127 マッピング9
スカルドラゴンを見たイロナはまたガッカリ。やる気もなくしてしまった。
「主殿にやる。戦っているところを見るほうがまだマシだ」
「あ~い」
また押し付けられたヤルモは、クリスタたちを集めて作戦会議。ヒルッカは大事を取ってイロナに守ってもらうようだ。
「今回は勇者も前に出ろよ」
「う、うん……でも、イロナさん無しにどう戦うの?」
「デカイ奴のセオリー通りいくしかないだろう。足狙いだ。たぶん骨は治るだろうから、辛抱強くいくぞ」
クリスタが頷くと、オルガとリュリュにも指示。
「二人は俺の背中の延長線を外れるな。攻撃する時は、どちらか一人が勇者のほうを攻撃しろ。もう一人はスカルドラゴンから目を離すなよ」
「「はい!」」
作戦会議が終わると、ヤルモは剣と大盾を構える。
「さあ、行くぞ!!」
「「「はい!!」」」
こうしてヤルモの気合いの声にクリスタたちが呼応して、スカルドラゴンとの戦闘が始まった。
「勇者! 飛ばしすぎだ! ファーストアタックは俺がやる!!」
「あ……わかったわ」
いつの間にかヤルモより素早さが上になっていたクリスタはスピードを落とす。すると鈍足のヤルモがドタドタ前に出て、スカルドラゴンの左前足に踏まれた。
しかしヤルモは大盾を上に構えて耐え、力いっぱい押し返した。
「どらぁぁ~~~!!」
ヤルモは、スカルドラゴンの左前足が着地した瞬間を狙っての渾身の一撃。スカルドラゴンの骨はだるま落としの如く飛んで行き、首が下がった。
「まだだ! ……行け!!」
「はい!!」
スカルドラゴンはヤルモに噛み付こうとしたので、飛び込もうとしたクリスタを一度止めたヤルモ。次の瞬間には大盾で受け止めたから、この隙にクリスタが畳み掛ける。
クリスタは右前足に剣を数度振ったが、ダメージは低い。しかしヒビは入ったので同じ箇所を狙う。
そこそこダメージが入ったところで、クリスタは息を整えるために離脱。そこにオルガの【ホーリーサークル】が決まり、またクリスタが前に出て戻ったら、リュリュの【ファイアーランス】が飛ぶ。
三人の攻撃が積み重なるとスカルドラゴンの右前足の骨もヒビだらけとなり、砕けるのであった。
その間ヤルモは、スカルドラゴンの頭と戦っていた。噛み付きは大盾で止め、弾き返すとアゴに剣での渾身の一撃。ここは関節が硬いのか、なかなか吹き飛ばない。
なのでヤルモは場所を変え、牙を吹き飛ばしたり、アゴに渾身の一撃を入れながらダメージを積み重ねる。
「ブレス来るぞ! 構えろ!!」
両前足が使えなくなりダメージが溜まると、スカルドラゴンは頭を引いて大口を開けたので、ヤルモは大声を出しながら下がる。
「毒だ! 勇者も下がれ! リュリュは俺を巻き込んでも構わない。風で押し返せ!!」
スカルドラゴンのブレスの種類にいち早く気付いたヤルモは、早口で指示を出したあとは空気を大きく吸って息を止めた。
その直後、猛毒のブレスが放たれ、ヤルモは直撃。それで終わらず、猛毒の霧は広範囲に撒き散らされた。
「【ウインドストーム】」
猛毒のブレスはヤルモに直撃して威力が削がれているので、リュリュの魔法でもなんとか押し返せている。しばらくすると、血相変えたクリスタが安全地帯に合流して膝を突いた。
「ケホッ……吸っちゃった」
「いま治します!」
どうやらクリスタは、猛毒を少し吸い込んでしまったのでオルガに治してもらおうと戻って来たようだ。そうしてオルガに解毒してもらったクリスタは立ち上がって前を見る。
「まだ消えないね……ヤルモさん、大丈夫かな?」
「何度か毒を吸ってる場面はありましたし、大丈夫だと思いますよ」
「だよね? でも、念のため【キュア】の用意しておいて」
「そうですね。同じ場面はこれから先もあるかもしれませんしね」
二人でヤルモたちが抜けたあとのことを喋っていたら、毒の霧が晴れて来た。
「ヤルモさ~ん! 解毒いる~~~??」
「モゴモゴ~~~!」
クリスタが大声で問うが、ヤルモの返事はよくわからない。
「なんて?」
「モゴモゴ~じゃ、わかりかねます……あっ! 毒消し草を食べてたのかもです」
「あ~。だからモゴモゴね。でも、あのヤルモさんに毒が効いたんだ……」
「それだけ強敵ってことですね。さっきのダメージも治っているみたいですし」
「振り出しか~……ま、今回は手応えあるし、頑張ろう!!」
「「はい!!」」
長丁場はヤルモから聞いてわかりきっていたこと。クリスタ、オルガ、リュリュはふんどしを締め直してスカルドラゴンとの戦闘を続けるのであった。
* * * * * * * * *
時は少し戻り戦闘開始直後……
「あわわわわ……あんなに大きな骨が……」
ヒルッカは初めて見る巨大なスカルドラゴンに恐怖していた。
「アレぐらい、主殿一人で大丈夫だ」
イロナは通常通り。腕を組んで見つめている。
「ヤルモさんだけで倒せるなんて……嘘ですよね?」
「嘘なわけなかろう。見ろ。足の骨が吹っ飛んで行ったぞ」
「本当です……」
あまりにも常識外れの戦闘に呆気に取られるヒルッカは、ヤルモたちが押していても反応が鈍い。そんななか、スカルドラゴンから猛毒のブレスが放たれた。
「あの……毒の霧がこっちまで来ているのですが……」
「貴様だと、ひと吸いしたら死ぬな」
「し、死ぬ!? 逃げないと!!」
「我から離れるほうが死ぬ確率が高いぞ」
「でも……」
「まぁ見てろ」
イロナはそういうとロングソードを抜いて鞘に戻す。
「えっと……何を見たらいいのですか?」
「もう終わった。すぐに霧は押し戻される」
「わっ! な、なんで……」
「我がその辺を斬っただけだ」
イロナは10回ぐらい剣を振ったのだが、あまりにも剣速が速すぎてヒルッカには見えていなかった。なので、遅れて暴風が吹き荒れるものだから、ヒルッカはイロナのことを、最強クラスの化け物だと認識したのであった。