第7話【作戦決行の報せ】
「地上を彷徨う天魔を駆逐せんと立ち上がった我が同胞よ、反撃の時はついにきた」
その日、アルカディア奪還軍から発せられた声明は【閉ざされた理想郷】全体に響き渡るほどのものだった。
食事中だったある者は何事かと天蓋を見上げ、またある者は仕事の手を止めて窓の外を見やる。ある者は急いで外に出て、たまたま近くにいた人に「どうかしたのか」と問いかけて、そこから話が発展していく。
少なくとも、その声明は【閉ざされた理想郷】を揺り動かすほどの衝撃だった。
「我らはこれより、天魔を相手に戦争をする。よって、これは宣戦布告の代わりとさせてもらう」
影響を及ぼしたのは【閉ざされた理想郷】に住まう人々だけではなく、アルカディア奪還軍に所属する天魔憑きたちにも届いた。
たまたま大衆食堂に食事を取りにきていた少年兵は朗々と流れる言葉に耳を傾けて、激安の家賃で借り受けた部屋でぐーすかと眠りこけていたどこぞの馬鹿はその声が目覚ましとなって叩き起こされて、本部である大衆食堂に向かおうとしていた兵士は天蓋に響き渡る声に顔を顰め、ちょうど任務を終えて帰ってきた兵士は途中から聞くこととなった演説に首を傾げる。
「モグラのような生活にうんざりした者も、地上を彷徨う天魔に家族や恋人を殺されて恨みを持つ者も大勢いるだろう。いつまでも結果を出さずにいる我ら奪還軍に対して、怒りを抱く者もいるだろう。これまでの地下生活に終止符を打ち、王都アルカディアの奪還をもってあの忌まわしき怪物どもに叛逆しよう」
それは、全ての人類を揺り動かす言葉となり。
それは、全ての天魔憑きを奮い立たせる激励となる。
「――――さあ、勝鬨を上げよう」
割れんばかりの歓声が【閉ざされた理想郷】を包み込み、それらに混じるように雄叫びがこだまする。
わあわあという大合唱によって完全に寝る気を失せた最強と名高い天魔憑きは、自室の天井を振り仰いで叫んだ。
「うるせえッ!!」
☆
「嫌がらせだよ、完全に嫌がらせだよ。何時だと思ってんの? 朝の六時にあんな演説してんじゃねえよ頭痛いわボケ」
「いやいや、朝の六時ってすごーく健康的な時間帯だよぉ? お前さんなにぐーすか寝てるのよ。普通の人は起きて朝ご飯食べてるよぉ?」
「うるせえぞエド、俺はそこらへんの勤勉な野郎どもとは違うんだよ。朝はぐーすか寝てたいの、そして適当に天魔を駆除して適当に報告して適当に生活したいの」
「屑だねぇ。超美人なのに、そして誰もが認める最強なのに、発言がどこまでいっても屑だねぇ。見た目に騙されてお前さんに入れ込んだ野郎どもが本当に可哀想に思えてくるよねぇ」
朝っぱらから【閉ざされた理想郷】全体に向けて行われた演説によって叩き起こされたユフィーリアは、二度寝する気力をなくして仕方なしに奪還軍本部へ出勤したのだった。ちょうど朝食の最中だった旧知の仲であるエドワードと席を共にし、上記のような愚痴を吐き出した次第である。
寝癖の目立つ銀髪を乱暴に掻き毟り、ユフィーリアは眠気のせいで重くなる瞼をこすった。別に自分に入れ込んだ野郎どもなど知ったことではない。何故ならユフィーリアの心は男のままであり、趣味嗜好も男のままの状態だ。女の姿でありながら、同性に興奮するのである。イエス、それが健全な男の子というものだ!
