第10話 カチコメ!婦女子奪還計画!
ボーノ村に滞在してから3日が経った。手紙を運んでくれる、飛脚にあたる仕事の人がまだ来ないため、未だに連絡を送れてすらいない。
そんな状況で俺は、実体化させたスペルカード『賢者の石』の指輪をはめたまま、カードとデッキの確認に勤しんでいた。
今は脳内の仮想敵相手にカードをまわし、デッキ構築について考えている。元々持っていたカードや盗賊から没収したカードを眷属化させた、新しい《バトルヒロイン》を入れられるかどうかの熟考だ。
「――おかしい」
その上で奇妙なことがあった。
異常に勝率が高いのだ。
俺のデッキは、むろん俺なりに真剣に作ったものではあるが、《バトルヒロイン》を主軸に置いたハイランダーデッキ。同名カード、つまりは同じ効果を持つカードを一枚ずつしか入れない構築である。(一応、相互互換という「名前以外、効果や攻撃力といったゲーム要素がまったく同じカード」もあるが、俺のデッキには入ってない)
対する仮想敵としたデッキは、手元にはない俺が所有していたデッキだったり(始めたばかりでもない限り、TCGをやっていてデッキを一個しか持ってない奴はまずいない)、有名なガチデッキ(大会などにおいて、最も勝つ可能性が高くなるよう構築されたデッキのこと)だ。
ハッキリ言って、俺の《バトルヒロイン》ファンデッキはそういったガチデッキには不利だ。
けっして勝てない訳じゃない。
うまくハマれば、どんなデッキにも勝てる。
それが俺のデッキ最大の魅力だ。
サーチカードでメタカード(特定のデッキ、カードに対抗できるカード)を持ってくる銀の弾丸戦略には、ハイランダーデッキの強みである最大種類のカードを使えるからこその爆発力があり、そこから生まれる戦略の多様性こそ愛用している一番の理由だ。
ただ、その代わり安定性に欠ける。
なんせどのカードも一枚しか入ってないのだ。サーチカードが引けなければ負けるし、引いてもその一枚で状況を変えられなければ負ける。
安定性と対応力を高め、常勝無敗を目的とするデッキであるからこそ「ガチデッキ」と呼ばれるのだから、それもまた当然。
つまり俺のデッキは、欲しい時に欲しいカードが都合よく来てくれれば、かなり優位に立ちまわれるということ。
ガチデッキ相手でも完封まで可能ということ。
その、“欲しい時に欲しいカードが来てくれる場面”が異常に多いのだ。
「10回に1回勝てばいい方な相手にも、6割ぐらいで勝ててる。想像の中でやってるから向こうの動きも最強最速なのに、それでも喰らいつけてる。まるでディスティニードローだな、こりゃ」
「《実際、この世界ではそれに類似した現象が起きているようです。おそらくイマジネーションの力、すなわち思い入れと呼べるものがカードを引き寄せるのでしょう》」
「俺もカードも当然デッキも、全てイマジネーションの精神エネルギーで構成されているからか」
「《YES。数値化できませんので断言することは無理ですが、思い入れが強ければ強いほど磁石のように引かれ合うようです。もっと言えば、虚構と現実の性質を併せ持つこの世界では、デッキは紙束であって紙束でない。つまり、引いたカードと引く前のカードが違っていたとしても、デッキトップが伏せられていれば我々は観測できないということ。ここは情報が実体を得た世界。デッキという山札もまた、実体でありながら定型を持たない情報》」
「パソコンとかスマホでやるカードゲームみたいなもんか。画面に現れるまで、そのカードが予め出るはずだったカードとは限らない。紙のカードならデッキにした時点で並び順は決まってるが、データのデッキであれば観測する前であればデッキの中で情報が動くこともあり得ると」
「《YES。この世界のデッキは、紙であって紙ではないもの。イマジネーションのエネルギーによって構築されたデータが形をとったものになります》」
「だから俺の思い入れ、意志のイマジネーションの力が欲しいカードを引き寄せる。つまり俺の手にあるのは、カードの形をした空想でもある」
「《その通りです。この世界のカードは折れない切れない燃やせない。同じイマジネーションのエネルギーによって構築されたもの同士、つまりカードバトルでなければ破壊できません》」
「なるほどな」
「……何の話をしてるのかよくわかりません」
ポカンとしているヨルルの横でそんな話をしていると、外がガヤガヤ騒がしくなるのが聞こえた。村の若衆が大挙して押し寄せたのは、ちょうどそんな時だった。
☆☆☆☆☆
「力を貸して欲しい?」
「はい」
話の概要はこうだ。
盗賊団によって貢ぎ物代わりに若い女性が拐われた。
だからその救出に手を貸してほしい。
実にシンプルな話だ。
言われてみれば確かに、この村ではヨルルと村長の奥さん以外の女性を見ていない。あとは子供ばかりだ。
「……それは申し訳なかった。俺はかなり鈍い方でな。状況を察することができず、本当に申し訳ない」
「それでは行くのですね、主殿」
「もちろんだバレット。俺はお前たちバトルヒロインの所有者にしてマスター。設定上とはいえ“正義のヒロイン”の力を借りてる身として、このような事態は見逃せない。冤罪でないのなら、女性に不埒な行いをする男は取り敢えずぶちのめす」
