130 別行動2
「それじゃあ、採用ってことでいいね?」
城から派遣された騎士パウリは、ヤルモにも受け入れられたと感じたクリスタは確認を取る。
「別に俺のパーティじゃないから好きにしたらいい」
「冷たくな~い? リュリュ君の時は審査みたいなのしてたじゃない」
「あの時は面倒そうなヤツがいたからだ。浅い層で帰してなかったら死んでたぞ」
「そうだけど~……入団テストみたいなことぐらいやってよ~」
「自分でやれよ。誰かが死んで、新しく募集する時には俺はいないんだぞ」
「うっ……」
正論に黙らされたクリスタ。クリスタだけでなく、この場にいる者はヤルモから「死ぬ」と言われて、危険な仕事をしているのだと再認識していた。イロナ以外。
それからクリスタはパウリを庭に連れて行き、実技のテスト。「形式的なものだから」と念を押して模擬刀を構える。
「プッ……形式的だってさ?」
「勇者も言うようになったな」
もちろんヤルモとイロナはついて来て笑っていたので、クリスタの集中力が途切れる。
「ちょっ。そこ! なんでついて来てるのよ!!」
「「「「「暇だから……」」」」」
「全員に見られていたらやりにくいでしょ~~~!!」
当然、ウサミミ亭にいる者はこんな大イベントを見逃すわけにはいかないと囲んでいるので、クリスタはなかなか集中できないのであった。
「もう! さっさとやるわよ!!」
少しキレ気味なクリスタは、模擬刀をパウリに向ける。
「王女様相手だと、本気を出せないであります!」
「大丈夫よ。私、あなたよりレベル、遥かに高いから。当たったとしても痛くないわ。本気で来ないと、死ぬかもしれないからね」
「うっ……」
クリスタが睨むだけでパウリは手が震える。それだけレベルの上がった勇者のプレッシャーは強大なのだろう。
「うわああぁぁ~~~!!」
震えと戦っていたパウリは、居ても立っても居られなくなったのか、大声を出して突撃。上段からクリスタを斬ろうとした。だが、その姿勢のまま前のめりに倒れたのであった。
「おお~い。一撃で倒したらテストにならないだろ」
「あっ! 聖女様、治療お願い!!」
ヤルモの指摘で焦るクリスタ。そりゃ、パウリに見えない速度で動いて胴を薙ぎ払ったら、ただの暴力だ。オルガに治療されたパウリも何が起こって倒れたのかもわかっていなかった。
パウリが立ち上がるとリスタート。今回は盾も持って、パウリの攻撃を受けるクリスタであった。
「いけ! 勇者を倒せ!!」
「なってないな。勇者にはもう少し我と手合わせが必要だ」
「もう! 外野はうるさ~~~い!!」
ヤルモとイロナがちゃちゃを入れるので、やっぱり集中できないクリスタであったとさ。
「まぁ……こんなもんかな? 頑張った頑張った~」
息も絶え絶え、空を仰いで倒れているパウリにクリスタの労いの言葉。しかし大雑把すぎるので、オルガがヤルモたちに意見を聞いていた。
「ヤルモさんはどう思いました?」
「アリじゃね? 剣筋は綺麗すぎず、かといって自分の型がないわけではない。騎士より冒険者のほうが向いてそうだ。な?」
「うむ。機転もきいていたな。勇者の最初の頃に比べると幾分マシだ」
審査する気がないことを言っていたクセに、きっちり審査するヤルモとイロナ。
「ですって~!」
「私のことはいいでしょ~~~」
なので、引き合いに出されたクリスタは、また自信を無くすのであった。
それから昼食には頃合いとなったので美味しくいただく全員。特にパウリは「こんなうまい物を初めて食べたッス!」と、バクバク食っていた。
そうして昼食を終えたら、クリスタからヤルモに質問が来る。
「お父様の挨拶、いつにする?」
「うっ……どうしても行かないとダメなのか」
「ちょっとお話するだけよ。人払いもさせるから安心して」
「でも、無礼があったら首が飛ぶんだろ? 俺、自慢じゃないが、礼儀を知らないんだ」
「飛ばないし、お父様にはちゃんと言っておくって。でも、服はもう少しマシなの着てね。それじゃあ、お城を歩いたら目立っちゃう」
「わかった。フル装備で行く」
「鎧で守らなくていいから!」
鎧でガッチガチに固めて城に行こうとするヤルモは止められたが、フォーマルな場で着る衣装なんて持ち合わせていないので、これから買いに行くことになった。
「服はそれでいいとして、いつ会うかよね。お父様と会うにはすぐには合えないし……次、ダンジョンに潜るのは何日後?」
「う~ん……一度、勇者たちだけで中級ダンジョンに挑戦してみないか?」
「私たちだけって……ヤルモさんとイロナさんはついて来てくれないんだ」
「今まで勉強したことを全て出せば楽勝なはずだ。それにパウリは前衛だから、いきなり特級は厳しい。中級ならヒルッカもナイフで戦えるだろう」
「ちょっと自信ないかも……」
「だからだ。自分たちでもクリアできると自信をつけて来い」
ヤルモの発言にクリスタは一理あると思ったが、違う可能性がふと浮かんだ。
「お父様に会いたくないからって、私たちがダンジョンに潜っている間に逃げない?」
「そ……」
「そ?」
「その手があったか~~~!!」
「聞くんじゃなかった~~~!!」
クリスタの失策。ヤルモはイロナと一緒に特級ダンジョンに潜ろうとしていただけなのに、知恵を与えてしまったがためにいらぬ心配が生まれるのであった。
「でも、二人で特級って、最低五日は掛かるんじゃない?」
「そっちは早くて二日、長くて四日だろ? 残りは体を休める期間にしたらいいだけだ」
「う~ん……じゃあ、念のため長く取って一週間後……は、何か用があるって言ってたか。八日後にお父様との面会にするわ。文を出すから絶対間に合わせてね?」
「なるほど……遅刻するって手も……」
「間に合わせてね!!」
またいらぬ知恵を与えて、ヤルモに国王に会わない方法を授けてしまうクリスタであったとさ。