106 特級ダンジョン9
地下80階のセーフティエリアで一夜を過ごした勇者一行は、朝食の席で集まる。
クリスタとオルガはヤルモを見ながらコソコソと喋るので、気になって質問しても「なんでもない」の一言。その二人の目はイロナにも向けられるので、ヤルモはイロナに聞いてみたら頬を赤くして背中を「ドコンッ!」と叩かれるだけ。
唯一喋れる相手はリュリュだけだ。
「昨日の夜、何かあったのか?」
「覚えてないのですか? ヤルモさんはモンスターに吹っ飛ばされて壁に大穴を開けたんですよ」
「モンスター??」
「あれだけの衝撃ですもんね。記憶が飛んでいるのでしょう。イロナさんが倒してくれたんですよ!」
「セーフティエリアにモンスター……」
どうやらリュリュは、クリスタたちからヤルモたちの「夜の営み」を「モンスターが来た」にすり替えられていたようだ。その説明を聞いたヤルモは、イロナの強烈なローリングソバットを喰らって死に掛けたと思い出し、顔を青くしていた。
ちなにみイロナは、ヤルモにバレたくないのか、リュリュの嘘の説明に大きく頷いていた。もうバレバレなのに……
地下80階から下はセーフティエリアは期待ができないし、クリスタたちの疲労が溜まっているので、ここでもうしばらく休憩。ヤルモとイロナは昨日、あんなことやそんなことをしたから、もう一度温泉に入ってから眠るようだ。
お風呂の準備を済ませた二人は、裸で温泉に入ろうとする。
「「「キャーーー!」」」
「す、すま~~~ん!」
そしてお約束。先に入っていたクリスタ、オルガ、何故かリュリュが悲鳴をあげる。なのでヤルモは急いで逃げようとしたが、イロナに頭を鷲掴みにされて地面が消えた。
「ちっこいのも入っているじゃないか。それなら主殿も問題ないだろう」
「いや、そういうわけには……わっ!」
イロナはそう言うとヤルモを湯船に投げ込み、自分も入ろうとするが、クリスタとオルガは焦って止める。
「ストップ! スト~~~ップ! イロナさん、前隠して!!」
「ん? どうしてだ??」
「私たちは水着を着てるんです! ほらっ!!」
どうやらクリスタたちは、前回ヤルモと一緒に入った経験から水着を用意していたようだ。だからリュリュと入っても問題ないと言いたいらしい……
「おっふ……」
それでも免疫のないヤルモには刺激的で、二人の水着姿を凝視して股間を手で隠している。
「イロナさんの裸まで見ちゃった……」
リュリュも男の子。顔を真っ赤にして、湯船に顔をつけて見ないようにしている。
そんなことは意に介さず、イロナは湯船に入ってヤルモと腕を組む。
「なるほど……そういった服を着れば、主殿を誘惑できるのだな?」
「いや、イロナさん? 腕が痛いんだけど……」
「そういえば、主殿が買ってくれた【危ない水着】があったな。着て来ようか?」
「イロナさん? アレは俺だけに見せて欲しいな~?? あと、裸も……」
「フフ。やはり、主殿は我の体のほうがいいか」
「う、うん。叩かないでくれる? 痛いから……」
「では、何故、聖女の体を凝視していたのだ?」
イロナから殺気が放たれるものだから、温泉が氷のように冷たく感じ、一人を除いてブルッと震える。
「やっぱり胸か~~~!!」
さすがは勇者。クリスタはイロナの殺気に負けずに立ち上がっ……ん? コンプレックスを刺激されて怒っているっぽい。
「イロナの胸が一番です!!」
「そうだろそうだろ。フッ……」
「いま私を見て鼻で笑った~~~!!」
たんにイロナは誇らしく笑っただけであったが、それがクリスタのプライドを傷付けたらしく、涙目で温泉から出て行くのであった。
「ブクブクブク……」
「リュリュ!? これも持って帰れ~!!」
大人の話について行けなかったリュリュは、溺れかけてヤルモに救助されるのであった。ただ、受け渡しの時にヤルモのブランブランした物が湯船から出て、「キャーキャー」言うクリスタとオルガであったとさ。
温泉で疲れやなんやかんやを落とした一行は、各々のテントに戻る。最下層まではもう一息だが、クリスタたちの疲労を考えて長く休息を取るようだ。
ヤルモのテントはイロナのせいで大穴がふたつも開いているので、応急処置すらできない。なので、一人用のテントに二人で入る。
こうも狭いと何もできないようで、イロナも自重している。というより、昨日は自分から誘ったのにローリングソバットをかましたから、さすがに反省しているようだ。
そうして休息を取ったら腹を満たし、装備を整える。
「さてと……あと20階だ。ちゃっちゃっと済まして帰ろうか」
「うむ」
ヤルモとイロナは、腕を組んで地下への階段へと向かうのであった。
「あの~……ずっと思っていたのですけど、出発する時って、何か掛け声とかないのですか?」
最後の最後ぐらいは、皆を鼓舞するような掛け声があると思っていたリュリュであったが、ぬるりと始まったので質問してしまった。
「まぁ……あの二人だからね」
「ですね。あの二人はいつもあんな感じです」
しかし、クリスタとオルガは苦笑いで歩き出したので、リュリュも続くしかなかったとさ。