銀髪碧眼、人形みたいな美しい顔立ちをした絶世の美女らしかぬ大欠伸をして、ユフィーリアは瞳に滲んだ生理的な涙を乱雑に外套の袖で拭った。健康的な時間帯に起きてしまったので非常に眠い。そして待機時間ほど退屈なものはない。
「家に帰って寝てえ……」
「どうせ帰ったところでまた叩き起こされるに決まってるでしょぉ。中庭で寝てくればぁ?」
「あんな硬いところで寝られるかってんだ。せめて枕よこせ」
「俺ちゃんに膝枕しろって? 仕方ねえなぁこの最強様は。俺ちゃんの太腿は安くないよぉ?」
「エド、顔面を蜂の巣にされたくなけりゃ数秒前の発言を謝罪しろ今すぐに」
静かに拳を構えて脅しをかけるユフィーリア。その発言に冗談のじの文字すら入っていないことに気づいたエドワードは、引き攣った笑みを浮かべて「ごめんごめん」と軽い調子で謝った。
だがしかし、膝枕というものは大変捨てがたい。中庭に唯一置かれているベンチは硬くて寝られたものではないが、膝枕という魅惑のブツがあれば安眠が期待できるかもしれない。それが女の子だったら頭をナデナデしてもらうというおまけまでついてくるのではなかろうか?
クワッ!! とユフィーリアは碧眼を見開いた。そうだ、それがいい。膝枕というものは実に妙案である。
試しに膝枕が期待できる女の子を、と大衆食堂内をぐるりと見渡してみるが、どいつもこいつも男ばかりである。それもそのはず、天魔憑きは男の割合が非常に多いのだ。むさ苦しいことこの上ない。天魔の性別に左右されてしまった天魔憑きなんて、ユフィーリアぐらいのものである。
「泣きてえ……なんで天魔憑きは野郎ばっかりなんだよ。ロマンスのカケラもねえよ」
「職場恋愛なんていいことないよぉ。こんな殺伐とした職場に恋愛イベントなんて期待したら、お相手が帰ってこなくなった時に絶望するでしょぉ?」
「嫌なこと言うなァ」
事実その通りなのだが、改めて言われると非常に傷つくというかなんというか。
命を懸けた仕事をしている故に、色恋沙汰からどんどん遠くなっていくことには自覚している。かといって、職場で恋愛を発展させることなどあり得ない。下手に将来を誓い合って、いざ戦地に出たら相手が帰ってこなかったという身を裂かれるような絶望を味わうことになる。
エドワードは分厚いベーコン……と銘打った天魔の肉を口に放り込みながら、
「とはいえねぇ、俺ちゃんたちも永遠に生き続けるとは言ってもねぇ。三大欲求まで捨てた訳じゃないしねぇ」
「そう!! そうなんだよ!! 食欲、性欲、睡眠欲は人間やめたとしてもある訳だよ!!」
モゴモゴと肉を咀嚼するエドワードの言葉に、ユフィーリアは大いに同意を示した。
天魔と契約をし、永遠の時間を手に入れた天魔憑きとはいえ、その精神状態が変わる訳ではない。腹が減ったら食事をし、眠くなったら眠り、子供を成し、娯楽に興じる。そういったかつて人間だった時と同じ感情は、天魔憑きであれ持ち合わせているのだ。
そんな訳で、ユフィーリアが銀髪碧眼の美人になったとしても可愛い女の子は視線で追いかけてしまうし、どうせだったらエッチなことをしたいと思ってしまうのも事実である。
まあ、それが『職場に野郎が多い』ということとは大いに関係ない訳だが。
「そんなこと言うんだったら、お前さんの相棒君に頼んだらどうなのよぉ。北戦線の話、大活躍だったって聞いたんだけどぉ?」
「あー……」
銀髪をガシガシと掻いたユフィーリアは、大衆食堂の隅を振り返る。
そこには大量の皿を積み重ねて、今もなおフレンチトーストを頬張り続ける黒髪の少年がいた。あの山となった皿は今まで完食したフレンチトーストだと思うと、一種類のメニューをあれだけ黙々と食べ続けることができるなんていっそ尊敬の念すら浮かんでくる。
