表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/54

白帝

 次に脚を付いたのは、黄金(こがね)が敷き詰められた広場であった。茂る紅葉(こうよう)はすべて金。茂っては落ち、落ちては茂りを繰り返しているようだ。少し肌寒い木枯らしが吹くが、先程の遊星玄武の比ではない。蛇結茨も動けるようで、人の姿に転変しては身体を慣らしていた。

 広場の左右には、遠いが商店が設けられ、眼前には一際輝く宮殿が見える。後ろには広場がただ長く続いていた。どうやらここは道だったらしい。落葉が敷いてあるので分からなかったが、脚で除けてみると黄土が現れる。

「朱雀御大とお見受けするが、いかがか?」

 不意に若い男性の声がして、火威は声の主を探す。羊蹄が守るように前に立ってくれたが、その腕の隙間から相手を確認できた。いつの間にか眼の前には、(さる)の尾を持つオレンジ色をした青年が出現していた。葉と同化しており気付きにくかったらしい。

 自身の獣者からは敵意の様子は感じられないが、それでも緊張は走っていた。恐らく向こうは白虎の獣者。先程のこともあるので、完全に気を許せる関係ではない。

「いかにも、こちらは允可を受けに参った朱雀の者である。そちらは白帝樣の獣者とお見受けするが――」

「確かに、我が名は猿猴楓(えんこうかえで)と申します。允可を受けに……、そうですか」

 猿猴楓は眼を伏せて、いくらか思案するようだったが、やがて白虎の元へ案内をすると申し出てくれた。顔立ちは蛇結茨に似ているが、目尻が吊り上がっているだけで印象が変わる。瞳の色は青葉のハンターグリーン。まさに木々に紛れるにふさわしい。大きい耳と長い尾だけが、人のものとはかけ離れている。

 長い道のりに耐えかねて、蛇結茨は気になることを、ひとつ訊いた。

「猿猴楓。白帝樣はいまだ、先代が立っていると聞いた」

「――やはり、お知りでしたか。その通りです。炎帝樣が允可を受けるに値するかは分かりかねますが……」

 猿猴楓は主を微少ながらも卑下し、悩むように細い眉を顰める。南の星にやっと次代が誕生したので、きっと、これよりは白帝も身を引いてくれるのではと薄く期待する。いつからあのように強欲になってしまったのか。それでも獣者は身をやつしてでも主を守らねばならない。咎めることもできない。助言は許されているが、絶対的な決定権は神にしかなかった。

 ――それよりもお早いところ、次代を……。

 猿猴楓は黄金の宮殿を仰ぎ見ると、届かない祈りを捧げる。社に帰れないことは、辛くはあるが苦ではない。それより何より、時が次へと変わらないことが居た(たま)れなかった。それは白帝に付く他の獣者も同じで、何度か進言してみたりもしたが、状況が変わったことはない。

 やっと允可に参ってくれた炎帝に、その小さな背中に、いまとなっては託すことしかできない。




 白虎の宮殿に臨むには、緩やかな坂道を登る必要があった。ひとつ高いところから女は下界を見下ろし、良い気分になる。その気高き笑顔で、やってくる来客に何を言ってやろうかと手薬煉(てぐすね)を引いていた。考えるだけで小気味良い。それは、小さな獲物を弄ぶ肉食動物の狡猾さに似ている。純粋に迎え入れる算段が、この女神にはないのだ。

 白金(プラチナ)の透き通る頭髪すら眩しいのに、全身に輝く金を纏った白虎は満足そうに椅子から立ち上がる。いままで座していたのは外を監視するためだけに拵えた展望台だ。そろそろ客間へ参らねばなるまいて。優雅に金の()を響かせながら、白帝白錵(べにえ)はクツクツと嗤った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