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白錵との対話

「わっちに允可を授ける気になってくれたのかね?」

 満面の笑みを浮かべ、先代の白虎は嬉々として語り出す。しかし朱雀は静かに、(かぶり)をひとつ振るのみだった。

「いいえ。今日は、次代への受け継ぎをお願いしたく参りました」

「……は?」

 それを聞き取り、白錵は笑顔を引き攣らせる。眼光鋭く、小さな影を射殺そうと試みた。だがその雛は震え上がることをしない。その態度が更に白錵の怒りを買った。

「面白くない冗談だね。それでわっちからの支援を受けられなくなっても、良いって言うのかい?」

 仏頂面で、同等のはずの者を卑下する。西と南は破天荒な神が多く現れると知られているが、それでも調停は保たれていた。互いに手に入らないものを交換し、さらに星の繁栄を促す。朱雀の民も白虎の民も、それぞれの商物(あきもの)を好いている人々がいる。ゆえに一歩引いてでも交易を円滑にするようになっていた。

 白錵はその取引を反故(ほご)にしようと言っている。それでも、向こうからの断絶は恐怖ではない。墜ちた星と交渉をするほど、遊星朱雀は落ちぶれてはいけない。

「ではいまから、遊星白虎からの支援は必要ありません。代わりにこちらから手厚い支援をさせていただきます。お願いですから、僕と同じ世代の跡継ぎを産んでください」

「何を、申し述べているんだ……?」

 白錵は怒りで、その言葉を理解しようとしない。このチビは、この自分に、対等に物を言おうとしている。その事実はこの猛虎を、逆撫ですることしかない。互いの獣者は内心ハラハラと危惧しているが、それでも間に入ることは許されなかった。正式な神々の対話は、いつも神経を磨り減らさせる。

「産みたくても、わっちの腹に仔はいない! 到底無理な話、ならばわっちが君臨しなければいけないではないか!」

 小馬鹿にしたように吐き棄てる。少し考えれば分かる話だ。そのようなことも足りない頭では分からないのかと、大人は鼻で笑う。

 この神、白虎は唯一出産を経験する。雌の場合は胎内に次代を宿し、そうして神事を受け継いでゆくのだ。自身の意志で仔を成せるため、正確に言えば白錵にはその思惑がないことになる。高慢な心根を優しく手折るように、火威は続けた。

「白錵さんは長く君臨し過ぎています。この星の悲鳴が聞こえないのですか? 民は苦しんでいるのです」

「それは飢饉の話かい? 木枯らしが吹くのはわっちのせいじゃない」

「いいえ、あなたの影響です。神力を獣者に使いすぎているのを気付いていないのですか?」

「――何?」

 やれやれと首を振った白錵だが、なおも攻撃をやめない朱雀にうんざりしてきたところだ。ちくちくと細かく撃ってくる檄が邪魔で仕方がない。早いところ允可をくれればそれでいいのに。

「こいつらは駒仕えとしておいてやってるのさ。わっちを補佐するのも大事だろう? 特に、猿猴楓はわっちのことを良く分かってくれるからね」

「そうやって遊星に負担をかけ、獣者を傍に置き続けたのでしょう? まさかそれに気付かないほど盲目になってしまったのですか?」

「誰が(めくら)だ! アヤツじゃあるまいし! ……いや、それは行ってみれば分かること」

 そうだ、と銘打って、白錵が知っている最も不敬な存在を露見させる。

「わっちよりももっと咎めなければならない者がいるぞ? 青龍だ。彼奴の次代はもう五歳次前に誕生している」

 朱雀よりも早く、斃れた神より先に次代に継ぐことは、ほとんどない。火威の獣者たちは驚愕で息を呑む。それはまさに不敬である以外、何でもなかった。直ちに問い詰めに行きたい気分であったが、それはこの場を去ることに繋がる。

 しかし主は一瞬の眼の揺らぎはあったものの、気にも留めず一点を見据えていた。いまは構っているときではない。前門の虎を何とかしないことには、後門の龍へと行動を移せない。白錵はいまだ煽るように囃し立てている。

「斃れた神よりも先に誕生したもんだから、あのガキも罰が悪いのさ。アンタが優位に立てるよう、いまのうちに釘を刺すことを薦めておくよ!」

「……いいえ、白錵さん。僕はいま、あなたの話をしています」

「――くっ、このガキが! だいたいね! 次代に引き継ぐときは、神々で協定が組まれるんだ! それを破ったのは、アンタんとこだろう!」

 初めて聞く情報であった。先代の不始末だろうか、ならば自分にも落ち度がある。先代の記憶はないが、命潰えるときにもまた、允可が必要なのだろう。

「それは、大変申し訳ないことをしました。勉強不足ですみません」

 潔く、頭を下げる。これで満足ならば言うことはないが。いつの間にやら立ち位置が逆転したようにも見えて、獣者は混乱した。それは、食われる立場であった者が、技術で猛獣を捻じ伏せる行為にも似ている。

「しかし、いまは、僕の時代です」

「――っ!」

 荒立って虎に転変しかけている白錵に、とどめを刺しにかかった。針だと思っていたものが棘になり刃になり、女帝の胸を突き刺していく。引き摺り降ろそうと登ってくる蟲が、煩わしくて牙を噛んだ。

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