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召還社畜と魔法の豪邸  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
後日談 その3 終章のあと、ミランダがノアと再会するまでのお話
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その4

『ガララン、ガララン』


 木製の車輪が高速でまわり、大平原に音を響かせる。

 車輪の主である馬車に、ミランダ達は乗っていた。

 馬車は荒々しく大平原を疾走する。

 それを引くのはエルフ馬。

 耳を大きくはためかせ、慣れた道を飛ぶように駆けていく。


「わぁ!」


 馬車のヘリを手でグッと掴み、シェラが声をあげる。


「速い、速い!」


 シェラは先ほどから同じ事ばかり言っている。


「速いだろ?」


 エルフ馬の背に乗る女性が言った。

 背には二人の女性が前後に並んで乗っていた。声を上げたのは後に座った女性だった。

 彼女達はよく似ていた。顔も、着ている服も。

 その土地特有の姿、厚手で箱のような帽子を被り、リーダ達が見たら浴衣にそっくりというだろう服。

 遊牧民か。顔が似ている。双子なのかしら……二人の顔をボンヤリ眺め、ミランダは考える。

 そんな彼女の視線を感じたのか、後に座る女性が振り向いた。


「そうそう。言い忘れたけど、あたしがパエンティ」

「んでさ、あたしはサエンティさ」


 エルフ馬に乗った二人の女性が名乗る。


「そうね。なんだか勢いに押されて名前を聞き忘れていたわ」


 二人に答えながらミランダは、少し前の事を考えた。

 この馬車に乗るきっかけを。


 ――ようやく外に出ることができたわね。


 クロイトス一族の保管庫から出た3人はシェラの故郷を目指すことにした。


「故郷の場所はわかっている。問題ないわ、行きましょう」


 外へ出るなりミランダは言い、二人の子供は頷く。

 シェラの故郷を簡単に言い当てたミランダを二人は信用していた。

 それは洞窟をでるまでの道すがらの事だ。

 事のはじまりはシェラの話とジムニの話からだった。二人の話を聞いたミランダが、手の平に氷の彫像を作って言った。


「お前の故郷はイクゥアのようね。ベアルド王国の端にある砂漠のオアシスにある街。こんな形をした大きな椰子の木がある街でしょ?」

「すごい、すごいすごい。師匠、すごい。うん、それがあるよ。ゴロンとね、寝っ転がらないと、上が見えないよ」


 シェラは手をパチンパチンと大きく叩く。


「なんで知ってんだよ?」


 一方のジムニは眉間に皺を寄せる。


「師匠は、けっこう何でも知っているものなのよ」


 そんな彼の額をつつき、ミランダが楽しげに言った。


「すごいね師匠」


 訝しげなジムニに、シェラが囁く。

 その時の二人は、本当にミランダに驚いていた。

 だけど驚きはまだまだ続く。次の驚きは外に出たときだった。

 それは空の姿。


「天の蓋が無い!」


 ジムニがあたりに響き渡る大声をあげた。


「言ったでしょう。もう、お前達は呪い子では無いって」

「師匠、白い鳥! 大っきな白い鳥」


 それから空を切り裂くように飛ぶ白い鳥をシェラが見つけた。何も無い青空に飛んで、遙か先の地面に降りていった鳥を。


「あれは白孔雀ね……」

「しろくじゃく?」

「えぇ、ノアサリーナという……まぁ、聖女様が使役する使い魔よ」


 半笑いでミランダが説明する。

 それから興味津々のシェラに「行ってみようか」と提案した。

「どうせ通り道」そう付け加えて。


 それから氷の馬車に乗って、白孔雀が着地したであろう場所を3人は目指した。

 そして、エルフ馬、それからサエンティとパエンティに出会った。

 街へのお使いに行った帰りだと言う2人に。


 その先は、パエンティの「兄貴の結婚式があってさ」という言葉。

 それからパエンティの「あれが結婚するんだって、ゲーってやつだ。せっかくだから来る? よそ者は縁起がいいから大歓迎だぞ」という言葉に甘えて、馬車に乗ることになった。


「どうせ通り道」


 再びミランダが言った言葉が決め手だった。

 そして今がある。


『カタンカタタン』


 馬車が大きく揺れながら、進む。


「揺れる?」


 パエンティが振り向いて3人に尋ねた。


「やっぱちょっとだめだったか? 人を乗せるようにできてないんだよな、これ」


 続けて振り向くことなくサエンティがぼやいた。


「いいえ。揺れないように魔法をかけたから私たちは快適。静かなのは、2人が大平原に見とれているからよ」


 心配げな2人に、ミランダがにこりと笑った。


「師匠は凄いんだ!」


 バッと振り向いてジムニとシェラが声を揃える。


「信用されるのは悪くないね」


 ミランダが微笑んだ。


「そういえば、さっきの鳥はどこにいったんだ? たぶん、すっごくでかい鳥だろ? いねえじゃねぇか」

「ノアサリーナがトーク鳥に魔法をかけたんだ。返事も書いたからぱっちりさ!」


 ジムニの質問に、サエンティが答える。


「師匠、のあさりーなって凄いの?」

「世界で最も有名な呪い子で、聖女……様だから、多分凄いわね」

「そうそうその通り。さて、ここでクイズ。問題です」


 パエンティが、真面目な声音になった。


「くいず? 師匠、問題だって。答え教えて、師匠」

「はいはいシェラ、まだ何も言ってないでしょう。それにお前も考えなくてはね」

「そうそう。じゃぁ問題! 天の蓋を壊したのは誰でしょう?」


 サエンティの質問に、ジムニが「人が壊したのか?」と悲鳴のような声を上げた。


「ふふふ」


 その言葉にサエンティとパエンティが揃って笑う。

 とても楽しそうに。


「のあさりーなだ!」


 シェラが自信満々に言い、サエンティが「残念」と応じた。


「では、リーダ様かしら? 合ってる?」

「正解」

「さすが師匠!」


 シェラが両手を必死に叩いて賞賛する。


「リーダって、誰だよ」

「ノアサリーナ様の筆頭奴隷よ、ジムニ」

「筆頭奴隷……」

「そうそう。ノアサリーナが手紙でいっつも褒めてるんだ。それに、なんか偉いらしいぞ。奴隷のくせに。でもさぁ、リーダってそんなにすごそうに見えなかったんだよな」

「へぇ。お前……サエンティはリーダに会った事があるのね」

「そうなんだよ。昔、会ったことあるんだけどさ、あいつ肉食って泣いてたんだぞ」

「肉を食べて? ある意味、リーダらしいわね」

「師匠、その人、お腹が痛かったのかな?」

「肉を食ったことなかったんだろ。貧乏だとそんなもんだ」


 シェラとジムニの答えにミランダが口を抑えて笑う。


「そうかもね」


 そして、ミランダは言った。

 会話の間も、そのあとも、馬車は進む。


『ガタタン、ガタタン』


 やがて会話は終わり、車輪の音だけが響く。


「それにしても、どうやって天の蓋を壊したのかしらね」


 誰に聞かせるでもなくミランダが呟く。

 もっとも呟きは誰の耳にも届かない。

 その呟きは、馬車が止まり、車輪が地面を削る音が響いたから。


「さぁ、目的地に着いたぞ!」

「ご馳走だらけの遊牧民のテントだ」


 そしてサエンティとパエンティのあげた声にかき消された。

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