ショウ・アズマ――ユフィーリアと同じ部隊『第零遊撃隊』に所属することとなった少年兵である。実際、第零遊撃隊はユフィーリアとショウの二人だけの部隊となるので、相棒同士と言えるだろうが。
命令と言えばどんなことでも従ってしまう、まさに空っぽで人形のような少年。自分の意思すら持たない性格で、空っぽと揶揄されることすら『あだ名のようなもの』と片付けるほどだ。多分ユフィーリアが命令すればきっと彼はナデナデも合わせて実行してくれるだろうが、命令では意味がないのだ。ユフィーリアとて無理やりやらせて喜ぶなんて趣味は持ち合わせていない。
エドワードが「どうよぉ?」と答えを促してくるので、ユフィーリアは改めてエドワードへ向き直って首を横に振った。
「却下」
「あららぁ? やっぱり空っぽ君はダメかねぇ?」
「無理やりやらせるんじゃなくて、しょうがない感じで撫でてもらいたい。お母さんみたいな」
「マザコンは嫌われる要素よぉ?」
「うるせえぞ。母親なんぞ知らんわボケ。生まれたら空からバケモン降ってきてんだぞこっちは」
机に突っ伏して吐き捨てるユフィーリアは、深々とため息を吐いて「もうここでいいわ」などと呟く。膝枕は諦め、机の上に突っ伏して眠るという一般的な居眠り姿勢を取ることにしたようだった。
エドワードが「頭ナデナデしてあげるよぉ?」などと言ってユフィーリアの後頭部を軽く撫でてきたが、乱暴に振り払った。野郎の手などいらんのである。
大衆食堂を包み込むガヤガヤとした喧騒を子守唄の代わりにして、ユフィーリアは眠気に身を任せてうとうとと微睡み始める。次第に意識が遠のいていき、そのままぐっすりと――しようとしたところで、何者かが再び後頭部を撫でてきた。
またエドワードの野郎か、とも思ったが手つきがどうも違う。ぎこちなさが残り、しかしどこか優しい手つきである。例えば眠る猛獣を――いや、あまり懐かない猫が寝ている隙に撫でてくる飼い主のような感覚だろうか。
まさか――まさかショウか?
微睡んでいたユフィーリアの意識が引き上げられ、瞬時に後頭部を撫でる手を掴んだ。なんとか逃げようと強めに引かれる腕を剛腕でねじ伏せて、ユフィーリアはパッと顔を上げる。
「やーん、熱烈ゥ♪」
そこには、ぶりっ子ポーズで笑うカボチャ頭がいた。
ユフィーリアのこめかみに痛みが走ると同時に、怒りに似た衝動が体の底から湧き上がってくる。その衝動に身を任せてこのカボチャ頭を殴りつけてやりたいところだが、多分相手はユフィーリアのこの感情を見抜いているに違いないので我慢した。理性で殴りたいと訴えかけてくる本能を押さえつけ、静かにゆっくりと問いかける。
「…………なにしてんだ、アイゼ」
「頭ナデナデしてあげてタ♪」
戯けた調子で笑うカボチャ頭にユフィーリアの頭痛がさらに酷くなるが、今の状態でまともに相手をしても多分頭痛の種を増やすだけだ。
橙色のカボチャの被り物は秋の収穫祭でよく見かけるものであり、きちんと目と鼻と口元はくり抜かれている仕様となっている。カボチャの被り物の下から流れる髪の毛は長く、膝裏にまで届くほどであり、さらにその色は目に優しくない蛍光色となかなか奇天烈な印象である。髪色やカボチャの被り物だけでも十分ふざけた装いなのに、なんと彼が身につけているものは賭博場で見かけるディーラーの制服だった。すらりとした長身に確かに似合っているのだが、戦う集団に身を置く者としては不適当だと言えようか。
磨き抜かれた革靴を軽快に踏み鳴らし、軽やかにステップを踏みながら椅子に座った愉快なカボチャ頭にパラパラと拍手が起きる。なにがそんなによかったのか、どこに拍手する要素があったのかちょっと小一時間ぐらい語り合いたいところである。
「風の噂で聞いたんだけド♪ ユーリ、空っぽ君と組むことになったんだってナ♪ 愉快な話じゃねーカ♪」
「アイゼ、それ以上喋るとお前のすっぴんを大公開するぞ」
