107 特級ダンジョン10
地下81階に足を踏み入れた勇者一行。ここからはモンスターがさらに強くなったので、クリスタ以外は役に立たない。
リュリュの攻撃魔法は弾かれ、使える魔法は支援魔法のみ。オルガも支援魔法とクリスタを治す治癒魔法のみ。
クリスタはというと、ヤルモが回してくれるモンスターと戦っていたが、イロナの無茶振りが来たので怪我が絶えない事態となっている。
「リュリュ君は賢者を目指していましたよね? 治癒魔法は使えませんか?」
「いえ……まだ魔法使いなので使えません」
「ヤルモさ~ん! もうMPが切れそうで~す!!」
イロナブートキャンプのせいで、クリスタより先にオルガがギブアップ。イロナに言ったところで通じないと思い、ヤルモに泣き付いた。
「だってさ。あまりMPポーション使い過ぎると稼ぎが減るから、勇者ばかりに戦わせると厳しいな~?」
「むっ……金か……」
「そうそう。赤字になったら宿にも泊まれなくなってしまう」
「人族とは面倒なのだな。致し方ない。しばらく勇者は休憩だ」
そう言うとイロナはモンスターに突撃して行ったので、ヤルモは胸を撫で下ろす。あまり不甲斐ない理由で止めると、イロナが怒ると思ったヤルモの勝利。お金の価値があまりわかっていないイロナには、もってこいの言い訳だったようだ。
ただし、ヤルモはケチなので、自分用に買ったMPポーションに手を付けられることを嫌った模様。クリスタからかなりの額の報酬を貰っているのに、本当にケチくさい……
しかし、そんなヤルモの性格は露知れず、クリスタたちの評価はうなぎ登り。
あの魔王を止めてくれたと……
ここからはイロナとヤルモの活躍で、攻略速度が加速。後方では、クリスタたちがブツブツと「あんなに苦労したのに」とか、「あの二人が異常なだけ」とか言っている。
そうこうしていたらマグマフロアに到着。今回は人数分、体温調整マントを用意していたので問題なく進む。なのでヤルモは、クリスタたちの出番も作ろうとしていた。
「ここのモンスターはそんなに強くないし、勇者たちにも回してやろう」
「ふむ。火竜も弱かったし譲ってやる」
イロナの許可が出たら、ヤルモはクリスタたちを呼び寄せる。
「俺が止めるから勇者はアタッカーな。リュリュは氷魔法を使えるなら当ててやれ。聖女は支援魔法。たぶん勇者の攻撃が通るはずだから、MPは節約するんだぞ」
「「「はい!」」」
ヤルモの指示通り動けば、マグマフロアのモンスターは簡単に倒される。半分以上はヤルモで倒していたが、クリスタも多くのダメージを与えていたのでその分経験値も多く入ったようだ。
リュリュも弱点をついてちょっとはダメージを与えられたから、レベル差もあったので多くの経験値を手に入れた。
問題はオルガ。支援魔法しかしていないので思うように経験値が入らない。リュリュにレベルが追い付かれそうになっている。
そうこうしていたらマグマフロアはクリア。地下93階フロストフロアまでのモンスターは、うずうずしていたイロナに蹴散らされる。
ただ、アンデット系のモンスターが出た場合はヤルモが買って出て、オルガと共に倒していたので、オルガもそこそこレベルが上がったようだ。
フロストフロアもイロナに譲ってもらい、クリスタとリュリュのレベル上げ。ついにオルガはリュリュに追い越されてしまった。
そのせいで、フロストフロア以降のアンデットに当たるオルガ。ヤルモが止めているのに、MPポーションをがぶ飲みして聖属性の攻撃魔法を乱発。何度もヤルモを巻き込んで、クリスタに羽交い締めにされていた。
その甲斐あってか、オルガのレベルは爆上げ。地下99階に到着した頃には、クリスタに迫るレベルになっていた。どうも、強いモンスターとレベルの高いヤルモに当てたことで経験値が多く入ったようだ。
「おい。そっちのMPポーションはあと何本残っているんだ?」
小休憩の際には、ヤルモは怒るでなくオルガに質問する。
「たくさん買って来ましたから、まだまだ……あれ? あと二本しかないです……」
「おお~い。これがお前たちだけなら、進むことも帰ることもできずに死んでるぞ。ちゃんと配分管理しろよ」
「うっ……申し訳ありません」
「勇者たちも覚えておけよ」
冷静に叱られたオルガは平謝り。クリスタたちはとばっちりだがヤルモの言い分は100%正しいので、心のメモに書き加えられていた。
地下99階は、四天王が居なくなったから様変わりしており、普通のフロアとなっていたが、ガンガン進んで……というか、イロナのテンションが上がって、ついて行くのがやっと。
そう。地下99階はドラゴンの巣窟となっており、多種多様のドラゴンが待ち構えていたのだ。
もちろんイロナの敵ではないので、どんなに強くとも、どんなに大きくとも、どんなに素早くとも、どんなブレスを浴びせかけられようとも、一刀両断。
ドラゴンの胴体と頭が離れたオブジェが大量に作り出されたのであった。
「お疲れさん。楽しかったか?」
「うむ! こんなに首を斬り落とせて我は幸せだ!!」
ヤルモが声を掛けると、イロナは満面の笑み。少し引き気味で見ていたヤルモであったが、ドロップアイテムが美味しかったからか笑顔になっている。
二人とは別に、オルガとリュリュは顔が真っ青。
「全部、綺麗に首だけを斬り落としましたね……」
「あんな大群……ボク、ちょっとチビッたかもです……」
「勇者様は何も思わないのですか?」
一人涼しい顔で水筒の水を飲んでいたクリスタは、ゴクンと飲み込んでオルガの質問に答える。
「スタンピードの時と比べるとね~……あの地獄と比べたら普通じゃない?」
どうやらクリスタは、もっと大量のモンスターを目の当たりにしていたから冷静だったようだ。
哀れな被害者のおかげで、イロナの無茶振りも来ないのだから……