第16話 制圧開始と仲間との出会い
体が風で出来ている天馬の翼と脚を持つ妖精『ぺガスス=シルフィード』。
体が炎で出来ている火蜥蜴の人型妖精『イグニス=サラマンダ』。
そして、中世の錬金術師のような衣装でメガネをかけた長髪の女性『香草の賢者アロマ』。
3枚のバトルヒロインが俺の目の前に現れる。
「アロマ、お前には味付けに使うスパイスを調合してもらった。あれは非常に美味しかった」
「光栄の至りですマスター」
「で、だ。スパイスが調合できるんなら、ゴニョゴニョゴニョも作れるんじゃないか」
「ゴニョゴニョゴニョ、ですか。可能だと思います。ということは、炎精霊と風精霊の力を借りるのですね」
「そうだ。これで相手がゴニョゴニョってる間にゴニョゴニョっとすれば、制圧は簡単なんじゃないかと思う」
「そうですね……、中々的確な戦略だと思います」
「よし、賢者のお墨付きだ。ジェネラルとか他の面々と細かい調整をしたら――乗り込むぞ」
☆☆☆☆☆
迷宮にも似た盗賊団の地下アジトは薄暗い。アチコチに照明はあるものの、所詮はかがり火程度であり太陽とは比べられない光量だ。しかしその、木や油を燃やしているのとは違う、炎とは違うその明かりが何なのか、どこから来ているのか、下っ端連中には分からない。
このアジトの入り組んだ迷路は、外敵は迷わせるが内部の者は迷わないという都合のいい仕組みである。
そんなカードから現れた超常に、すっかりならされてしまっている。
「――なぁ、なんか変な臭いしねぇ?」
「ああ? そうか? どっちかっつーとオレァ、足元がスース―する気が……」
突如として眼球と鼻と喉の奥に激痛が走ったのは、とある見張りがそんな会話を交わした時だった。
「ゲホッ! ゴホッ! 何だこれ!」
「け、煙!? 火事か!?」
などと言っている余裕がどんどんなくなっていく。顔の表面から奥まで全てが痛く、涙や汗といった顔から出るものが全部出てた。
視界が煙に覆われて何も見えない――ということすら分からない。なんせ後から後から涙があふれ出て、眼球を針で刺されているような刺激が永続しているのだから。
咳き込めば咳き込むほど喉が痛むのだが、止めたくとも咳を止められない。生理現象なのだから当然だ。息が出来ないと思うほどに咳が出て、実際にどんどん意識が遠のいていくのだ。
そして最後には、この自分の咳なのか他の奴の咳なのかも分からないまま、盗賊団の下っ端は気絶した。
同じ現象が、地下迷宮内の全ての人員の下で起きていた。
☆☆☆☆☆
「よーし食え食え、もっと食えー」
「あぐあぐ」
俺は今、香草の賢者アロマが調合し固めた“催涙の香木”を、『イグニス=サラマンダ』の口に詰め込んでいた。暖炉に炭をツッコんでいる気分だ。
「ぷう―――っ!」
そして彼女は口から、燃えたぎる腹の中でぐつぐつ燻された煙を吐き出した。
アロマから絶対に吸ってはいけないと忠告された、粘膜に刺激を与えまくる真っ赤な催涙煙だ。
唐辛子のように赤い煙は『風精霊』が余すことなく回収し、彼女の背中の天馬の翼に吸収される。
その後、渦巻く風によって構成されている天馬の翼が羽ばたくだけで、洞穴内に催涙の煙が注がれていった。
外で洞穴の入口を守っていた連中は、不意打ちで『風精霊』が全員やっつけた。
空気を操れる彼女なら、真空の壁を作って囲み、音を漏れなくした上で酸素を奪い失神させられる。下っ端連中は音もなく、なんとか召喚したカードに指示すら出せずに倒れていった。
「『シルフィード』、間違えても牢屋の部屋に催涙ガスを流さないでくださいね。そちらには、この香油の香りを届けてください」
「分かっておりますとも」
風精霊のコントロールは恐ろしいほどに繊細だ。アロマが調合したもう一つの作品、睡眠草の花粉と甘い蜜を揮発油に溶かした、眠りと安らぎをもたらす香りを催涙ガスと分けて届けられる。さらわれた女性たちにのみ届き、リラックスしてもらえるように。
「今回の作戦において避けたいのは、先ほどのように人質をとられることであります。では、それを防ぐにはどうするか。——人質になり得る者たちから意識を奪い、彼女らを連れ歩けなくさせれることは、一つの抑制する手段になるでしょう。自力で動いてくれない人質は、邪魔な荷物そのものでありますから。人質の近くにいる盗賊さえ無力化すれば、あとは遠方にいる“バリアーに守られ催涙ガスが効かない”デッキホルダーを、総司令官殿と共に打ち倒だけであります」
「そしてその“でっきほるだー”が地下の奥にいることは、2枚の人達が調べてある……で、いいんですよね」
「うむ、よく理解しているである」
