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前科三犯、現在逃走中のオッサンは老後が心配  作者: ma-no
02 カーボエルテ国 ハミナの町
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010 カミングアウト2


 全てを語ったタピオはみっともなく泣いたことを謝罪してから、イロナの正体に言及する。


「俺はかなり防御力が高いのに、ここまでダメージを与えるなんて、イロナこそ何者なんだ?」

「我は……」


 イロナはどう説明していいかを悩んで口ごもり、質問からぶつける。


「主殿は、トゥオネタル族を知っているか?」

「トゥオネタル族……。確か北の最果てに住んでいると言われる力の強い種族だったか。人族の辿り着けない領域だから、滅多に姿を拝めないとも……」

「それだ。我はトゥオネタル族、族長の娘だ」

「娘?? トゥオネタル族は男しかいないと聞いたぞ」

「真っ赤な嘘だ。我も初めて聞いた時は笑ったものだ。外に出た男が、女を守るために嘘でもついたのだろう」

「なるほど」


 種族の説明には納得がいったタピオであったが、ひとつ納得できないからか、イロナをジロジロと見る。


「なんだ?」

「いや……トゥオネタル族は力が強いと聞いたことはある。それと、筋肉が角張っているとも……」


 そう。トゥオネタル族とは、タピオと同じくマッチョな体型。ただし筋肉が異質で、岩のように硬く端が尖って見えるので、別名「岩石族」とも呼ばれている。


「それは男だけだ。女は人族の女とさほど変わらない。ただし、力なんかは凌駕するがな」

「はあ……でも、どうしてそんなレアな種族がこんな所で奴隷にまで落ちているんだ? まさか、奴隷狩りとか?」

「志願したまでだ。我が軟弱な人族に捕まるわけがなかろう」

「志願??」

「先も主殿が言った通り、トゥオネタル族の体は硬い……」


 どうやらイロナには婚約者が居たが、逃げて来たらしい。逃げた理由も、イロナのタイプじゃないから。イロナのタイプは肌が柔らかい男。そんな男はトゥオネタル族にはおらず、逃げ出すしかなかったようだ。

 もちろん長や婚約者、親兄弟、親戚等々は止めたのだが、全て半殺しにして逃げ仰せたとのこと。その怖い逸話に、タピオは「逃げるだけでよかったのでは?」と口を挟んだが「迎え撃つのが主義だ」とバッサリ切られていた。


 逃走の末、街道で出会った盗賊に「奴隷にして売ってやる」と言われたイロナは、半殺しにして詳しく話を聞き、金目の物は全て奪ったようだ。

 その情報で、奴隷になれば住み処も食事も男もくっついて来ると知り、ここ、ハミナ町までやって来たそうだ。


「それって……奴隷になる必要はあったのか?」


 まったくない。普通に働いて、近付いて来た男と恋仲になればいいだけだ。


「奴隷にはメリットがある。館長が我のために、金持ちの男を用意してくれるからな」


 婚活かな? 婚活アプリとして奴隷商を使っていたのかな?


「それに我も、早く初体験を済ませたかったのだ。性奴隷が一番手っ取り早いだろう?」

「そうですね~」


 タピオも呆れてそれ以上の言葉が出ない。呆れている理由のひとつに、初体験を済ませたいとか言ってるくせに、イロナが怖がってブッ飛ばされてできなかったことも含まれている。

 しかしながら男のタイプが気になったので質問するようだ。


「でも、俺の体は硬いほうだと思うんだが……」

「そうでもないぞ。体付きはトゥオネタル族に似ているが、肉は柔らかい。まるで上質な暴れ巨牛の霜降り肉のようだ」


 何やらステーキを褒めるような言い方だが、イロナからしたら、トップアスリートの筋肉を例えにして褒めているつもりらしい。タピオは食べられるのではないかと恐怖しているが……


「ちなみに職業はなんだ?」

「我の職業は『戦女神』だ」

「戦女神?? 聞いたことがあるような無いような……」

「主殿も詳しく知らないのか。我は生まれた時からこの職業なのだが、トゥオネタル族は誰も知らなかったのだ」

「ふ~ん……そんな誰も知らない職業なのに、奴隷館では聞かれなかったのか?」

「館長は我に質問して来なかったから忘れていた」

「あ~……」


 ヤルモ納得。イロナが怖すぎて、何か聞いてはならないところに触れたら殺される心配をしていたと館長を憐れんでいる。


「あ! 思い出した……」

「なんだ??」

「戦女神! 昔読んだ絵本に出て来たはずだ」

「絵本? そんな物にも職業が出て来るのか。どんな話だ?」

「……忘れた。もう30年以上昔の話だし……」

「我が生まれるより前では仕方がないな」

「すまん……てか、イロナっていくつなんだ?」

「我は数えで二十だ」

「うっ……俺より倍近くも離れている……こんな若い子に俺は……」


 いまさらイロナの年齢を知ったヤルモはちょっと懺悔しているようだが、男としては誇らしくもあるようだ。しかし、裸を想像して悶々としている場合でもないので、気を取り直して職業の話に戻す。


「ところで、その戦女神のレベルは?」

「ちょうど300。上限の印が出ないところを見ると、まだ上があるみたいだな」

「300!?」


 通常職の限界レベルの三倍では、タピオも驚きを隠せない。


「主殿はいくつなのだ?」

「151だ。どうりで俺が力負けするはずだ」

「ふむ……さすが主殿だ。100を超えてる者などトゥオネタル族でも数えるほどだ。これならば鍛え方次第で、我のテクニックも受け入れられるな」

「はい?」


 タピオはイロナの喋る内容が意味不明なので聞くが、イロナは突然立ち上がって声を大きくする。


「では、ダンジョンに共に潜ろうではないか!」

「いまから??」

「そうだ。主殿には早くレベルを上げてもらって、気持ちよくなって欲しいからな。行くぞ!」

「ま、待って……」

「ぐずぐずするな!」


 急転直下。こうしてタピオはイロナに首根っこを掴まれ、宿屋から引きずり出されるのであったとさ。


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