「確かに所詮は一枚のカードであるとはいえ、私としましても女の敵を放置したくありません」
「いやいやバレット。そこで女の敵と表現するのは男女差別も甚だしいぜ。目の前の男性陣を見なさい。彼らがなぜここにいるのかを考えれば、女性の敵というのは不適切と言わざるを得ない。ここは人類の敵と言うべきだ。隣人が理不尽にさらされる憤りに男女差などなかろうさ」
「ハッ!承知しました! 配慮が足りず申し訳ありません」
まあ、女という概念がある種ご都合的な感じに形を持ったのが《バトルヒロイン》だ。こいつら良くも悪くもキャラクターだし、人間と言い切っていいかも分からない。つまり実際の女性とは同じなはずがない。そこだけは勘違いしないようにしなきゃな。
「で、では……」
「ああ、助けよう。もしも俺の《バトルヒロイン》が傷つけられたらと想像すれば、それだけで腹わたが煮えくり返る。あなた方の怒りは鈍感なりに察っせるし、理解もできる」
俺のバトルヒロインが辱められたら。
一瞬でブチ切れる。ただでは許さん。
「……よっしゃ行くぞ! カチコミじゃあ!」
バトルヒロインの主として、ここで指をくわえて待つことはできん。
玄関を通ることすら忘れて、俺は窓から飛び出す。
「あの、主殿!?」
そして寸前のところで首根っこをバレットに掴まれた。
「離せバレット! 村人の無念と攫われた女性たちに対する理不尽を思えば、ここで止まるわけにはいかんのだ!」
デッキから《バトルヒロイン》たちの声が聞こえてくる。
(そうだ!やっちまえ!)
と。
(メッタメタのギッタギタにしてやれ!)
と。
「いえ、ここで功を焦ってはいけません!! だいたい貴方は素人なんです! 救出作戦を成功させるためにも、ここは専門家に意見を仰ぐべきで……」
「フンが―――!!!」
「というか、お前たちもデッキから主殿に干渉するな! 怒りは察して余りあるが、かと言って焚きつけるんじゃない! いつもならこんな風にはならんぞ!!」
☆☆☆☆
一旦落ち着きを取り戻してから俺は、デッキからこの状況に見合ったファミリアを召喚する。
すなわち軍師だ。ここは素直に、戦略・戦術・策謀に長けたキャラクターを頼ることにしよう。
「召喚!『《バトルヒロイン》ー戦姫将軍・The・アイアンレッド』!」
その烈火のごとく赤い軍服に身を包んだ女傑は、魔法陣から放たれる召喚の光が消えるより先に敬礼を終えていた。
鋭い眼光の宿る精錬された表情が、真っ直ぐにこちらを見据えている。
背後にきびきびというオノマトペが見える《バトルヒロイン》だ。
「総司令官殿、我輩は余計な問答をするつもりはないであります。早急に指令を出していただきたい」
「そう? なら状況説明を――」
「既にデッキの中で聞いておりました。必要ないであります。貴方はただ、やれと一言命令すればいい。我輩はそれを実行に移すまでであります」
「話がはっやいなぁ。なら命令するぞ。盗賊団に攫われた女性たちを奪還したい。どうすればいいか教えて」
「まずは情報収集から行うべきであります。敵の数、敵の布陣、所有するカードの種類と枚数。そして救出対象の居場所。知れば知るほど有利になり、逆に知らなければ負けもあり得るであります。そして我輩は負け戦を行うつもりはないであります。戦う以上は必ず勝つべきであり、勝てないのであればそもそも戦うべきではない」
「なるほどなるほど。しかし助けるなら早く助けたほうがいいと思うんだが……」
「お言葉ですが、ならば総司令官殿。婦人方が攫われてから幾日が経ったのでありますか」
「………」
その辺りは聞いてなかった。
「おーい、助けに行く人たちが攫われたのっていつー?」
「妻が攫われてから、眠れぬ夜が15回訪れました。頭に刻みつけるように数えていましたから間違いありません」
「だ、そうだ」
「――了解しました。では総司令官殿、作戦をお伝えしたいので場所を変えさせていただきたいであります」
そして俺は、戦姫将軍とバレットと共に誰もいない村外れへと移動した。
「眠れぬ夜が15回。すなわち我々の尺度でおよそ2週間。なれば総司令官殿、1日2日のズレは誤差の範囲であります。ここは他の《バトルヒロイン》を指揮し、一度念入りに情報収集を行ってから行動すべきかと。――それが一番合理的であります」
「ふぅむ……。一番、合理的なのか……」
「はい。救出するには我々の勝利が絶対条件であります。盗賊団を叩き潰すしかない。しかしそれが出来ないのであれば、そもそも手を出すべきではない。少なくとも半日は準備に時間を費やすべきであります」
「――了解した。お前がそういうんだったらそうなんだろ」
「信頼していただけて恐縮であります」
「……なるべく早く作戦を立ててくれ。信頼してる」
「お任せください!」
その敬礼は、びしりと空気が引き締まるかのような凛々しい敬礼であった。
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