104 特級ダンジョン7
セーフティエリアで夜のお楽しみを乗り越えた翌日……
目覚めたヤルモは首が折れていないとホッとしてからイロナを起こした。
「すまない……あんなことを言っておいて、二回しかしていなかった」
「いや、十分だ。気持ちよかったからな。さて、準備しよう」
イロナが不甲斐ないと謝って来ても、ヤルモは気にしていない。というより、ぶり返すと朝からダメージを受けそうなので、早く行動を起こしたようだ。
そうしてクリスタたちが起きているかを確認しに、イロナと腕を組んでテントに近付いたらヤルモは焦る。
「リュ、リュリュ君? 昨日はそこで寝たのかな??」
そう。リュリュがクリスタたちのテントから出て来たのだ。
「そうですけど……どうしたのですか?」
「まさかその歳で、二人を相手取ったりなんかは……」
「なんの話をしているのよ!」
いまだ童貞のオッサンがあわあわしていると、クリスタがテントから顔だけ出した。
「いや、その……」
「ちょっと耳を貸しなさい」
「はい……」
モゴモゴ言うヤルモを呼び寄せると、クリスタはコソコソと耳打ちする。
「リュリュ君がいるんだから、そういうことはやめてくれない?」
「へ??」
「声が聞こえているのよ。リュリュ君が怖がってなかなか寝付けなかったんだからね。せめて声は出さないで」
「すまん……」
年下の女子に不甲斐ない声を聞かれていたと知ったヤルモは平謝り。しゅんとして、テントの片付け始めるのであった。
朝食と準備を済ませたら、今日も『ガンガン行こう』。クリスタたちのレベルも上がっていたこともあり、魔法の威力、MPは増えていたが、地下41階にもなるとモンスターも強くなっているので、地下1階とダメージは変わらない。
クリスタたちはそれで自信を失っていたが、ヤルモは気にするなと言いながら魔法を使わせていた。
今日は魔力量が半分になるまではガンガン魔法を使わせ、半分になったらフロアの最後のモンスターに使わせて順調に進んでいる。
お荷物のテッポがいなくなったことと、アイテム拾いの人数が増えたこともあり、前回よりも攻略速度が早い。なので、ここからは宝箱も漁りながら進んでいた。
「この杖、使えそうじゃないか?」
「え? いいんですか!?」
「俺たちは使えないんだから、欲しいのがあったら言え。パーティの底上げになる」
「ありがとうございます!」
リュリュ用の装備が出たら率先して変更させて進んでいたら、オルガが恨めしそうな目を向けて来た。
「私たちには……」
「聖女たちもいいけど……見た目で決めるなよ? 性能で変更してくれ」
「ありがとうございます!」
オルガには注意してみたが、なんだか怪しい。ジャラジャラ付けているアクセサリーがさらに増えて、オルガの目がハートになっているからだ。
オルガとは違い、リュリュは性能を吟味してアップグレード。動きに支障が出ない程度の数に留める。
その姿に感心したヤルモは、初めてオルガにマイナス点を付けた。今まで優秀な成績を収めていたと自負していたオルガはショックを受けていたようだが、事実は回復職に点数を付けようがなかっただけ。
しかしそのおかげで、アクセサリーが二個だけ返還された……
そうして地下50階、中ボス部屋に辿り着いたら勇者一行は、リッチエンペラーを視界に入れる。
「くっ……ザコか。主殿に譲ってやる」
「「「は~い」」」
「え? アレがザコ??」
「リュリュ。いいから作戦会議だ」
イロナがガッカリしているなか、リュリュは納得いっていなかったようだが、ヤルモに首根っこを掴まれて強引に集められる。
「勇者と聖女は経験があるけど、今回はあの戦法は無しだ。俺が盾役で距離を詰めるから、三人でリッチエンペラーを常に俺の前に来るように動きを阻害してくれ」
「私たちで出来るかな?」
「四天王じゃないし、多少は効くだろう。あと、勇者は俺の後ろからな。合図を出したらボコるぞ」
「うん!」
「もしも作戦が上手くいかなかったら、俺一人でやるから心配するな。じゃ、行くぞ」
「「「はい!」」」
気合いの入った三人の声を聞いて、ヤルモは盾を構えてジリジリ前進。それを見てリッチエンペラーは魔法を放つが、どんな魔法もヤルモの盾を崩せない。
正面からでは効かないと気付いたリッチエンペラーが横に移動しようとしたら、そこに勇者の【ホーリースピア】、リュリュの【サンダースピア】、オルガの【ホーリーサークル】の集中砲火。
リッチエンペラーはやむなく元の位置に戻される。その戻る動作の時に、ヤルモは走って前進。一気に距離を詰めたが、もう少し距離は残っている。
しかし、三度も繰り返せばチェックメイト。リッチエンペラーが振るった杖はヤルモの盾に触れた瞬間、一気に引かれて体勢が崩れる。
「オラッ! 勇者来い!!」
「オッケー!」
ヤルモが剣の柄で殴るとリッチエンペラーは地面に這いつくばり、駆けて来たクリスタは何度も剣を振り下ろす。負けじとヤルモも踏み付け。あまりダメージを与えないように戦っているようだ。
「引けっ!」
「うん!」
しばしダメージを与えていた二人であったが、ボスの執念からかリッチエンペラーは、自爆するように自身に炎魔法を当てた。
ヤルモたちは大きく距離を取り、燃え盛るリッチエンペラーを見つめる。
「あ、立った」
「炎の耐性が高いんだろ。それより仕切り直しだ」
「わかったわ」
ヤルモは後衛にも声を掛けてリスタート。先程の戦法を繰り返し、難なくリッチエンペラーを倒したのであった。