唸るように威嚇すると、カボチャ頭はわざとらしく肩を竦めて「やだネ♪ 冗談がまるで通じなイ♪」と呆れて見せた。いちいち芝居がかった奴である。
彼の名はアイゼルネ――本名かどうかは、ユフィーリアも知らない。ただ、昔馴染みの一人であると認識した時から彼は『アイゼルネ』と名乗っていた。昔馴染みであるにもかかわらず、彼の出身も家族構成もなに一つ知らないのだ。
とはいえ、全てを明かしてしまえば彼の面白みがなくなってしまうのも事実である。聞かない方がいい真実も、この世には存在するのだ。
ショウに撫でられたのではないかとちょっとばかり期待した反面、アイゼルネでよかったと思ってしまったユフィーリアである。もし本当にショウに頭を撫でられてたらどう反応していいのか分からなくなる。
「つーか、アイゼ。お前今までどこでなにをしてたんだよ。しばらく見なかったけど」
「お仕事♪」
「それは知ってるよ。なんの仕事だって聞いてんだよ」
これだけ目立つ格好をしているアイゼルネをユフィーリアが見落とすということは、天地がひっくり返ってもあり得ない。人混みの中に紛れ込んでも、このカボチャ頭は一発でアイゼルネだと判断できる自信がある。
ただでさえ人の記憶から忘れられないような強い印象を残す姿をしているアイゼルネを、ここしばらく見かけなかったのだ。おそらく地上でセコセコと働いているのだろうとは思ったが、その内容までは判明していない。
アイゼルネはギコギコと椅子を軋ませながら、
「王都に張ってタ♪」
「潜入かい? うわあ、王都なんて天魔がたくさんいそうなのにねぇ」
「いんヤ♪ 逆だ、逆♪ 天魔が全くいねーノ♪」
天魔が全くいない?
その一言でユフィーリアの思考回路はがらりと切り替わり、机の上でだらけた状態だった体を起こす。エドワードも部隊を率いる隊長としての顔つきになり、二人してアイゼルネへと詰め寄った。
「なにそれ、どういう状況だよ」
「そこんとこ詳しく」
「一緒に見てた最高総司令官殿は知ってるけどナ♪ 今の王都は――正確には壁の内側は天魔が一体たりとも存在してねエ♪ どーも天魔が寄りつかねー仕組みがあるらしくてナ♪ なにがあったのか調べるのは割と簡単だっタ♪」
普段はふざけているものの、今だけは真面目にアイゼルネの話に耳を傾ける二人。真面目な雰囲気に当てられたのか、戯けた口調はそのままにアイゼルネもまた声を潜めて話し始める。
「王宮に馬鹿みてーにでかい天魔がいやがっタ♪ アイツ様はマジでやばイ♪ オレ様の勘が告げてるネ♪」
「馬鹿みてえに」
「でかい天魔?」
ユフィーリアは柳眉を寄せて、エドワードは不思議そうに首を傾げる。
馬鹿みたいに巨大な天魔ならば、ユフィーリアとて何度も戦場で見たことがある。一つ目の巨人なんかは馬鹿みたいにでかい天魔と言えようか。幾度となく首を吹っ飛ばし、上半身と下半身で分断し、臓物を撒き散らして遊んだか数え切れないほどだ。
そんな天魔のどこがやばいと言えるのだろうか。
「オレ様は王宮には近づけなかったけどナ♪ ただ窓から見える限りじゃ相当な大きさだゼ♪」
「なるほどなァ。難敵ほど燃える相手はねえ」
「滾るねぇ。久々に走り回れちゃうかもねぇ」
自然と吊り上がる口元を隠しもせずに、ユフィーリアはまだ見ぬ難敵に想いを馳せた。気分はデートを目前にした恋する乙女である。
しかし、アイゼルネの気分は晴れずにいた。戯けた調子ではあるものの、どこか硬さを残す声で「ユーリ♪ エド♪」とそれぞれ二人の名前を口にする。
「本当に気をつけろヨ♪ 今までの雑魚とは違って、今度の相手は本気でやばイ♪ だから心してかかってくれヨ♪ オレ様が言えるのはこれぐらいダ♪」
「……………………」
「……………………」
いつになく真剣な様子で言ってくるアイゼルネに、ユフィーリアとエドワードもふざける場合ではないことを感じ取った。