戦姫将軍がヨルルへの説明で言っていることが大体である。
これが、俺が立案した作戦だった。
ちなみに彼女が言う“2枚の人達”とは、過労死させるようで悪いがもう一度出張ってもらっている、『クノイチ』と『大怪盗』のことだ。
「一部捕捉すると、諜報員コンビの情報によるとデッキホルダーはあと1人しかいないらしい。だから2人に1人を監視してもらっている状態だ。連絡は、大気を操る『風精霊』を通せば声が届くからそれで問題ない」
「じゃあ後は、アーサーさんが相手を倒すだけ……なんですね」
「そう、大正解。さらわれた人は一カ所に押し込まれてるみたいだから、『眷属』に変えたカードとデッキから何枚かを使って二手に――」
「おい、アンタ」
それは突然のことだった。
崖の洞穴の入口でたむろする俺たちの上から、俺たちに声をかけるものが現れたのだ。
「手を組まないか」
見上げるとそこには、異様に眼付きの悪い若い男子がいた。高校生か大学生だろう。
彼は水で出来た縄のようなものを体に巻き付け、それを吸盤のようにはっつけて崖から降りていた。
しかし何よりも着目すべきは、その男子の衣服である。
上半身は黒い長そでのTシャツ。下半身はジーンズを履いており、その靴は運動靴だ。
ヨルルや村人の衣装とはまるで違う、ほんの数日とは言え懐かしさを感じる衣服。
「なんでガンマンが《バトルヒロイン》を引き連れてるんだと思ったが、よく見たら分かった。——その格好、コスプレだな?」
「分かり易くヒントをくれてありがとう。と、ここは返しておこう。おかげで確信を持てた」
そして、崖から降り立った彼の指には、俺が嵌めているのと同じ指輪があった。
つまりは『賢者の石』だ。
「お前も1人のカードバトラーということだな」
「そうだ。アンタと同じでな」
「よし、なら手を組もう。仲良くしようじゃないか」
俺は彼に握手を求める。
「話が早いな……いや、こっちも急いでるからありがたいんだが」
向こうもそれに応じてくれた。
「大神 陸だ。盗賊に攫われた恩人を助けたい」
「俺は内藤 朝太郎。名字も名前も嫌いなんで、あだ名でアーサーと呼んでくれ。ちょうど人手が足りなかったところだ」
「あ、あの、アーサーさん……」
「なんだヨルル」
「そんなにアッサリ信用していいんですか? さっき騙されたばっかりなのに……」
「騙された?……何かあったのか?」
「うん、まぁ、盗賊団にビビった村人にちょっと売られた。何とかしたから問題ないんだけどね」
「……それは気の毒な……」
「ヨルル、この人多分いい人。信用できる」
「アーサーさんは判定が甘すぎです! ちょっと同情されただけじゃないですか! 人をだます人は、どんないい人よりもいい人に見えるものなんですよ!」
「――なら、俺は信用してもらうためにどうすればいい? こうやって話してる時間が惜しい。何でもやる。早くしてくれ」
「ん? 今なんでもするって言った? なら手っ取り早い方法がある」
どこか焦りを覚えているらしい彼に、俺はデッキから取り出した1枚のカードを見せた。
「『混沌の魔女スキュラ』。彼女の混沌魔法は脳をくちゅくちゅっといじれるから、そこから記憶を読み取れば万能嘘発見器の出来上がりだ」
「——分かった、やってくれ」
「え、マジで? 心を無理やり覗かれるとか、死刑より死刑な残酷刑だと思うんだけど。ホントにマジで? ——そこまでして助けに行きたいって……Love♡ってこと?」
「そうだよ! アンタの言う通りだよ! だから焦ってるんだよ! お淑やかに見えて芯が強いタフそうな人だけど、手遅れになったらどうなるかワッカンネーからな! あと手でハートマークを作るな絶妙に腹立つ!」
「あいあい。――じゃあスキュラ、今までの言葉が本当かどうか、必要最低限の情報だけ読み取って教えてくれ」
オーガミの覚悟に応えるため、俺は『スキュラ』のカードを彼に向けた。するとカードから黒い粘液があふれ出して、彼の頭の中に向かって両耳から侵入していく。
「ンびゅっ!? ぴきッ!?」
そして口からはヤバげな音が漏れて、異様に悪い目つきがぼやけたものに変わった。
ぐちょぐちょと、地獄の釜で脳みそをかき混ぜているような気味が悪い音が響く。
(「マスたァ~。彼、ま~ッタく嘘を吐いテマせんでしたヨ」)
「よし、これで君は信用に足る人物であることが確定した。まずは情報を提供しようか」
「——よろしく頼む」
「なぁに、君はこの世界で出会った最初の同志だ。悪いようにはしない」
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