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金色夜叉

「猿猴楓、お前はわっちと来な」

「御意」

 残された二頭の獣者を名残惜しそうに一瞥しながら、猿猴楓は謁見の間を後にする。心中で謝罪を入れながら、彼はただ黙って白錵に従うのみであった。

 彼女は、黄金が大好きだ。見た目からも分かるように、纏う絹は白だが、その首、胸元、腰、指先に至るまで、金を巻いている。まるで自分の権威を誇示しているかのように。先程の広間もそうで、他人の眼に晒されるところ、そうでないところ、すべてを黄金で作らせた。金箔ではない、金属だ。

 古来より遊星白虎は豊穣の土地として知られる。木枯らし吹くときもあったが、絶えず豊かさをもたらしてくれた。実る果実、堅果。(ふと)る魚、畜産物。そのすべてがこの星にあったが、彼女の欲しがっているものは、ここでは採れなかった。

「黄金は、ここでは採れぬのか……」

 これは、先帝炎麗が斃れるよりずっと前。猿猴楓も歳若く、血気盛んな時代だった。そんな折、白錵は半ば諦めかけた言の葉を漏らす。女神が求めたのは金色に輝く金属だった。悲しそうに呟く主に犬酸漿(いぬほおずき)は宥めの言葉をかけてやる。彼は犬山薄荷の祖父であった。薄藤混じりの白髪(はくはつ)で、柔らかい笑みを称える。

「白錵樣。金は遊星玄武より、貿易で手に入っているではありませんか」

「数は少ないではないか! わっちの宮殿が出来上がるまで、幾歳次かかると思っている!?」

「しかし……」

 白錵は虎の牙を剥き、犬酸漿に噛み付く。そうは言っても、少しずつながらも黄金の宮殿は建築されているので、それで十分な気がしていたが主はそうでもないらしい。犬酸漿は人の良い柔和な笑顔に汗を掻き、何とかして主の気を落ち着かせようとしていた。老爺な分、気性も荒くないがゆえ、手懐けるのに時間が掛かる。

「それでは白錵樣、貿易の数を増やしてはいかかでしょう?」

 そこで猿猴楓は助け船を出した。貿易の数を増やせば、必然的に金が入ってくる量も多くなる。白錵は顎に指を遣って、しばらく考え込んだ。

「ふむ、悪くない考えだね。アンタの髪は金だから、そういうことも思い付くんだろうか?」

 含んだ笑いを見せながら、白虎は問いかける。だが、これには答えなど必要ない。有り難く寵愛を受け取り、悠々と暮らしていければそれでいいのだ。無論、主のためになることはこの上ない幸せだが、猿猴楓は自分が一番重宝されていることを鼻にかけ、優越感に浸っていた。

「貿易の数はきちんと調整しなければなりません。増やしてもなお、ゆとりがあるようにしなければ――」

「黙れ、バカナス! わっちとて分かっておるわ!」

「……そうでしたか。失礼いたしました」

 いまとて、余計な横口を叩いて叱られている犬酸漿に、不憫で情けないと侮蔑していた。冷淡なハンターグリーンの瞳で、神に政治を唆す。それがひいては彼女のため、そして自分のためになるからだ。

「それではすぐにでも、星長を呼びつけましょう。宮殿の完成はお早いほうが宜しいでしょうから」

「おお、そうしてくれ。猿猴楓は良い仔だね。犬酸漿、会談の際は席を外しなさい」

「御意!」

「……御意の通りに」

 獣者は、主の意向に従わなければならない。それが寵愛であれ残酷な仕打ちであれ、受ける身は喜んで実行へ移すのみ。物扱いされることにも慣れている。

 白錵はにやにやと口の端を吊り上げ、これから金に埋もれることを思い描いた。うっとりと溜息を吐き、座している金の椅子、その肘掛けを撫でる。

「楽しみだね。氷深、アンタの金はわっちの物だよ」

 遠い星の玄武に、そう宣言する。鉱石が豊富に採れた北の土地は作物に乏しかった。遊星玄武は遊星白虎と距離が近いために、貿易を行っている。民間業者に神の護符を渡し、木の船で星渡りをするのだ。加護を受けた船は星間を浮遊し、幾重にも櫂を動かし空間を行き来していた。

 遊星白虎からの贈り物は、土地の恩恵を受けた農産物。対して遊星玄武からの贈答品は、険しい山々から切り出された鉱石の(たぐい)だった。不毛の地だが、皮肉なことに愛する(ぎょく)や金銀などが採れる。白錵も自身の星で何とか生産できないかと山を掘らせたが、茸や木の実が見つかるばかりであった。

 こちらには食うに困らないほどの糧がある。際限なく湧き出るのだから、いくらでも増やしても問題あるまい。獣者の言葉はただの進言であって、必ずしも聞くことはない。この女帝は、自らの意志で振舞うことを決めているのだった。

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