こんな馬鹿みたいな格好をしているが、アイゼルネは意外と頭が切れる方だ。記憶力もいいし、戦術の理解も一番早い。自分がなにをすればいいのか、役割もきちんと受け入れている。『自分のできる範囲で、しかし最大限の努力は惜しまず』が彼の掲げるモットーである。
ユフィーリアとエドワードは互いに顔を見合わせて、それから二人揃って不敵に笑った。
「当たり前だろ。誰がこんな初っ端から死ぬかってんだ」
「現場担当を甘く見てもらっちゃ困るねぇ」
「誰もテメェ様らを甘く見てるなんてことはねーだロ♪」
それもそうか、と三人で笑い合う。先ほどまでの深刻な空気が嘘のようであり、またいつもの和やかな雰囲気が漂い始める。
――そのはずだったのだが。
「ユフィーリア・エイクトベル、なにをしている。召集がかかった、行くぞ」
横合いから唐突に凛とした声が飛んできたと思ったら、ぐわしッ!! と襟首を掴まれた。喉を急に圧迫されたことで呼吸が阻害され、思わず女らしかぬ「ぐへあッ!?」と変な声が出た。
容赦ない手つきで掴んできたのは、ユフィーリアの相棒たるショウ・アズマである。色鮮やかな赤い瞳には何の感情も浮かぶことはなく、さながら機械の瞳のようである。謝罪の雰囲気すらなければ、心配する様子もない。
「しょ、ショウ坊……てめ、おい、首が……俺の首になんか恨みでもあるのか……ッ!?」
「貴様の首に? 恨みなどないが、掴みやすい位置にあるのでな」
あっけらかんと言い放つショウは、ユフィーリアの襟首を掴んだままずるずると大衆食堂の外へ引きずっていく。召集がかかったと言うならまずは最高総司令官の執務室に行くのが順当だろうが、何故本部の外に出なければならないのか。
通行人の奇異な視線を一身に受けてもなお襟首を掴むことをやめないショウに、ユフィーリアは問いかける。
「ちょ、おい!? 一体どこ行く気だよ!! 普通は司令官の執務室だろ!?」
「貴様は先ほどの召集の内容を聞いていないのか?」
キョトンとした様子のショウは、唐突に歩みを止めた。ついでに手の力も緩んだので、その隙を見計らってユフィーリアは脱出する。危うく綺麗な花畑と小川が見えた。
遅れて、背後から「おーい」という呼び声が聞こえてきた。振り返るとアイゼルネを背負ったエドワードが大衆食堂から飛び出してきて、急いで朝食を口の中に詰め込んだせいか、頬袋いっぱいに餌を溜め込んだリスのようになってしまっている。背負われているアイゼルネはケタケタと壊れたように笑って、エドワードの頭頂部で揺れる狼の耳を掴もうとしていた。
もっちゃもっちゃと口の中のものを行儀悪く咀嚼してから飲み込んだエドワードは、のんびりとした口調で「ちょっとぉ」と切り出す。
「いきなり出て行かないでよぉ。危うくお前さんの背中にドロップキックぶちかますところだったよぉ?」
「エド、それって俺も巻き込まれるパターンじゃね?」
ユフィーリアが指摘してやると、エドワードの銀灰色の瞳が明後日の方向を見上げた。この野郎、巻き込むことはやむなしということか。
しかし、クソ真面目なショウは謝罪すべきと感じ取ったらしく、素直に「すまなかった」と頭を下げた。
「大正門前に集合と命令があった」
「大正門? 開かずの門に今更なんの用だってんだ」
ここ一〇〇年は開かないとされる、人類にとっての最後の壁である。地上と地下を繋ぐ出入り口である大正門の前に集合したところで、どのみち外に出るには狭い昇降機を使わなくてはならない訳だが。
きちんと召集の内容を聞いていなかったユフィーリア、エドワード、アイゼルネの三人は揃って首を傾げる。ただ事ではないというのは分かるのだが、もはや開かずの門と化している大正門の前に集合するとはこれ如何に。
しかし、疑問はショウの一言によってすぐさま解消された。
「王都アルカディアの奪還作戦を行うようだ」




