかったクリスタが、自由になれたとテンションアゲアゲとなったのが悪いので、クリスタは超いい返事。
単体で動くとイロナからの無茶振りが来るとわかったから、そんな恐ろしいことはもうしないだろう。
「せめておんぶにしてくれない?」
ダンジョン攻略に戻った一行は先に進むが、クリスタからの苦情。動けないクリスタをヤルモが肩に担いで物扱いしているのが許せないようだ。
「あ、ちょうどモンスターだ。パウリ、勇者を背負ってやれ」
「自分がですか!?」
「鎧姿の女を背負えるヤツなんて、他に誰がいるんだ」
「私もヤルモさんの背中のほうが安心できるんだけど……」
「背負って戦えるわけないだろ」
パウリはこの国の王女であるクリスタを背負うことを嫌がるが、クリスタはヤルモの背中のほうがいいので苦情を言ってるっぽい。
面倒になったヤルモはクリスタをパウリに押し付けて、戦闘に向かって行くのであった。
この辺りのモンスターのレベルは高いので、パウリは役立たず。なのでパウリはクリスタのお守り役。二人が抜けているから、それ以外でパーティを組んで戦闘を行い、地下99階までパウリはクリスタを背負って歩く。
そうして地下99階に着いたのだが、階段に撤退して、ヤルモ主体の作戦会議に移っていた。
「まいったな~。飛行モンスターだらけだ」
そう。今回の地下99階は飛行モンスターの巣窟だったので、やりにくいから戻って来たのだ。
「ザコだらけだろう?」
空を駆けることの出来るイロナにとってはザコなのだろうが、勇者パーティには厳しい相手なのだ。
そんなイロナには静かにするようにお願いして、ヤルモはクリスタたちと作戦を擦り合わせる。
「10匹程度は戦ったことあるよな? 作戦はその時と一緒だけど、数が多いから一瞬も気が抜けないぞ。それと勇者。動けるようになったか?」
「うん。けっこう休めたし。でも、MPが心許ない」
「このフロアで終わりじゃない。ラスボスが控えているんだから、MPポーションはある程度残せよ」
「そうだね……じゃあ、宝箱は回収せずに一気に抜けたほうがよさそう。皆は……」
クリスタが案を出してからはヤルモは黙り、作戦会議が終わるのを待つ。そうして準備が整うと、地下99階へと戻った。
「壁を背にして進むよ!」
「「「「はい!」」」」
作戦の概要はこうだ。勇者パーティは壁付近に陣取り、クリスタとパウリの盾で防御。リュリュの攻撃魔法とヒルッカのスリングショットで削る。地面に落ちた飛行モンスターは基本的に無視。向かって来るモンスターだけ処理して先を急ぐ。
レベルの低いパウリが足を引っ張ることがあるが、そこは全員でカバーして、なんとかバランスを崩さずに進んでいる。
そんな勇者パーティとは違い、ヤルモとイロナは宝箱漁り。ここまで来てアイテムを素通りしたくないから別行動しているようだ。
迫り来る飛行モンスターの数々は、空を駆けるイロナが一刀両断。ヤルモに向かって来た飛行モンスターは盾に接触した瞬間に叩き落とされる。イロナがトドメを刺し切れていない飛行モンスターもヤルモの相手。剣で叩き斬る。
もちろん、アイテム拾いもヤルモの仕事。イロナがずっと空を飛んでいるからそれぐらいの余裕はあるようだ。
たまに勇者パーティとすれ違うことはあるが、極力手助けはしないヤルモ。パウリが苦しそうな時は助けようと考えていた。
しかしイロナが勢い余ってモンスターを殺すので、結果的に勇者パーティを楽にさせてしまっている。
そんなこんなで勇者パーティがなんとか地下100階への階段に辿り着いて休んでいたら、その階段の前まで追いかけて来ていた飛行モンスターは、次々とダンジョンに吸い込まれて一匹もいなくなるのであった。
「ないわ~。あれはないわ~」
「あんなに苦労して辿り着いたのに……」
必死に地下99階を抜けたクリスタとオルガは、イロナとヤルモペアが難なく殲滅したのでブツブツ言っている。
「何も全滅なんてしなくても……」
「わたしも疲れた~」
「自分なんて何度も死にかけたッス!」
もちろんリュリュ、ヒルッカ、パウリも、規格外の化け物二人を見てブツブツ言っているのであったとさ。